第433話 ダンジョン探索その2

 天井から落ちて来た半固形の物体を見て、エクスが叫ぶ。


「スライムですか?」

「ぴぎ?」

 スライムのチェルノボクが驚いて鳴いた。


「違う! 魔物じゃない!」

「息を止めるのだわ!」


 落ちてきたのは揮発性の高い毒の液体。罠の一種だ。

 ただし、これまでの罠と違い侵入者に反応するタイプではない。

 一定時間ごとに、自動で天井から床へと落ちるタイプだ。


 罠の解除に時間をかけすぎていた場合、毒に見舞われるということだ。


「くさ! 臭いですよ!」

 クルスはまともに毒を吸って涙目になっている。

 クルスじゃなければ死んでいるところだ。


 俺は急いで風の魔法を使って集めると、重力魔法を使って圧縮する。

 気体を液体へと変えてから、魔法の鞄から取り出した瓶の中へと封印する。


「まだ少し臭いが、息をしても大丈夫だ」

『尋常ではなく臭いのだ』

『くさい』

『チェルはへいき!』


 獣たちは鼻が敏感なので、きつかろう。


「りゃあ! りゃあ!」

 シギショアラは俺の服の内側、その奥へと潜っていく。

 においから逃げているのだ。


「一応解毒しておくのだわ」

「頼む」


 ユリーナが全員の解毒をしてくれている間に、俺は毒の瓶をルカへと渡す。


「一応渡しておこう」

「ありがとう。あとで研究に使わせてもらうわね」

「そうしてくれ」


 毒の組成はルカの分析を待つしかないが、俺は毒罠の仕組みを調べてみることにする。

 今後の罠探索と解除のためだ。


「時間が経ったら天井から毒が落ちてくる仕組みなのは確かだが……」

「無尽蔵に毒があるわけがないのじゃ。どういう仕組みなのかや?」

「気体と液体の状態を一定時間ごとに繰り返しているように見えるな」

「……それこそ、どういう仕組みなのじゃ」

「部屋の構造とか諸々考えるに物理的には難しいかも。魔法的にはどうなの?」


 ルカが物理的に難しいというのなら、難しいのだろう。

 俺がこの罠を設置するとしたらどうやって、実現するか。

 その方法を考える。


「うーん。先日、石と粘土の人形が大暴れしてただろう?」

「そうね。バラバラにしてもすぐに復活するってやつよね」

「その仕組みを使えば。何とかなるかもな」


 毒の液体を、粘土の人形を動かしたときのように操ることは可能だ。

 液体から気体への状態変化が人形よりも難しい。

 だが、圧力を魔法で自在に操作することが出来れば可能かもしれない。


「そういえば、アルラは部屋の構造も石人形に似た原理と言っておったのじゃ」

「そうだな。同じ魔導士なら、出来るだろう」

「ふむー」

「もぅー」


 考え込むヴィヴィを背にのせたモーフィも一緒に考えているようだ。

 首をかしげている。かわいい。


 その時、俺の魔法探知に引っかかるものがあった。


「っと、襲撃だ」「何かくる!」


 魔法で周囲を探知し続けていた俺とほぼ同時に、敵襲に気づいたクルスはやはりすごい。


 先ほどの、毒の罠も何かがある事には気づいていた。

 だが、単純すぎる構造なので見逃してしまっていた。

 油断していたのは俺も同じかもしれない。


 壁の一部が開いて、金属製のゴーレムが登場する。


「オリハルコンなのじゃ!」

 ヴィヴィがゴーレムの素材に高価な希少金属が使われていることに驚いて叫ぶと、

「戦利品!」

 クルスが嬉しそうに聖剣で斬りかかった。


 ゴーレムは一体ではない。合計三体。

「えい! えい!」

 だが、一瞬でゴーレムはクルスに解体された。


 エクスも剣を抜いて斬りかかろうとしていたが、その間もなかった。

「……クルスさん、見事です」

「えへへ」


 クルスを褒めるエクスは少し残念そうに見えた。活躍したかったのかもしれない。

 そんなエクスにルカが言う、


「エクス。雑魚散らしはクルスに任せればいいわ」

「はい」

「破壊神の権能って、使うと疲れるのよね?」

「はい。そのとおりです」

「なら、いざというときのためになるべく温存しておいて」

「わかりました」


 ルカは同じ剣士と言うことで、エクスの指導役のようになっていた。


 一方クルスはオリハルコンゴーレムの残骸を楽しそうに調べている。


「いいオリハルコンだね!」

「うむうむ。後でじっくり調べさせて欲しいのじゃ。研究したいからのう」


 そう言いながら、ヴィヴィはゴーレムの左手の指の一本を手に取って調べている。


「簡単にな、今は簡単に調べるだけじゃ!」

「もっも!」


 そんなことを言いながら魔法を使って調べている。

 それもかなりしっかりと調べているように見える。好奇心が抑えられないのだろう。

 モーフィもゴーレムのかけらの臭いを嗅ぎまくっている。


「俺もじっくり調べたい。ヴァリミエも喜びそうだな」

「そうじゃな。姉上はきっと喜ぶのじゃ」


 このダンジョンは古い。

 ゴーレムに使われている技術も数百年前の物だろう。

 ゴーレムの専門家であるヴァリミエが調べれば、色々わかるに違いない。


「あの。アルラさま」

「どうした? ベルダ」

「先ほどのゴーレムはオリハルコンゴーレムでございますわね」

「そうだな。クルスが完封したが、本来は素早い動きと力強い攻撃を放つ強敵だ」

「ランクはB、いやAかしら」


 ルカが少し考えながら言う。

 一体倒すのにAランク冒険者のパーティーが必要ということだ。

 それが三体いたので、討伐難度はさらに高くなる。


「恐ろしいダンジョンでございますね。構造から罠の数まで初心者向けとは全く違いまする」


 ベルダの頭にあるのは、王都近くの石蛇で崩壊した例のダンジョンだろう。


「あのダンジョンは確かに初心者向けだけど、上級者向けも基本変わらないのだわ」

「そうね、ユリーナの言う通り。中級上級者向けダンジョンとの違いは主に敵の種類よ」

「敵の種類……。オリハルコンゴーレムですね」

「オリハルコンゴーレムなんてめったに出てこないから安心してくれ」

「そうなのですね」


 俺の言葉で、少しベルダは安心したようだった。


 その時、バラバラになっていた、オリハルコンのゴーレムのかけらが再び集合しはじめた。

 そして、すぐに素早く動き出した。

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