第4話 しぶとかった。

 あれから五日が経ちました。

 お兄ちゃんは、彼女ができるまで断食するという約束を守っています。


「おい、スマートフォンをよこせ……」

 よしよし。

 やっぱり空腹には耐えられませんね。


 でも、お兄ちゃんに彼女を作ってあげたいという、とっても優しい妹をそでにしたわけですから、ただでアプリを使わせるわけにはいきません。


『妹式ニューラルアプリを少子化対策プロジェクト「Go To マリッジモード」に移行します』

 アプリのホーム画面が、春の出会いを連想させる桜並木から、ウエディングドレスを着た美女がブーケを投げるシーンに切り替わりました。


 お兄ちゃんの顔が、しわしわしおれます。

「くっ、なんの冗談だ」

 もういい歳なんだから、彼女を探すとか生ぬるいことを言ってないで、結婚相手を見つけるべきでしょう。

「ば、ばかなっ、結婚は地獄行ゴー・トゥー・ヘルという常識を知らんのか」

 大丈夫、大丈夫。

 ティノちゃんのマッチング機能で結ばれたカップルは、直近2年分のデータで成婚率100パーセントだし、顧客満足度も業界ナンバーワンよ?

「うさんくさいな。それに、ティノーとかいう二次元美少女を客寄せパンダにしておいて、リアルな女性との結婚を推すのは戦略ミスだろう」

 え、なに?

 お兄ちゃんって、ティノちゃんみたいな子が好みだったの?

『残念ながら、私はマッチングの対象にはなりません。しかし、似たようなタイプの女性を紹介することはできます』

 おおっ?

 やってもらいなよ!

「ぐ……ぬ……」


 あれ、もしかして。

 本気で悩んでいる?


「候補者のリストをくれ」

 うわっ!

 お兄ちゃんが出会いを求めたっ!?

 ティノちゃん、押して押して!

『はい、お任せください。ただ、候補者の選定には条件があります。結婚後の生活をより良くするために、互いが一番幸せになれる相手しか紹介できません』

「いいだろう」

 ティノちゃんは、手帳のページをめくる動きで計算を始めました。

 ……ん、あれ?

 首をかしげて、いったんストップします。

『私とよく似た、二次元美少女風のお相手、という条件でよろしいですか?』

「ああ。できれば性格は控えめで、歳は若く、俺のすべてを受け入れてくれる、小柄な美少女が好ましい」

 お兄ちゃんっ!?

『年齢は、下限の十六歳で、保護者の同意が得られている方に限定します。よろしいですか?』

 十六歳って、わたしと同い年よ!?

 それでいいのっ!?

「ああ、構わん。それでたのむ」

 いいんだ……。わたしがお兄ちゃんっ子であることは自覚していたけれど、こういうところで悪影響がでるなら、少し関わり方を正した方がいいかな? でも、国が認めたアプリに許された年齢設定だし、昔は十五歳で結婚するのが一般的だったという記録もあるし? 本人がやる気を出してくれたなら押しまくる方がいいよね。

 ティノちゃん、任せた!

『過去の適正調査と、検索可能なあらゆるデータを照合しました。該当者が見つかりました。今から提示する初デートプランに双方が同意すれば、マッチングが成立します』

「ああ、同意だ」

『双方から同意が得られました。待ち合わせは本日、午後五時。お互いの個人情報は、待ち合わせの直前に、私との会話形式で通知されます』

 お兄ちゃん、がんばって!

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