8章

第255話

 ジャック・フロスト事件がひとまず落ち着いた次の日。

 朝起きてシギやモーフィ、フェムと一緒に食堂に向かうと、ヴィヴィがフル装備でいた。

 分厚い皮の帽子を被り、同じくらい分厚い皮のミトンの手袋をつけている。

 暖かそうなコートの上にマフラーを巻き、防水機能の高そうなブーツをはいていた。


「ヴィヴィ、どこかにいくのか?」

「うむ。少し外に行こうと思っていたところなのじゃ」


 外に行くということは除雪だろうか。

 ならば、俺も手伝った方がいいだろう。


「朝ごはんを食べたら、俺もすぐに行くぞ」

「そうかや? じゃあ、早く食べるといいのじゃ」


 そう言いながら、ヴィヴィはモーフィを撫でている。

 分厚いミトンの手袋の感触は気持ちがよいようだ。


「もっもー。もうもう」

 嬉しそうに鼻をふんふんさせていた。


「そうじゃ。シギが着れる防寒具を作ったのじゃ」

 そういって、ヴィヴィは小さなコートを取り出した。


「ありがとう。いいのか?」

「よいのじゃ。暇なときに作った物じゃからな」


 聞けば俺たちがジャック・フロストや精霊王を相手にしていた夜に作ったらしい。

 一晩で作ったとは思えないほど、作りがしっかりしている。

 ヴィヴィの裁縫技能はかなり高いようだ。


「すごいな。本当にありがとう」

「りゃ! りゃ!」

 シギも嬉しそうに鳴いて、ヴィヴィに頭を下げていた。


「気にするでないのじゃ」

 そういって、ヴィヴィはシギの頭を撫でた。


 そこにコレットがやってくる。

 コレットもヴィヴィに負けず劣らず重装備だった。


「おっしゃん、おはよう!」

「コレットも外に行くのか?」

「そだよー。おっしゃんもどうかな?」

「ああ、俺も朝ごはんを食べたらすぐに行くぞ」

「やったー」


 コレットはすごく喜んでいた。


「してんのー、いこう!」

「うむ。アル、早く来るのじゃぞ!」

 そういって、ヴィヴィとコレットは外に行った。


 俺はシギショアラにご飯を食べさせながら、自分も食べる。

 フェムもモーフィも美味しそうに朝ごはんを食べていた。


 ご飯を食べ終わってから、外に向かう準備をする。

 俺たちも暖かい服を身につけることにした。


「フェムもモーフィもちゃんと着ような」

「わふ?」

「もっも」

 一応、フェムとモーフィにもクルスにもらった馬着をつける。


「嫌だったら、脱いでもいいぞ?」

『気にしないのだ。あったかいのだぞ』

「もっもー」

 フェムもモーフィも結構気に入っているようだ。


「シギも暖かくしような」

「りゃっりゃー」

 シギにも、先程ヴィヴィから貰った暖かい防寒具を着せてやる。

 もこもこのフード付きのコートだ。尻尾と羽を出せるようになっている。

 めちゃくちゃ可愛い。ティミショアラに見せてやりたい。


「りゃぁ」

 シギも嬉しそうだ。

 

 もこもこの獣たちを連れて、外に向かう。

 すぐにコレットが俺に気づいた。


「おっしゃーん。こっちだよー」

「アル、待っていたのじゃ」


 コレットとヴィヴィは二人で雪だるまを作っていた。

 結構、大きな雪玉を転がしている。

 そして、さらに大きな雪玉がもう用意されていた。あっちが土台だろう。

 ということは、今転がしているのは頭部分に違いない。


「あれ? 除雪は?」

「除雪は昨日やったのじゃぞ?」

「そだよー。今日は遊ぶ日だよー」

「りゃ! りゃ!」

 シギが大喜びで、雪玉の上に乗る。


「シギ、似合っておるな! サイズもぴったりじゃ」

「りゃあ!」

「シギもすごく喜んでいるぞ。ありがとうな」

「気にしなくていいのじゃ」


 それから、雪だるま制作を再開する。


「もっもー」

 モーフィも転がすのを手伝おうとして頭で雪玉をつんつんしていた。

 そして魔狼たちがフェムの周りに集まっている。


「わふ」

「わふわふ」「わふ!」


 魔狼たちはフェムの馬着が気になるようだ。

 フェムは自慢げに胸を張っている。尻尾もピンと立ち、魔狼王らしい堂々とした姿だ。


「きゃふ」「きゃふきゃふ!」

 子魔狼たちもやってくる。


「りゃあ!」

 シギは雪玉の上から、子魔狼たちのところへと飛んでいった。

 雪まみれになりながら、ころころ転がっている。


 それを見ていたら、コレットが言う。


「おっしゃん、雪だるまの頭乗せるの手伝って!」

「おお、いいぞ」

 雪は意外と重いのだ。

 俺は雪玉を魔法で軽くして、土台に乗せる。


「おっしゃんすげー!」

 コレットが手をぱちぱち叩いて大喜びする。


「あー、してんのーだ!」

「雪だるま、でかい!」「スゲー」


 ムルグ村の子供たちが集まってきた。

 最近、吹雪の激しい日々が続いていたから外で遊べなかったのだろう。

 子供たちは嬉しそうにはしゃいでいる。


「してんのー、あそんでー」

「仕方ないのじゃ」


 そして、ヴィヴィが言う。


「アル! 雪合戦をするのじゃ」

「いいぞ」

「やったー、おっしゃんやろうやろう」


 ヴィヴィ、コレット、村の子供たちと一緒に雪合戦を始める。

 シギと子魔狼たちは飛びかう雪玉が面白いのだろう。

 大喜びで、飛び交う雪玉に向かってぴょんぴょん跳びついていた。

 とても可愛らしい。ついつい頬が緩んでしまう。


「りゃぶっ」「きゃぶ」

 シギと子魔狼の一匹の顔面に雪が当たった。

 泣くかと思って身構えたが、平気なようだ。シギも子魔狼たちも成長したのだろう。

 雪玉がぶつかるのが嬉しいのか、シギも子魔狼もキャッキャとはしゃいでいた。

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