第9話 女の子の気持ち。

 結論から言うと、ティノちゃんの計算は正しかったです。


 ライトアップされた街路樹と、橋と、水路と――。

 美しさに気を取られている梨乃ちゃん。

 その横顔に、見入ってしまったお兄ちゃん。


 さっきまでお菓子作りと肉体作りの話ばかりしていたのに。

 もう、本当に結婚しちゃいなよっ!


 ムードが絶頂を迎えたころ、お兄ちゃんの口から。

「なぜ、キミのような子が、マッチングアプリに手を出したのか、皆目わからん」

 う、うーん。

 本音がぽろっと漏れちゃいましたか。

 梨乃ちゃん、かわいいもんね。


 ちょっとだけ表情を曇らせた梨乃ちゃん。

 失言に気がついて、変な汗を浮かべるお兄ちゃん。

 やりきれない沈黙の後。


「中学を卒業して、家事手伝いになりました」


 わたしと同い年だから、この4月のことね。

 全然、ありだと思うけど?


「幼い頃から決めていたのです」


 やわらかな表情で。

 大粒の瞳をきらっきらに輝かせながら。


「16歳の誕生日を迎えたら、お父さんと結婚しようって」


 ん? あれ?

 ちょっとイヤホンの調子が悪いのかな。

 まあいっか。

 お兄ちゃん、毒を食らわば皿までだよっ!


「それで、結婚はできそうなのか?」

 ぶっ、今それ聞く?


「いえ、できませんでした」

 当然でしょっ!


「残念だったな」

 なにこのふたり。


 ねえ、ティノちゃん。

 どう計算したら、こうなったの?

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