第254話

 ヴィヴィが俺の方を見た。


「アル! そなたの弟子はどうなっておるのじゃ!」

「優秀な弟子をもって、俺は鼻が高いぞ」

「えへへー」

 コレットが照れる。

 俺はコレットの頭を撫でてやった。


「ミレットの成長も著しいぞ」

「アルさんの指導がいいからです」

 ミレットも嬉しそうだった。

 

「もっにゅもっにゅ」

 一方、もう一人の弟子ステフは、まだモーフィに手を咥えられていた。

 ヴィヴィが元魔王軍四天王という事実を受け止め切れていないのだろう。

 今はそっとしておくべきだ。


 そして、魔王軍四天王の五人目は俺の方に突っ込むようにやってくる。


「どんな訓練をしたのじゃ!」

「えっと……基本を重視した訓練なのだがな」

「ほうほう?」


 興味津々のヴィヴィにコレットが言う。


「魔法体操だよー」

「魔法体操とな?」

「こうやって、こうやってー」

「ほうほう」


 コレットが笑顔でヴィヴィに魔法体操について教えてあげている。

 魔法体操とは俺が考えた、画期的な体操だ。

 身体を動かしながら意識的に魔力を循環させるのだ。

 そうすることで、体内魔力を活性化させ、魔力操作にも慣れることができる。


「コレット姉さま! 魔法体操、私にも教えてください!」


 我に返ったステフが言った。

 あくまでも魔法体操は初心者向けの体操として開発した。

 ステフは基礎ができている。だから教えていなかったのだ。


「いいよー」

 コレットが嬉しそうに教えている。

 一方、咥えていた手を抜かれて、モーフィは寂しそうにこっちに来た。

 とりあえず、モーフィを撫でてやる。


 そうしながら、大人しくしているフェムに尋ねる。

「フェム。魔狼たちは大丈夫か?」

『大丈夫。もう今朝から狩りにも出ているのだ』


 ジャック・フロストに遭遇したら、魔狼と言えども凍死させられかねない。

 だから、外出できなかった。外出できないと狩りもできない。

 魔狼たちは困ってしまう。

 ジャック・フロストがいなくなった今、外に出れるようになったのだろう。


「あれだけの吹雪の後だが、獲物はちゃんと捕まるのか?」

『いつもよりは難しいと思うのだ。だけど魔狼たちは頑張っているのだぞ。ちゃんと捕まえたのだ』

 そういいながら、フェムはこちらに寄ってくる。ひざの上に顎を乗せる。

 俺はフェムもモーフィと同じように撫でてやる。尻尾がビュンビュンと揺れた。


「そうか。困ったことがあればいうんだぞ」

『ありがと』


 その時玄関の方から声がした。

「ただいまー」

「帰ったぞー、シギショアラは起きておるか?」

 クルスとティミショアラが帰ってきたのだ。


「りゃっりゃ!」

 ぱたぱた羽をはばたかせ、シギは玄関の方へと飛んでいった。


「おお、シギ、お出迎えしてくれるのか。可愛いなぁ」

「りゃっりゃー」


 すぐにクルスとティミが食堂にやって来た。ティミはシギを抱きかかえている。


「クルス。領地の点検にいっていたのか?」

「そうです! よくわかりましたね。さすがアルさんです!」

「点検って、クルスちゃん、どこにいってたの?」

 ミレットがクルスに尋ねた。


「領主の館に行って、それからティミちゃんに手伝ってもらって、村々を回ってきたんですよー」

「大変だねー」

「そうでもないよー」

「クルス。領民は無事だったか?」

「はい。全部の村を回りましたけど、大丈夫でした!」

「全部回ったのか。さすが、ティミだな」

「うむ。我にかかれば余裕であるぞ」


 ティミはどや顔だ。

 クルスが真面目な顔で言う。


「アルさん。ぼく知らなかったんですけど……。別に道を使えなくても大丈夫らしいですよ」

「そうらしいな。俺も知らなかった」


 村は自給自足が基本だ。

 余剰作物を売りに行ったり、生活用品を買いに行くことはある。

 それでも、食べる分は自分の村で作るのが基本らしい。


「ぼくは王都暮らしなので、知りませんでした」

「俺は田舎出身だが……町だったからな……」

「でも、チェルちゃんの村は心配ですね」

「ああ、俺たちが色々支援物資を運ぶべきかもしれないな」

「はい」


 クルスは真剣な表情でうなずく。


「問題はチェルちゃんの村と領主の館近くにある街ぐらいですね」

「自給自足ではないからな」


 街は人口が多く、畑は少ない。

 そして、チェルノボクの死神教団の村は出来たばかりだ。

 両方とも自給自足体制は確立できていない。


「そうなんです。ティミちゃんに物資の運搬を頼むかも」

「任せるがよい」


 ティミショアラがいれば安心である。

 それに魔法の鞄と転移魔法陣を使えば、物資の運搬はそれほど難しくはない。

 領主の館にも死神の村にも転移魔法陣が設置してあるのは幸いだった。


「そういえば、チェルノボクは?」

「今日も死神の村に行ってますよー」

「そうか。チェルも村が心配なのかもしれないな」


 しばらくして、チェルノボクが帰ってきた。


「お、噂をすれば影ってやつだな」

「ぴぎっぴぎっ」

 チェルノボクは帰ってくると、俺のひざの上に飛び乗った。

 そしてふよふよする。


「チェル。死神教団の村はどうだった?」

『だいじょうぶ』

「燃料とか食料は大丈夫か?」

『ねんりょうだいじょうぶ』

「そうか」

『しょくりょうは、このまえもらったぶんがあるから』


 死神教団の村には、先日、狩りで捕まえた肉を運んだ。

 かなりの量があったので、しばらくは大丈夫なのだろう。


「一番不安なのが、まだ完成していないチェルちゃんの村ですからね!」

「ぴぎっ」

「困ったことがあったら、早めに言うんだよー」

 そういって、クルスが俺のひざの上にいたチェルノボクを抱きかかえる。


『くるすありがと』

 チェルノボクは、一層ふるふるし始めた。嬉しいのだろう。


 まだ、ジャック・フロストを大発生させた犯人が捕まっていないのは心配だ。

 だが、クルス領、未曽有の危機を無事乗り越えたのは確かだ。

 今は喜んでいいだろう。


 その後帰ってきたユリーナたちと一緒に楽しく夕ご飯を食べたのだった。

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