第266話

 ティミショアラと試合するとなると、俺も手は抜けない。


「シギ。ちゃんとティミと俺の試合を見ておくんだぞ」

「りゃっりゃっ!」


 シギショアラは目を輝かせていた。

 そんなシギの頭をティミは撫でる。


「叔母さん頑張るからなー」

「りゃあ」

「お、そうだ。アルラの弟子たちにも見せたほうが良いな。少し待つがよい」


 そういって、ティミは駆けていく。そして、古代竜の男爵コヴァスを連れてきた。


「コヴァス男爵。我とアルフレッドラ閣下が試合を行う」

「アルフレッドラ閣下とですか?」

「そうだが」

「失礼を承知で申し上げます。あくまでもアルフレッドラ閣下は人間でございます。果たして……」


 コヴァスは遠慮がちにこちらを見てくる。

 いくらなんでも古代竜の大公の係累である子爵と、人間が勝負になるわけがない。

 そう思っているのだろう。


「ふむ。コヴァス男爵。そなたの気持ちはわかる」

「はい、アルフレッドラ閣下の身に何かあれば、大公殿下にも申し訳ないことではありませんか?」


 思いとどまるようにティミを説得しているようだ。


「口で言っても納得は出来まい。見ているがよい」

「ですが……」


 その時、新たに五人の女性たちが部屋に入ってきた。

 全員、普通の女性に見える。だが体内の魔力がすさまじい。

 全員が古代竜の貴族なのだろう。


 全員が、ティミの前に来てひざまずく。


「ティミショアラ子爵閣下。何があったのかは存じませぬが、お考え直しを」

「ふむ。まあよい。もし危険だと思えば止めるがよい」

「そうはおっしゃいましても……」

「古代竜の貴族が六人もいるのだ。いくらでも止めれるであろう」


 ティミがそういうと、古代竜たちは互いに顔を見合わせる。


「で、そなたたちを呼んだ本題だが、戦いの余波から、ほかの者たちを守ってくれぬか?」

「それは、もちろん構いませぬが……」

「アルフレッドラの弟子たちは、アルフレッドラほど強くないのでな」


 それからティミは俺の方に来る。


「貴族どもが無礼ですまぬな。アルラほど強い人族に会ったことがないのだ」

「気にしてないさ」

「うむ。そう言ってくれると助かる。では始めようか」


 ティミは古代竜の姿に戻る。それから古代竜の貴族たちに向けて言う。


「そなたたちも竜の姿に戻るがよい」

「わかりました」


 コヴァスを含めて六人が、一斉に古代竜の姿に戻った。


「ひぃ」

 ステフは怯えていた。


「安心するがよい。危害を加えようとしているわけではないのじゃ」

 そういっているヴィヴィも少し震え気味だ。


「壮観ですね。ルカちゃんが見たら喜びそう」

「すっごーい」

「もっも!」


 エルフの姉妹と、モーフィは嬉しそうだ。モーフィなどコヴァスの足にまとわりついている。

 一方フェムはお座りの体勢で、固まっていた。

 本能的に怯えてしまうのだろう。

 それでも震えず、尻尾も股に挟まないのはさすがと言える。


「では行くぞ」

「おう」


 俺がそう返事をすると同時に、魔力の奔流に襲われる。魔力ブレスだ。

 魔法障壁を展開し、ブレスをしのぎ切る。


 俺はひざが痛いが、魔法を使って瞬間的に加速することは出来る。

 だが、足を使った高速機動でかわし続けるのはさすがに分が悪い。

 それゆえ、固定砲台になることにした。


 魔法の矢。魔法の槍。重力魔法。火炎魔法に、氷結魔法。

 俺は多種多様な魔法を使って、ティミを攻撃していく。

 ティミも多種多様な魔法で反撃してくれる。

 シギの教育のためだろう。


「りゃりゃ!」

 シギは俺の懐から顔だけ出して、鳴きながら羽をバタバタさせる。

 喜んでいるようで何よりだ。


 俺とティミは、しばらく魔法を撃ち合った。


「……Ryaaaaaa」

 見学している古代竜の貴族たちが驚いているのか、唸っている。


「楽しいなぁ、アルラよ!」

「そうだな」

「ふふふ」


 ティミは俺の返事が嬉しかったのか、嬉しそうに笑う。

 笑いながら、重力魔法をぶちかましてくるので、まったく油断できない。

 火炎弾を撃ち込みながら、俺はシギに語り掛ける。


「シギ。いろんな魔法を使えるのは武器になるんだ」

「りゃあ」

「手段が色々あれば、なにが来るのか相手に読まれにくくなる」

「りゃっ」

「だがな。一番対処しにくいのは、一番単純な攻撃でもある」

「りゃあ?」

「つまりこういうことだ」


 俺は全力の魔力弾を撃ち込んだ。


「ぬおおおお」

 ティミの攻撃が止まる。防御に専念しなければ、魔力弾を防げなかったのだ。

 ティミの障壁により、俺の魔力弾は防がれ拡散しながら逸れていく。

 そのまま壁と天井にぶち当たった。そして壁と天井が砕けた。


「……Rya」

 古代竜の貴族のつぶやきが聞こえる。

 宮殿は古代竜の力に耐えられるようになっている。

 人族の攻撃で壊れることなど想像すらしていなかったのだろう。


「なにぃ!」


 ティミも驚いている。

 砕けた天井が崩落する。がれきの一つ一つが、とても大きい。

 そのがれきに、俺は渾身の重力魔法をかけた。

 がれきは急激に加速し、ティミへと降り注ぐ。


 ティミは魔法への対策ばかり考えていたのだろう。

 だから、物理攻撃への対処が遅れた。


「うおおおおおおおお」

 ティミは降ってきたがれきの直撃を食らう。

 重力魔法で重さが数百倍にもなったがれきである。

 さすがのティミもがれきに押しつぶされて、床に体を押し付けられた。

 そうなっても、俺は重力魔法を緩めない。

 その上から、さらに魔法障壁で押さえつけた。


「まだだ!」

 ティミが対抗して重力魔法と魔法障壁を同時に発動する。


「なにっ!」


 一瞬がれきが浮かびあがった。尋常ではない魔力である。

 ティミの尻尾が一瞬自由になった。薙ぎ払われる。


 ――ガガガギン


 防御のために五枚張った魔法障壁を、尻尾は四枚破って止まった。

 危ないところだ。

 すかさず、俺は重力魔法と魔法障壁を追加する。


「ぬうおおおおお」

 それでも、ティミは重力魔法から逃れようともがくが、叶わなかった。


「……降参である」

「ティミ。お疲れさま」


 そう言って俺は魔法を解除した。


「りゃっりゃっ!」

 シギはとても嬉しそうに鳴いた。

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