第432話 ダンジョン探索

 ティミショアラがもう一度壁を調べて言う。


「……確かにアルラの言う通りである。我も言われてはじめて気付いたのだがな」

「ティミでも言われないと気付けないレベルの魔法ってことよね?」

「恥ずかしながら、ルカの言うとおりである」


 ティミが気付けないのなら、一流程度の魔導士では当然気付けない。

 とはいえ、ティミならばしっかり観察すれば気付いただろう。

 見落としただけだ。それでもティミに見落とさせるだけで大したものだ。


「シギ。こういう罠もあるから覚えておきなさい」

「りゃあ!」


 シギショアラは俺の懐から顔だけ出して、元気に鳴いた。

 そして俺は罠を解除して無効化する。


「クルス。罠を解除したから進んでくれ」

「あの、アルラさん、ひとついいですか?」

 クルスはすぐには進まず、尋ねてきた。


「どうした?」

「壁が再構成されるってどういうことですか?」

「そうだな。この前、粘土や石で造られた像が暴れまくっただろう?」

 エルケーの街で、不死者の王と戦う前に暴れた像のことだ。


「はい。壊してもすぐ元に戻って暴れるから大変でした」

「あんなような技術を壁に応用している感じだな」


 つまりこの通路自体が魔力を帯びた石像の体内のようなもの。


「やっかいですねー。あれ? でもそれなら爆弾なんか使わなくてもいいのでは?」

「どういうこと?」

 ルカが尋ねる。


「ぼくたちを全滅させたいなら、通路をぎゅっとして押しつぶせばいいかなって」

「クルスは恐ろしいことを考えるのじゃ」

「もぅもう!」

 ヴィヴィが怯えたので、モーフィが力強く鳴いた。

 いざとなったら任せろと言っているのだろう。


「この通路には押しつぶす機能はないな。理由はわからないが」

「アルラさんがそう言うなら安心ですね! 先に進みましょう!」


 クルスが元気に歩き始める。


「クルス、気を付けて進むのよ?」

「ルカ、わかってるよー、ありがと」


 クルスの後ろを歩きながら、フェムが念話で尋ねて来た。

 ちなみにフェムは念話を全員に聞こえるようにしている。


『もし、壁ごと押しつぶされそうになったらどうするのだ?』

「魔法で防ぐさ。障壁を張って壁の動きを阻害したり、壁ごと破壊したり」

『それはどのくらいの魔導士ならできるのだ?』

「俺とかティミならできるかなー」

『ふむ……。つまり、特殊な例外を除く侵入者すべてを殺せる罠になるのだな』

「まあ、そうだ。だがそれを言ったらさっきの罠も普通のパーティーなら全滅だ」

『壁を動かすのは、爆発で壊れた壁を再構成するよりも難しいのだな?』

「いや、壁を動かす方が簡単だろう」

『……わからぬ』


 俺たちの会話を聞いていたルカが言う。


「つまり、フェムちゃんは全滅させたいのなら、壁ごと潰しに来るはずだと考えているのね?」

『そうなのだ。その方が爆発で壊れた壁を治すより簡単なのだろう?』

「フェムちゃん、鋭いわね」

『わ、我は魔狼王なのだから、当然なのだ!』


 ルカに褒められたことが、意外で嬉しかったのかもしれない。

 フェムはものすごく激しく尻尾をばっさばっさと振っている。


「フェム、凄いな」

 俺は歩きながらフェムの頭をわしわしと撫でる。


「私もそのあたりに罠製作者の意図を解く鍵があると思うのよね」

「そうだな。次の罠も調べればもっとよくわかるかもな」



 その後も俺たちはクルスを先頭にダンジョンを進んでいった。

 俺も魔法で敵や罠を探りながらついていく。ちなみに魔法での罠探しは最初から実行している。

 クルスの幸運と直観力だけに頼るわけにはいかないからだ。


 クルスが楽々と罠を三つ看破する。それを俺は解除していく。

 そしてその都度クルスを褒めてやる。


「クルス。素晴らしい成果だ」

「えへへ」

「りゃあ!」


 照れたクルスを褒めるようにシギも鳴く。


「アルラよ、罠はどのようなものだ?」

 ティミから尋ねられる。その問いは罠を解除するたびに発せられたものだ。

 つまり三回目の問いである。


「前回と同じく感知してドカンってタイプだな」

「ふむー。芸がないな」

「だが、見つける難度も解除する難度も上がっている」

「ほう? 同種だが難しくはなっておるのじゃな?」

「もう?」


 ヴィヴィとモーフィが興味を持ったようだ。

 恐る恐ると言った感じでベルダも俺の手元を覗きに来る。


「例えばほら、ここを見てくれ」

「ふむ? そこがどうしたのじゃ?」

「さっきの罠ではここから解除すればよかったのだが……」


 ティミがあっと声を上げた。

「そこから解除しようとしたらドカンだな!」

「そうそう。あえて似た罠を用意することで油断させる気なのだろうな」

「これが本当のダンジョン。恐ろしいのでございますね」


 ベルダが緊張した様子で言った。


「ベルダも潜ったことのある王都近くのダンジョンの方が一般的だ」


 ベルダは竜騎士団の新人たちと王都近くのダンジョンに潜ったことがあった。

 ちょうどその時に石蛇ストーンナーガによって入り口が崩落した。

 そして俺たちに助けられたのだ。


「そうなのですね。あのダンジョンとは全く違いますゆえ戸惑ってしまいました」

「そうだな、あのダンジョンは結構魔物も出て来たしな」

「そういえば、敵にまったく会いませんねー」


 そんなことをクルスが言ったそのとき、天井からボトボトボトと何かが落ちて来た。

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