第256話

 雪合戦など、子供のころ以来だ。久しぶりにやると意外と面白い。

 子供たちと遊んであげるためにやり始めたのに、俺は自分でも楽しんでいた。


 童心に帰ってしばらく雪合戦をしているとステフが通りかかる。


「ステフもどうだ?」

「ステフ! こちらに味方するといいのじゃ!」

「ステフねーちゃん、あそぼう」

「参加させていただくのです!」


 ステフも張り切って参戦する。

 ステフは、魔導士の割に身のこなしが素早かった。

 雪玉のコントロールもいい。

 それゆえ、ステフは子供たちから大人気になった。


「すげー! ステフねーちゃん、すげー」

「大したことではないのです!」

 ステフも楽しそうに遊んでいる。


「りゃっりゃー!」「きゃふきゃふ」


 ステフの雪玉にあたるのがシギショアラと子魔狼たちにとっては特に楽しいらしい。

 おそらく、かなりの速度で飛んでくるのが楽しいのだろう。

 それに、ステフは子供たちに配慮して、雪玉を柔らかめに作っている。

 だから、当たっても痛くないのだ。

 ステフは子供と遊ぶのがうまいらしい。意外な特技である。


 一方、モーフィとフェムは少し離れたところで、雪に穴を掘っていた。

「もっも!」

「わふ!」


 何か相談しながら、掘っているようにも見える。

 かなりの積雪だ。そこに除雪した雪が積み上げられている。

 雪が厚く積み上がっているので、掘りがいがあるのだろう。

 ほんとうに、穴を掘るのが好きな奴らである。


 俺は穴掘り組を放っておいて、雪合戦を楽しんだ。

 しばらくして、子供たちもさすがに疲れたのだろう。

 ちょうど昼時ということもあり、休憩になった。


 俺は子供たちに言う。

「汗かいたまま放置しておいたら、風邪ひくからな。汗を拭いてきた方がいいぞ」

「わかった!」「お昼ごはん食べたらすぐもどるね!」

 子供たちは家に戻っていった。


「師匠。さすがなのです」

「え? なにがだ?」

「体力無尽蔵な子供たちのほうが先に疲れて休みたがるなんて、普通ないのですよ!」

「そんなものか」

「はい!」

 ステフも故郷の村ではよく子供たちと遊んでいたようだ。


「コレットも、一度汗を拭いたほうがいいぞ」

「おっしゃん、わかった!」


 俺たちも一度、衛兵小屋に戻ることにした。

 フェムとモーフィの方を見たが、穴掘りに一生懸命だった。


「フェム、モーフィ。お昼ごはん食べるぞ」

「わふ!」「も!」

 ご飯と聞いて大喜びで駆けてくる。


「一生懸命、何を作ってたんだ」

「も?」

 モーフィは首をかしげる。特に何も考えていなさそうだ。

 一方、フェムは胸を張って言う。


『快適な穴を作っているのだ』

「快適な穴?」

『そうなのだ』

 フェムの鼻息はふんふんと荒い。


 魔狼たちは、今は小屋に住んでいる。だが本来であれば巣穴が住処だ。

 だから、巣穴っぽい穴を作るのが楽しいのかもしれない。


 それから、小屋に戻って昼ご飯を食べる。

 食べている途中でティミショアラがやってきた。

 それまで極地の竜大公の宮殿に行っていたはずだ。

 食堂に入るなり、シギの姿を見つけて、ティミは目を見開く。


「おお、シギショアラ! 可愛いではないか」

「りゃあ!」


 シギは食事中もコートを着ていた。コートが余程気に入ったに違いない。

 室内でコートは行儀が悪いが、それほど堅苦しいことを言うこともないだろう。


 食事中のシギをティミは抱き上げる。


「素晴らしい衣装ではないか」

「ヴィヴィが作ってくれたんだぞ」

 俺がそういうと、ティミがヴィヴィに頭を下げた。


「ありがたいぞ。ヴィヴィは凄腕だな!」

「気にしなくていいのじゃ」


 昼ご飯を食べた後、俺たちはまた外に行く。

 雪合戦をしたり、雪だるまを作ったりして遊んでいた。

 ティミも外に出て、少し遠くからシギの様子を眺めていた。


 雪合戦の合間、俺はふと、気になってフェムたちの方を見た。


「おおっ?」

 いつの間にか、フェムとモーフィは大きなかまくらを作っていた。

 かまくらと言っても、雪の壁に横穴掘った形式のものだ。

 だが、中がとても広い。二十人ぐらい入れるだろう。


 かまくらに村の子供たちも気付いた。


「すげーー」「なにこれー」

「も?」

「フェムとモーフィがつくったの?」

「わふ!」「もっも!」


 フェムとモーフィは子供たちに囲まれている。

 フェムもモーフィも子供たちには人気の様だ。


「すごいねー」「りゃあ」


 コレットとシギがフェムとモーフィを撫でに行った。

 フェムもモーフィも自慢げに胸を張る。


 だが、ヴィヴィは真面目な顔で言う。


「崩落が心配じゃ」

 そんなことをいいながら、ヴィヴィが壁に魔法陣を刻んでいった。

 子供が中に入って遊んでいて、崩れたら事故になりかねない。


「これで大丈夫じゃ」


 さすがは魔法陣の専門家だ。

 これで、子供たちだけで遊んでも大丈夫だろう。

 フェムとモーフィも感謝するかのように、ヴィヴィに頭をこすりつけていた。


 思えば、ヴィヴィは最初のころ、フェムに怯えていた。

 今となってはすっかり慣れたようだ。良いことである。


 その日は日没まで、子供たちやモフモフたちと外で遊んだ。

 たまには子供たちと遊ぶのも楽しいものだ。

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