第7話 初デート

 それは数分前のこと。


 梨乃ちゃんは、ベンチに座らせてあった金髪人形から、クマのぬいぐるみだけをお兄ちゃんに渡して。

「アリスは私が抱きますから、ベアモフは直木さんにお任せしていいですか?」

「ああ、かまわんが」

 しっかりと両腕をつかい。

 ベアモフさんを抱きかかえます。


「これでいいか?」

「さしつかえなければ、片腕のみでお願いします」

 言われるがまま。

 左腕だけで、ベアモフさんを包むように固定します。

 すると梨乃ちゃんは。


 お兄ちゃんのすぐ隣まで、すすーっっと移動して。

 空いた片手に、自らの手を重ね合わせました。


 指のすきまを不器用にからめていきます。


 ああっ、これはっ。

 恋人つなぎの完成ですっ! きゃーっ。


 かくして四つの影は。

 緑の中を横並びで歩き始めました。


 あれれ?

 でも、お兄ちゃんって。


「できれば性格は控えめでたのむ」

 って条件を出していませんでしたっけ?


『はい。お兄さまの条件は、百パーセント達成されています』

 うそでしょ。

 だって、梨乃ちゃん、あんな大胆なのに?

『はい』

 もしかして、バグかな?

『いえ、バグとは失礼ですね。名誉のために判断材料を提示させてください』

 どうぞどうぞ。

『ありがとうございます。たとえば、お兄さまが言う「控えめ」を逆パターンから解析しますと、中でも重みのあるワードは「押しが強い」となります』


 逆パターンなら、そうかもね。


『そして「押しが強い」美少女であれば、先ほどのシチュエーションでは』

「あ、あんたがアリスとベアモフを持ちなさいよねっ!」

『と怒った感じでふたつとも押しつけたあと』


「べ、べつに、手をつなぎたかったわけじゃないんだからっ!」

『と言ってシャツの袖をつかみ、デートコースを先導していたことでしょう』


 なにそのツンデレさん。

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