第233話
衛兵小屋を出ると、相変わらずの猛吹雪だった。
「もっも!」
「モーフィがかき分けてくれたのに、もうだいぶ積もってるなー」
「も!」
モーフィはぐいぐいと雪をかき分け進んでいく。
「もっもっも!」
「モーフィはすごいのじゃ!」
ヴィヴィは嬉しそうにはしゃいでいた。
モーフィの後ろについて、倉庫まで進む。
それから倉庫の転移魔法陣で死神教団の本部まで転移する。
死神教団の本部建物は寒かった。
「かなり寒いな」
「うむ。この部屋にも防衛のための魔法陣は描いたのじゃが、居住性を上げるための魔法陣は描いてないのじゃ」
「道理で寒いわけだ」
そんなことを話していると、司祭が走ってきた。
誰かが転移魔法陣を通過すると音が鳴るような仕組みになっているのだ。
「これは、教主さまに伯爵閣下。それにみなさままで。よくお越しくださいました」
「ぴぎっ!」
チェルノボクが司祭の胸に飛び込んだ。司祭はそんなチェルノボクを優しく撫でる。
司祭と初対面のステフを紹介してから、クルスが笑顔で言う。
「ムルグ村がものすごい吹雪に見舞われてるので、こっちは大丈夫か見に来たんですよー」
「それはありがとうございます。こちらも昨日から急に激しい吹雪に見舞われまして……」
「やはりそうでしたかー。困っていることはありませんか?」
「色々とあるのですが……」
司祭は困っていることを話していく。
主に、魔法陣の描かれていない家がとても寒いとか、食糧の備蓄が心細いとかである。
説明を聞いてから、俺は尋ねた。
「燃料の薪は大丈夫ですか?」
「道づくりで伐採した分がありますので、まだ余裕があります」
「それはよかった」
「はい、これで燃料まで不足していたらと思うと、ぞっとします」
司祭に抱かれたままのチェルノボクが、激しくふるふるした。
「ぴぎっぴぎっ」
「どうされましたか?」
『おにくもってきた』
それをうけてクルスが言う。
「チェルちゃんとみんなで狩りをしたから、おすそ分けですよー」
「それはありがたいことです。とても助かります」
まず、俺たちは食糧庫の方へ向かった。
死神教団の村におすそ分けする分は、魔猪一頭とロック鳥の肉の半分だ。
これで、しばらくは持つだろう。
「本当にありがとうございます」
『ありがとありがと』
司祭とチェルノボクがしきりにお礼を言う。
チェルノボクはふるふるして可愛いので撫でてやった。
食糧庫をじっくり見ていたヴィヴィが真面目な顔で言う。
「食糧庫が不安なのじゃ。肉を魔法の鞄から取り出すのは少し待つがよい」
「えっと、食糧庫になにか?」
司祭は不安そうだ。
「なに、わらわが状態不変の魔法陣を描いておくのじゃ。そうすれば肉の長期保存も可能になるのじゃ」
「そ、そんなことができるのですか?」
「任せるがよい」
ヴィヴィは食糧庫を隅々まで見る。そしてステフに向けて言う。
「ステフよ。とりあえず、見ておくがよいのじゃ。まあ、今はわからぬかも知れぬがのう」
「あ、はい。ありがとうございます」
「りゃ!」「も!」
ステフだけでなく、シギショアラとモーフィまでヴィヴィの様子をじっくり見始める。
モーフィは少し前から魔法陣に興味を持っている気配がある。
状態不変の魔法陣は簡単ではない。複雑で高度な魔法陣だ。
にもかかわらず、ヴィヴィはあっという間に描き終えた。
「ヴィヴィ、見事だ」
「ふへへ。当たり前なのじゃ!」
俺が褒めると、ヴィヴィは照れる。
ステフがぽつりとつぶやく。
「まったく、わからなかったのです」
「まあ、難しいからな。わからなくても仕方がない」
それから全員で応接室に向かう。
応接室の暖炉には薪がくべられ、暖かかった。
「村の地図はあるかや?」
「あ、はい」
ヴィヴィに促され司祭が村の地図を持ってくる。
「これにはすべての家が書かれておるのじゃな?」
「はい。家が完成するたびに書き込んでおりますゆえ」
「ということは、まだ魔法陣を描いていない家は、ここらの十軒じゃな?」
そういいながら、ヴィヴィは家を指さしていく。
「そのあたりはごく最近建てた家ですから。恐らくそうかと思います」
「この十軒にも人は住んでおるのじゃな?」
「はい、既に居住しております」
確認をとると、俺とヴィヴィは魔法陣を描きに行くことにした。
「アル。わらわがいつもかけていたのは、断熱、耐火と耐衝撃、対振動じゃ。でも今日は緊急事態ゆえ、時間がかかるようなら断熱だけでも良いのじゃ」
「いや、一度見せてもらえば大丈夫だ」
「そうかや? ではついて来るがよい。ステフもじゃぞ!」
「はい! 了解なのです」
「もっも!」
モーフィまでついて来ようとしたので、俺は止める。
「モーフィはクルスたちと作業をしてくれ」
「もう?」
「恐らく除雪作業だろうし、クルスたちの方が人手ならぬ牛手が必要だろう」
「も!」
納得したモーフィを置いて、俺たちは魔法陣の描かれていない家に向かった。
「積もった雪がすごいのじゃ」
「魔法で何とかしよう」
魔力弾で吹き飛ばしながら、家へと向かった。
家の住人は突然の来訪に驚いていたが、魔法陣を描きに来たと伝えると、喜んでくれた。
ヴィヴィの魔法陣の効果は皆が知っているのだ。
ヴィヴィの魔法陣を観察した後、俺もヴィヴィと手分けして魔法陣を描いていく。
ステフにはヴィヴィの作業を見学させた。
手分けしたおかげで、二時間ほどで十軒の家全てに魔法陣を描き終えることができた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます