第370話

 俺とルカが相談している間に、夕方になった。

 レア、レオ、そしてFランクの冒険者たちが帰ってくる。

 ギルドマスターが出迎えていると、クルスが走っていった。


「よく無事に帰って来たね!」

「あ、はい」

「吹雪大丈夫だった?」

「はい。余裕をもって、採集計画は立てているので……」

「冒険者には余裕が大切だからね! すごくいいことだよ!」

「あ、はい。……ありがとうございます」


 Fランク冒険者たちは獅子の被り物をかぶったクルスを怯えたような表情で見る。

 クルスだとわかっているレオとレアはくすくす笑っていた。

 そんなことを気にせず、クルスは言う。


「冒険から帰ってきたところ悪いんだけど、依頼を出したいんだ!」

「依頼ですか? えっと……」

 Fランク冒険者たちは不安そうにギルドマスターを見る。


「変わった格好だが、信用のできるお方だ」

「そ、そうなんですね」

「安心していいわ。私からの依頼ってことにするから」

「ルカさんの依頼なら、何でも引き受けさせていただきます!」


 ルカがそう言って、Fランク冒険者たちは安心したようだ。

 ルカは自己紹介を済ませてあるのだろう。すごく信頼されているようだ。


「ということで、依頼の説明をさせてもらうわね」

 ルカが要領よく説明していく。


 代官が到着するまでの監守をお願いしたいということ。

 その注意点などを説明していく。


「それだけでいいんですか?」

「そうだよー」


 そして監守業務をFランク冒険者たちが引き受けてくれることになった。

 食事の手配など細かい説明をしてから、一緒に牢屋に向かうことにする。


 俺はギルドマスターに尋ねる。

「いま御用商人たちはどこに?」

「魔獣用の檻に放り込んであります」

「会話されたらよくないのではないかや?」

「尋問は終わっておりますし、ユリーナさんが監視を引き受けてくれていますから」

「そういえば、ユリーナのやつおらぬのじゃ!」


 ヴィヴィは今気づいたようだ。ちなみに俺は気付いていた。


「じゃあ、商人とユリーナ呼んできますねー」

「クルス、ありがとう」

「いえいえー。フェムとモーフィついて来て―」

「わふ」「もっもー」


 そして、クルスたちは戻ってくる。ユリーナと商人一派も一緒だ。


「ユリーナ、ありがとう」

「あれ? その子は?」

「タントっていう……」


 そのとき、御用商人を目にしたタントが

「ひああああ、ごめんなさいごめんなさい」

 ものすごく怯え始めた。


「大丈夫だからね」

 そんなタントをルカが優しく抱きしめた。


「御用商人に何かされたのかや?」

「落ち着いたら聞いてみよう。とりあえず、奴らをさっさと移送しよう」

「それがいいのじゃ」


 怯えているタントの目の前から御用商人を消した方がいい。

 それが落ち着かせる一番の早道だろう。


「ユリーナ、ルカ。任せた」

「うん。任せるのだわ」


 そして、俺たちは御用商人を荷台に詰め込む。それをモーフィにひいてもらう。

 Fランク冒険者たちと一緒に牢屋に向かった。

 道中、俺は御用商人に尋ねる。


「お前ら。あの子になにしたんだ?」

「……まったくこころあたりがなくて」

 御用商人の目が一瞬泳いだ。


「そうか。それならいい」


 俺がそういうと、御用商人は安心したようだった。

 牢屋についてから、俺はFランク冒険者たちに魔法陣の説明をする。


「すごいシステムですね」

「そうなのじゃ」

 ヴィヴィは自慢げだ。


「看守業務の際はここで過ごせばいいのじゃ」

「暖かいですね」

「そうなのじゃ! 明日の昼頃までには適当にお菓子とかお茶も買っておいておくのじゃ」

「え? いいんですか?」

「いいぞ。冒険者らしくない業務を無理して頼むのだから、そのぐらいはさせてもらうさ。不満や不足があったら言いなさい」

「ありがとうございます!」


 俺は御用商人たちに言う。

「喧嘩したら、雷を落とすからな」

「はい。肝に銘じます」

「嘘ではないぞ?」

「わかっております」


 恐らく脅しだと思っているのだろう。

 このままだと、すぐに喧嘩するに違いない。

 その時、雷を落とすという言葉の意味を知ってもいいのだが、今知ってもいいだろう。


「ところで、お前、さっきの子になにしたんだ?」

「……え?」

「え? じゃなくてさ」

「私はなにも……」

 俺は無言で魔法陣のスイッチを入れる。


 ――バリバリバリバリ


 牢屋の中に弱い雷が落ちる。

「「「ぎゃあああああ」」」

 痛みとショックで商人一派は絶叫した。


 その様子を見ながら、ヴィヴィは言う。

「死なない程度の雷なのじゃ」

「そ、そうなのですね」


 Fランク冒険者たちは若干引いていた。


「で、なにをしたんだ?」

「私はなにも……」

 即座にスイッチを入れる。再び絶叫が響く。

 落ち着いたら、また尋ねる。


「で、なにをしたんだ?」

「わ、わかりました。全部話します、話しますから……」

 怯えた様子で御用商人は言った。

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