第2話 うちの日常
高層マンションの最上階に暮らす神場兄妹。
かなり広いそのリビングで、兄は今日も尋常ではない鍛え方で筋肉トレーニングに励んでいた。長身で、均整のとれたスマートな肉体は、まさに鍛え上げられたボディーガードのものだ。
なぜ彼がこれほど体を鍛えているのかというと、きっかけは、とあるライトノベルのエピソードだったりする。
作中の妹キャラが崖から落ちそうになった時、主人公が片腕一本で二人分の体重を引き上げた――そんな定番シーンにいたく感銘を受け、「いざという時、マイを守るボディーガードたるもの、これくらいできて当然だ」と使命感に燃えたらしい。
以前、真剣な顔でそう語っていた兄の姿を思い出し、マイは内心でそっと息をついた。
(あの感動シーンが、まさかこんなストイックな筋トレ生活に繋がるとはね……)
さて、黙々とノルマをこなす兄の傍らで、マイは計画の実行を決めた。
「ねえ、お兄ちゃん」
マイの問いかけに、兄は腕立て伏せの体勢のまま、ぴくりと動きを止める。
「ん、どうした、何か用か?」
ぷるぷる震える筋肉はそのままに、兄は応じた。会話中もトレーニングを中断する気はないらしい。
「そろそろ彼女とか、欲しくない?」
かたぶつな兄から、とぎれとぎれに返答が飛んでくる。
「俺は、おまえの、ボディーガードだ。女にうつつを抜かしている場合ではない」
あまりにも予想通りな即答に、マイは呆れつつも小さく笑みをこぼした。
(ま、即答だよね。昔からわたしのことを大切にしてくれるけど、わたしって超インドア派だからボディーガードとかいらないし? やっぱり、この計画はやるっきゃないねっ!)
決意を固めたマイの瞳が、いたずらっぽくきらりと輝いた。「よし、それじゃあ!」
いよいよ、『お兄ちゃんに彼女を作ってあげよう作戦』の開始である。
それはもちろん兄への思いやりから。それと同時に、自分が育てたアプリの真価を試したいという、開発者としての好奇心からでもあった。
マイはすかさずスマホを手に取った。この中には、彼女が手塩にかけて育て上げた自慢のAIが入っている。
かつて『物理的にライバルをつぶせ』などと物騒な提案をしてきたAIを、友愛シナプス『妹式』によって、真に人を思いやれるAIへと育て上げたのだ。今やそのマッチング性能は、驚くべきことに成婚率100%を誇り、その道二十年の婚活マイスターをわずか三ヶ月で引退に追い込んだという逸話まである。
(さあ、お兄ちゃんにどんな素敵な人が見つかるかな?)
マイは胸をワクワクさせながら、アプリのアイコンをタップした。
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