第369話

 最終チェックをしてみると、ヴィヴィの魔法陣の凄さがわかる。


「それにしても、断熱効果がすごいな。ここで暮らせそうなぐらいだ」

 ヴィヴィの魔法陣の腕前の向上のおかげだろう。

 タントのような家のない子供じゃなくとも、ここで暮らしていけそうだ。


「残念ながら居住性が向上してしまったのじゃ。もう少し隙間風吹かせておいた方がいいかや?」

「いや、大丈夫だ。居住性は向上しても、人間関係がしんどそうだからな」


 ならず者七人。監守なしで狭い場所に閉じ込めるのだ。快適ではないだろう。

 いや、快適ではないどころではない。少しまずい気がしてきた。

 喧嘩で死人がでてもおかしくない。


「……冒険者にご飯運びだけじゃなく監守も頼むしかないか」

「……そうじゃな」


 俺はちらりとタントを見た。タントに頼むことも考えたがやめたほうがいいだろう。

 監守を子供に任せるのはまったくもってよくない。


「冒険者が滞在してもらうなら、さらに居住性を上げたほうがよいのじゃ」

「頼む。その間、俺は掃除をしておく」

「おれも、て、手伝います!」

「ありがとう」


 もともと監守用の部屋はあるのだ。それにヴィヴィが魔法陣を刻んでいく。

 俺とタントは一緒に掃除をした。


 加えてヴィヴィに頼んで、牢屋の喧嘩を止めるための魔法の仕掛けを作っておく。


「ここを操作すると雷撃が出るのじゃ! 死ぬことはないがしばらく動けなくなるのじゃ」

「おお、素晴らしい。これで大丈夫だろう。一旦冒険者ギルドに戻るか」

「よし、タント。わらわたちと一緒に来るのじゃ」

「はい」


 だいぶタントは落ち着いたように見える。

 牢屋の外に出ると、吹雪いていた。


「こんなに吹雪くのは久しぶりだな」

「そうじゃな! 冒険者ギルドに急ぐのじゃ」

「あ、あの。上着おかえしします」


 タントが俺が与えたローブを返してこようとする。


「それはタントにやる。着ておきなさい。寒いか?」

「い、いえ、暖かいです。ありがとうございます」

「ならばよかった」


 ローブには耐魔、耐衝撃、耐熱に加えて、耐寒耐暑などの魔法がかかっている。

 だから、充分暖かいはずだ。


 タントを抱えて、ヴィヴィがモーフィの背に乗せる。


「アルも乗るのじゃ」

「三人はどうかと思う」

「もっ!」

 モーフィが乗れと言ってくる。自信があるのだろう。


「わかった。頼む」

「もっもー」

 俺が乗ると、モーフィは元気に走り出した。


「りゃあ」

 タントを警戒してか、静かにしていたシギショアラが小さく鳴いた。


 モーフィが走ってくれたおかげで、俺たちは冒険者ギルドにすぐ到着した。

 俺たちが、モーフィの背中から降りていると、クルスが駆け寄ってくる。

 いつものようにクルスは獅子の被り物をかぶっていた。


「アルさん! お疲れさまです! どうでした……。む? その子は?」

「牢屋の先客で、タントという子だ」

「そうでしたかー。タントちゃんよろしくねー」

「は、はい、よよろしくおねがいします」

 明らかに怯えている。獅子の被り物を喜ばない子供は初めてかもしれない。


「変わった格好をしているが、危ない奴じゃないから安心しなさい」

「はい」

「わふわふ!」

「ひぃっ」


 フェムにも怯える。フェムは大きいので怯えるのは仕方がない。

 それからみんなにタントのことを紹介しておいた。

 タントは相変わらず怯え気味だった。そのうち慣れるだろう。


「お菓子でも食べなさい。あったかいお茶もあるわ」

 ルカがタントを椅子に座らせて可愛がっている。

 タントがお菓子を食べ始めたのを見て、ルカは安心したようにこっちに来る。


「タントちゃんのことは、とりあえず置いといて……。牢屋の準備はできたのかしら?」

「ヴィヴィのおかげで牢屋の準備は完了だ」

「さすがヴィヴィちゃん!」

「もっも!」

「大したことではないのじゃ! アルの力も大きいのじゃぞ」


 クルスはヴィヴィの頭を撫でまくっていた。

 モーフィも嬉しそうにヴィヴィの手を咥えている。


 そして、俺はルカに尋ねる。


「尋問はどうなった?」

「みんな素直に話してくれたわよ。フェムのおかげね」

「わふぅ」


 フェムは誇らしげに、尻尾を振りまくっていた。


「さすがフェムだな!」

『当然なのだ!』

 俺はフェムを撫でまくる。

 フェムは尻尾をビュンビュン振りながらも、誇らしげだ。


 ルカによると、一人ずつ順番に全員から話を聞いたとのことだ。

 尋問されていない者たちは、ユリーナが監視し会話させないようにしていたらしい。


「で、なにがわかったのじゃ?」

「御用商人は、ただの悪徳商人みたい」

「黒幕みたいなのはいないのかや?」

「いないというか、自称魔王と魔人が黒幕みたいなものよね」

「それもそうじゃな」

 特に何もないのなら、その方がいい。


「ゾンビに関しては何て言ってた?」

「魔人から受け取ったと言っていたわね」

「儲けた資金に関しては?」

「それが少し面倒なのよね」


 ルカが聞きだしたところ、王国の大都市に預けてあるらしい。

 没収するには色々な手続きが必要だ。代官に任せるしかないだろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る