第232話

 魔狼たちが餌を食べ終わってから、俺は観察した。

 寄ってくる魔狼たちを撫でながら、体調が悪そうなものがいないか様子をみるのだ。


「きゃふきゃふ!」

「りゃ!」

 子魔狼たちも元気そうだ。

 餌を食べ終わると、早速、シギショアラとの遊びを再開した。

 子魔狼たちは大人の魔狼たちより元気なぐらいだ。

 餌も優先的にもらっているのだろう。


「フェム。なにか問題はあったか?」

『大丈夫なのだ』

「それならよかった。狼小屋の中は意外と暖かいんだな」

『ヴィヴィのおかげなのだな』


 フェムもヴィヴィを認めているようだ。

 それから俺たちは狼小屋をでて、吹雪の中を衛兵小屋に戻った。

 ミレットが待機していた。


「狼さんたち、どうでしたか?」

「魔狼たちは問題なさげだ。だが、村の皆が心配だな」

「そうですね」


 そこにヴィヴィが通りかかった。


「なんじゃ。まだ吹雪いておるのかや?」

「そうなんだ。昨日より激しいぐらいだ」

「それは困るのじゃ」


 そんなヴィヴィに、フェムが言う。


『ヴィヴィありがとう』

「な、なんじゃ」


 フェムにお礼を言われて驚いたような表情を見せる。


『狼小屋は暖かかった。助かったのだ』

「なんだ、そのことじゃったか。気にするでないのじゃ」

 ヴィヴィは笑顔になった。


「ヴィヴィ、村の家とか牛小屋には魔法陣って描いてあるのか?」

「うむ。描いてあるのじゃ。牛の世話が終わった後に少しずつ描いていたのじゃぞ」

「ヴィヴィは、ほんとうに偉いな」

「もっも!!」「りゃ!」


 俺はヴィヴィの頭を撫でてやる。

 モーフィもヴィヴィの手を舐めまくっている。

 シギはヴィヴィの肩に乗って、頭を撫でていた。


「やめ、やめ……まあいいのじゃ」

 ヴィヴィは「やめるのじゃ」と言いかけたが、シギに撫でられて言うのをやめた。

 シギは可愛いので、シギに向かって「やめるのじゃ」とは言えないのだろう。


「ヴィヴィが家に魔法陣を描いてくれていたのなら、ひとまずは安心かな」

「そうですね。ヴィヴィちゃんありがとう」

「気にしなくてよいのじゃ!」


 それからミレットが言う。


「私、ちょっと村の様子を見てきますね」

「一緒に行こうか?」

「いえ、大丈夫ですよー」

「だが、雪が大量に積もっているから」

「も!」

「モーフィちゃん。来てくれるの?」

「もっも!」

「ありがとう」

「わらわも行くのじゃ。牛が心配なのじゃ」


 ミレットとヴィヴィは、村の様子を見に行くようだ。

 二人だけなら少し心配だが、モーフィがついて行くなら安心だ。


「モーフィ、頼むぞ」

「もぅ!」

 

 ミレットたちが衛兵小屋から出て行って、数分後、クルスたちが起きてきた。


「雪降ってるんですか。心配ですね」

「いま、ミレットとヴィヴィが村を見に行ってくれているぞ」

「昨日、王都の天気はよかったのだけど……こちらは大変なのだわ」

「人手が必要なら、王都の仕事をお休みして手伝うけど、どうかしら?」


 ルカの申し出はありがたいが、今はまだ大丈夫だろう。

 そう考えていたら、クルスが返事をする。


「ルカ、ありがと。でもまだ大丈夫だよー」

「クルス、遠慮はしなくていいのだわ」

「ユリーナもありがとうねー」


 そんなことを話している横で、チェルノボクはふるふるしている。

 きっと、死神教団の村が心配なのだろう。

 そんなチェルノボクの上にシギが乗っている。


「りゃあ?」

「ぴぎぃ」

 なにか会話を交わしているようだ。


「チェル、あとで死神教団の村にも行こうな」

「ぴぎっ!」

「そうですね、心配ですもんねー。お肉を持っていくついでに見に行きましょうか」

『ありがと』


 その後、俺たちは肉を分けた。

 ムルグ村に残す分と、死神教団にもっていく分だ。


「ムルグ村の分は全部配っても腐っちゃうかもですし、すぐに食べる分以外は倉庫に入れとくのがいいかもですね」

「そうだな」


 それから、ミレットとヴィヴィ、モーフィが戻ってきた。


「帰りましたよー」

「お帰りなさい。村はどうだった?」


 ミレットとヴィヴィたちは玄関先で雪をおとしながら言う。


「みんな戸惑ってはいましたが、とりあえずは大丈夫ですね」

「もっもー」


 モーフィも雪だらけだ。きっと、村に積もった雪をかき分けて進んだのだろう。

 俺はモーフィの体から雪をおとしてやる。


「モーフィ、お疲れ様だぞ」

「もう!」

「ヴィヴィ、牛はどうだった?」

「元気だったのじゃ。外で運動できないから退屈そうではあったのじゃが……」


 外で遊べないのはかわいそうだが、しばらくは牛たちには我慢してもらうしかない。


 その時、ヴァリミエがやってきた。いつものように朝ごはんを食べに来たのだろう。


「すごい雪なのじゃ!」

「やむ気配がないんだよな。少し困る」

「ゴーレムが必要なら、いつでも貸し出すのじゃ」

「ありがとう。必要になったら頼む」


 それから、俺たちは死神教団の村へと出発する。

 同行してくれるのは、クルス、チェルノボクの他に、フェムとモーフィだ。


「わらわも行くのじゃ。死神の村には魔法陣描いていない家も多いからのう」

「そうか、頼む」

「師匠。私も行きます!」


 ヴィヴィとステフも同行を申し出てくれた。もしかしたら人手がいるかもしれない。

「じゃあ、ステフも頼む」

「はい!」


 俺は懐にシギを入れると、死神の村に向かって出発した。

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