第8話 もしかして計算外?

 デートコースを歩く二人。


 緑の中を30分くらい進むと、

 水路を渡すためのお洒落な橋と、

 いくつかのベンチが見えてきました。


 近頃はVRデートが主流ですが、現実にここまで優美なデートスポットが、あるまじき夏休みシーズンに無人というのは、ちょっと残念です。


 二人は、ベンチに腰を落ち着けます。

 つなぎっぱなしだった手を、見やすい高さまで持ち上げて。

「わっ……、ぐしゃぐしゃです」

「ああ、ずいぶんと汗をかいたな」

 ほどかれたその手を、

 梨乃ちゃんは、惜しむように見つめて。

「このまま余韻に浸りたいところですが、ぬぐいますか」

 お兄ちゃんの首にかけてあったタオルを引いて。

 二人で、にぎにぎにぎ。

 って、そのタオルでいいのっ!?


 おもってたより善戦してるけど。

 ここから先、どういったデートプランを?

『はい。じつはこのベンチから見える景色は、夜の7時半ごろからライトアップされるのですよ。とても美しいと評判なのです』

 まだ夕方の5時半だけど?

『はい。愛し合う二人がベンチで語らえば、2時間などあっという間でしょう』


 ねえティノちゃん。

 ふつうの男女はさ、会ってその日に二人きりでベンチに座らされたら、ちょっと気まずい空気がどわぁ~てなって、ドラマみたいな展開とかは期待できないのよ?

 もしかして、ディープラーニングとか言いながら、かなり偏った恋愛小説ばっかり学習しちゃった?

『いえ、決してそんなことは――』


 本当に?


『ありま、せんよ?』


 あーっ! いま変なところで区切ったーっ!?


 もお~、まだ2時間もあるのに、どうする気よ?

『大丈夫ですって、ほら、お兄さまが口を開きましたよ?』

 えっ、あ、ほんとだ。

 ちょっと意外かも。


「ここに長くいると、虫に刺されるぞ」

 うわっ、デリカシー皆無じゃん。

 梨乃ちゃん、ごめんね?

「問題ありません。こういったケースも想定して、ベアモフには虫よけスプレーをかけておきました」

「それでか。どうもこのベアモフ、ミントの香りが強すぎるとは感じていたのだ。俺の鼻に狂いはなかった」

「褒めてください」

「ああ、どうすればいい?」

「できれば、頭をなでてください」

「よし、よし、これでいいか?」

「えへへ」


 なにこのバカップル。

 もう結婚しちゃいなよ。

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