第304話

 次の日。朝ご飯を食べていると、ユリーナがこっちを見ていることに気が付いた。

 俺の前ではシギショアラが一生懸命もぐもぐご飯を食べている。

 きっとその姿に見とれているのだろう。


「シギショアラ、かわいいなぁ。叔母さんのも食べるとよい」

「りゃあ」


 ティミショアラがシギに自分のご飯も食べさせようとしはじめた。


「シギの朝ごはんは充分に量があると思うぞ」

「それは、そうだが……」


 それでも食べさせたいらしい。

 シギも嬉しそうに食べているので、気にしないことにした。


 ふと、ユリーナを見ると、まだこっちを見ていた。

 ユリーナもシギにご飯を上げたいのだろうか。

 そんなことを考えていると、ユリーナが言う。


「アル。朝ごはんを食べ終わったら、ついて来るのだわ」

「む? どこにだ?」

「王都の、リンミア商会なのだわ」


 リンミア商会はユリーナの実家だ。

 豪商でもある。


「精霊石の販売についてか?」

「そうなのだわ」

「わかった」


 ユリーナの父母には、ユリーナと俺が恋人だと説明している。

 すこし、気まずいが精霊石販売のためには、出向かないわけにはいかない。


 朝ごはんの後片付けを済ませた後、俺はテーブルの上に精霊石を並べた。

 上位精霊にお帰りいただいた後、回収した精霊石だ。

 ついでに精霊を縛り付けていた首輪も精霊グッズということで並べておく。


 そして、俺はジャック・フロストの背中から回収したものを思い出した。

 それも一緒に机に並べる。


 そんなことをしていると、獣たちが集まってきた。

 シギは嬉しそうに、精霊石を手に取って転がしたりしはじめた。


「シギ、遊んじゃだめ」

「りゃあ?」


 フェムとモーフィは机の上にあごを乗せふんふん匂いを嗅いでいる。

 弟子たちも集まってきて精霊グッズを手に取ったりし始めた。


「精霊石って綺麗ですね」

「そうだな。みんなは魔石を見たことはあるか?」

「ヴィヴィちゃんが、精製したものを見せてくれました」

「コレットもみたことあるよー。魔石も綺麗だった!」

「ステフは?」

「私も見たことがあるのです」

「そうか。一応、魔石との質感の違いなどを覚えておくといいぞ」

「わかりました」

「おっしゃん、わかった!」

「はい、師匠!」


 弟子たちは真剣な表情で精霊石を見つめはじめた。

 ステフがつぶやく。


「綺麗なのです。でも、精霊を召喚して大きな被害を与えることのできる恐ろしい石なのです」

「そういう考えもできるが……。それは魔石も同じだからな」

「はい」

「月並みな言い方だが、使い方次第みたいなところはある。使いやすさを考えるなら魔石の方が余程怖い」


 弟子相手に即席の授業をしていると、クルスが興味深そうに見てくる。


「精霊石を整理しているんですか?」

「実際に売らないとしても、見せる必要はあるだろうしな」

「なるほどー」


 そして、クルスは精霊の背中から回収したものを手に取った。

 しげしげと見つめる。


「ところで、これって何だったんですか?」


 ジャック・フロストをこちら側に縛り付ける効果があると推測されていたものだ。

 後できちんと調べようという話になっていた。

 そして、ヴァリミエたちに魔法陣や魔動機械と一緒に調査を頼んではいた。

 だが、まだ詳細な報告を聞いていない。

 たくさんのことを一気に調べたので、どうしても忘れがちになる。


「ん? それかや? それはじゃな」

 ヴィヴィが説明してくれる。


「それは小さいが魔動機械じゃぞ。核に精霊石がはめ込まれているのじゃ」

「その精霊石を使うことで、ジャック・フロストたちはこちら側にいれたってこと?」


 クルスの問いに、ヴィヴィは深くうなずいた。


「そうじゃ。それをつけている限り、そして核の精霊石がなくならない限り、精霊はこちら側におれるのじゃ」

「それは便利だね。精霊王ちゃんにつけてもらえば……」

「じゃが、その機械には行動支配の魔法陣も組み込まれておるのじゃ」

「小さいのに、すごいね」

「まったくもってその通りじゃ。これだけの大きさにそれだけの機能を持たせるのは至難の業じゃぞ」


 ヴィヴィはその小さな機械を手に取って、改めて眺めた。

 そんなヴィヴィにクルスが尋ねる。


「行動支配っていうと……猛吹雪状態を維持しつづけろとかそういうのかな?」

「いや、ジャック・フロストが存在するだけで、周囲は吹雪くのじゃ。その機械に入っていた命令は密集しろじゃな」

「それで一杯いたんだねー」

「そういうことじゃ」


 クルスは近くで大人しくしているレアに笑顔を向ける。


「これもレアちゃんが作ったの?」

「……作った覚えはあります」

「やっぱりそうなんだ。レアちゃんは、凄腕だね」

「でも……。私はその作り方を知らなかったと思うのです」

「どういうこと?」


 レアは思いだすようにゆっくりと語りだす。


 魔動機械と魔法陣。それぞれなら作る自信はある。

 だが、それらをうまく組み合わせる発想はなかった。

 とてもじゃないが、使われている技術を自分が思いつけるとは思えない。


「でも、作ったんでしょう?」

「はい。どうして作れたのか……。改めてみても、感心するばかりです」

「黒幕が教えたのかなー?」


 教えたうえで、記憶を操作したのかもしれない。

 だが、教えられる知識があるのならば、自分ですればいいのだ。


「ううむ……どういうことだ?」

「催眠状態で、思いがけない発想が浮かんだとかでしょうか? ルカ、そう言うことってあるの?」


 クルスに問われて、ルカは考える。


「絶対にないとは言い切れないけど、普通はないわよ」

「そうなんだねー」


 そうだ。普通はないのだ。

 謎が深まってしまった。

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