第5話 出会い。
夏は深くて蒸し暑い季節。
お兄ちゃんが汗だくになりながら、街中の小さな公園に走っていきます。
「おい、ティノー、はあ、はあ……、あそこに見えるベンチが、はあ、はあ……、デートの待ち合わせ場所か?」
シャツを肩から背中へひっさげた半裸のくたびれマッチョ。
頭にタオルをかぶっているため、顔が半分隠れています。
ふしゅ――――っ。
自分を偽らないために、ふだん通りのスポーツマン・スタイルでデートに挑むそうです。が、その姿たるや、身内がひいき目に判定しても変態不審者さんです。
ティノちゃん、サポートよろしく。
『はい。おまわりさんの気配はありません。大丈夫です』
スポーツ用の無線イヤホンにはマイクとカメラが付いていて、お兄ちゃんと同じ景色を見ながら会話ができます。
また、公園近くには見守りカメラが設置されているため、わたしは自室で涼みながらデートの様子をリモートで応援できるのです。
「おい、誰もおらんぞ」
『ベンチをよく見てください』
どれどれ~?
うん、少し遠目ですが、誰かいるようですね。
わたしの言葉を信じてくれたのか、
お兄ちゃんがベンチに向かって距離を縮めます。
「バカに、しているのか?」
えっ、なんで
お兄ちゃんは、拳を堅く握って、そこかしこの筋と血管を浮かび上がらせました。
ベンチに座っている誰かを、わたしもモニター越しによく観察します。
あ、あれは……。
クマですね。ベンチに座っているのは、大きなクマのぬいぐるみ――を、抱いている、女の子のお人形でした。
「どうせ、こんな事だろうと思ったさ――」
全身から力が抜けて、再びしわしわにしおれるお兄ちゃん……。
ティノちゃん、これ冗談にしては悪質だよ?
『いえ、妹さま、お兄さま、おまちください。えー、こほん。運命のパートナーであらせられる、
し~ん。
ミ――ン、ミンミン、ミンミン、ミンミン、ミ――――ン……。
セミが、パートナーでしたか。
というのは冗談で。ティノちゃん、もしや相手方の説得に苦戦している?
『いえ、まったく、苦戦などしておりませんよ? こうした説得によるタイムロスも待ち合わせ時刻を少し遅めに設定した理由であります。ささ、梨乃さま、今こそ勇気を振り絞ってパートナーの前へ』
すると――。
ベンチの後ろから、小柄な美少女がすすーっと、無言で立ち上がったのです。
ティノちゃん、疑ってごめんね?
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