第434話 ダンジョンの意図

 動き出したオリハルコンゴーレムを見てもクルスは暢気だ。


「あ、また動いたー」


 すぐにバラバラにした。

 オリハルコンゴーレムも、先日、エルケーで暴れた石や粘土の人形と同じような仕組みのようだ。


 クルスがバラバラにしたゴーレムのかけらを拾いながら言う。


「とりあえず、魔法の鞄に入れておきますねー」

「ああ、頼む」

「ひとかけら、ちょっと貸すのじゃ」

「はい、どうぞ」


 クルスはヴィヴィにオリハルコンゴーレムの右手の指の一本を渡す。

 ヴィヴィはまじまじと調べはじめる。

 ちなみに、ヴィヴィが元から調べていたのは左手の指だ。

 左手の指はなぜか、まだヴィヴィの手の中だ。

 つまりほかのゴーレムのかけらと同じように集合しなかったということだ


「ふむう」

「何かわかったか?」

「アルラ。ここを見るのじゃ。こっちが右手でこっちが左手じゃ」

「なるほど……。右手はゴーレムじゃなくなってるな」

「うむ。登場したときはゴーレムだった。バラバラにされた後は粘土人形と同じじゃ」


 二度目、動き出したときはゴーレムとして動いていたわけではないということだ。


「ゴーレムのころに機能していた魔法陣も、無効化されたままじゃ」

「ヴィヴィの手にあったやつが動かなかったのは、ヴィヴィの支配下にあったからか?」


 ティミショアラがヴィヴィの手元を覗き込みながら言う。


「恐らくはそうだと思うのじゃ」

「ゴーレムを倒した後は、速やかにこちらの魔法の支配下に取り込む方が良いかもしれぬな」

「そうだな。そうしよう。クルス。とりあえず全て魔法の鞄に入れておいてくれ」

「わかりました!」


 魔法の鞄に放り込めば、こちらの魔法の支配下に入ることになる。

 これでゴーレム再起動への対策はばっちりだ


「じゃあ、行きますねー」

「そうじゃな、また毒に襲われてもかなわぬのじゃ」

「もうもぅ!」

『臭いのは困るのだ。フェムは嗅覚が鋭いのだ』

「りゃああ!」

『ちぇるはだいじょうぶ』


 チェルノボク以外の獣たちが臭いのは嫌だと主張する。

 チェルノボクも大丈夫なだけで、臭くない方が好きなのは間違いない。


「これからは注意深く、かつ急ぎ目で進みますかー」

「そうだな、クルス。よろしく頼む」

「わかりましたー!」


 元気にクルスは歩き始めた。その後ろを、みんなでついていく。

 クルスが急ぎ気味で歩くならば、魔法による罠探知はより重要になる。

 俺は一層気合を入れて罠探知しながら進んだ。


 ルカはエクスに優しく語りかけている。


「エクスはオリハルコンゴーレムを倒せる?」

「気合いを入れれば、恐らく斬れると思います。破壊神の権能を使えば、一撃で」

「それは頼もしいわ。私もオリハルコンゴーレムを斬るときは気合い入れるわ」

「剣聖様でもそうなのですか?」

「そりゃそうよ、オリハルコンよ?」

「そうですか。意外です」

「やっぱり、破壊神の力は強力ね。いざというとき頼りにしているわね」

「はい、がんばります!」


 ルカは緊張をほぐしつつ、エクスに力の使いどころなどを教えているようだ。

 ルカにとって、エクスは自分を慕う年下の女の子。

 妹みたいで可愛いのかもしれない。




 その後も、定期的に敵の襲撃と罠に遭遇した。

 三度目の敵を撃退した後、ルカが戦利品を確認しながら言う。


「敵は無生物系が多いわね」

「基本はゴーレムなのじゃ」

「生物だと寿命が来て死ぬからだろうな」


 俺がそう言うと、ルカはうんうんと頷いた。


「それに食べ物も必要になるわね」

「確かにそれもそうじゃな」


 相当に巨大なダンジョンにしなければそもそも維持は難しい。

 巨大だったとしても、密閉されたダンジョン内部で生態系を維持するのは非常に面倒だ。


 意図せず早々に全滅してもおかしくない。

 たとえ全滅しなくとも、全く意図しない分布になるだろう。


「このダンジョンの製作者は、計算しつくして作りたがっているように思う」

「そうじゃなー」

「まあ、その意図がわからないんだけどね」


 ルカがそう言うと、クルスが首を傾げた。


「わからないの?」

「ん? クルス、何のこと?」

「ダンジョンの意図が、なんでわからないのかなって」

「……クルスにはわかるの?」


 ルカは真剣な表情でクルスを見る。あまり驚いてはいない。

 色々難しく考えないクルスだからこそ逆にわかることもある。

 それをルカもユリーナも俺も知っている。

 何よりクルスは勘が鋭い。


 だが、ヴィヴィはとても驚いたようだった。


「そうなのかや? わかるのじゃな?」

「りゃ!」

 シギも驚いている。


「多分だけどー。敵がどんどん強くなっているでしょう?」

「そうね。それはその通りよ」

「で、罠もどんどん難しくなっているでしょう? ね、アルラさん」


 罠解除担当の俺の方をクルスは見る。


「そうだな」

「しかもスカウト型と魔法型を交互に出しているし」

「スカウト型とか魔法型ってなんなのじゃ?」

「クルスの造語だ。それも今造った奴だ。そうだろう?」

「そうです! アルラさんの言う通り、今造りました」


 そしてクルスは説明してくれる。

 スカウト型というのはスカウト技能が高くなければ解除できない罠のこと。

 そして、魔法型というのは魔法技能が必須の罠のこと。


「このことから考えて、バランスの悪いパーティーを確実に殺しに来てますねー」

「なるほどな」


 スカウト技能の不足しているパーティーはスカウト型で。

 魔法技能の不足しているパーティーは魔法型で仕留めると意思をクルスは読み取ったようだ。


 それを聞いて、ヴィヴィが真剣な表情で考え出す。


「確かにゴーレムも硬いのとか、魔法に強いのを交互に出しているのじゃ」

 戦士偏重のパーティーなら硬いゴーレムで全滅する。

 魔法偏重のパーティーなら魔法に強いゴーレムで全滅する。


「毒罠は回復技能が不足しているパーティーを全滅させるためか」


 毒が落ちてくる罠はかわしきるのが難しい罠だ。

 毒に侵された後、何らかの回復手段がなければ全滅必至だ。


 どうやら、このダンジョンはバランスの悪いパーティーに対して、殺意がとても高いらしい。

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