第234話

 住居に魔法陣を描き終わってから、俺とヴィヴィ、ステフはクルスたちと合流する。

 クルスたちは、村人たちと一緒に除雪作業をしていた。


「クルス、手伝うことはあるか?」

「大丈夫です。もう、ほとんど終わっていますし」

「早いな」

「モーフィちゃんが大活躍ですから。でも吹雪が収まらないので、またすぐに除雪しないとですけど……」

「まあ、さすがにもう収まるだろ」

「だといいんですけど」


 除雪作業のおかげで、村の中の通行はだいぶ簡単になったようだ。


「もっもー」

「モーフィちゃん、ありがとうよ」

「も!」


 相変わらず、モーフィは人気者だ。

 村人たちに頭を撫でられてご満悦だ。


 深い雪もどんどんかき分けて進み、道を切り開くだけではない。

 村人が掻いた雪をそりに乗せて、村はずれまで運ぶのだ。

 普通の牛と違って、口で言うだけでてきぱき動いてくれるので、ものすごく効率が良い。


「フェムはどうした?」

「フェムちゃんは、チェルちゃんと一緒に周囲を見回ってくれてますよー」


 豪雪の結果、周囲に異変が起きていないか調べているのだろう。

 道の状態なども気になるところだ。


 司祭は食料や燃料などを各家庭に分配したり、困りごとを聞いたりしていた。

 力を合わせて、困難を乗り越えようとしている。良い村だと思う。


 俺とヴィヴィ、ステフも村人に混じって除雪作業に従事した。

 俺はひざが痛いので、スコップなどは使わない。重力魔法で雪を軽くするのだ。

 それをヴィヴィとステフに掻いてもらう。


「めちゃくちゃ軽いのです」

「余裕なのじゃ」


 雪は、ふわふわしている見た目に反して、とても重い。

 すぐ腕が痛くなる。油断すると腰も痛くなる。

 だから、除雪にも重力魔法は便利なのだ。


 除雪を終えたころ、フェムとその背に乗ったチェルノボクが戻ってきた。

 フェムは口に大きな凍った魔猪を咥えている。


「わふ」

「すごいな、どうしたんだ?」

『見回っていたら凍死した魔猪がいたので持ってきたのだ』

「それはすごいな」


 俺はフェムとチェルノボクを撫でまくってやった。

 だが、魔猪が凍死するほど激しい吹雪というのは尋常ではない。

 これからも警戒しなければならないだろう。


「それにしても、雪で臭いや痕跡が消えているし見つけるのは難しかったんじゃないのか?」

『フェムは見つけられなかったけど、隠れているのをチェルノボクが見つけたのだぞ』

「ピギっ」


 チェルノボクはフェムの背の上でふるふるしている。

 前回の狩りの際、チェルノボクは活躍できなかったのを気にしていた。

 だから嬉しいのだろう。


 激しく雪が降り積もる状態で、フェムが気づかなかった魔猪を見つけたのだ。

 臭い以外の魔力などを嗅ぎ取ったのかもしれない。謎の多いスライムである。


『これはこの村に全部あげるのだ。良いか?』

「もちろんいいぞ」


 俺は改めて、フェムとチェルノボクをほめるために撫でまくってやった。


「わふわふ」

「ぴぎっ」


 追加で魔猪の肉を渡された司祭はとても喜んでいた。

 村人も大喜びだ。それを見たチェルノボクも嬉しそうだった。



 その後、俺たちはムルグ村に戻る。時刻は昼前になっていた。


「そういえば、朝ごはん食べてなかったですね!」

「そういえばそうだな」

「朝から大騒ぎしていたので忘れていたのじゃ」

「お腹すいたのです!」


 みんな朝ごはんを忘れていた。

 本当は狼小屋を見に行った後にでも食べるつもりだった。

 ついうっかりである。


「りゃっりゃ!」

 抗議するようにシギが鳴いた。子供に朝ご飯抜きはつらかっただろう。

 途中、何回かおやつとして肉をあげたりはしたが、朝食抜きなのは事実だ。

 反省しなければなるまい。


「ごめんなシギ。いっぱい食べような」

「りゃあ」


 ムルグ村に戻って、衛兵小屋へと入る。


「むむ。アルラたちは遅いのだぞ」

 不機嫌そうなティミショアラが食堂で待っていた。


「どうした、ティミ」

「ミレットに聞けば、シギショアラは朝ごはんすら食べてないというではないか!」

「すまぬ」

「アルラは気が抜けておるぞ!」


 ティミに説教された後、朝ごはん兼昼ご飯を食べる。

 ご飯をシギに食べさせながら、俺はクルスに尋ねた。


「クルスは午後からどうするんだ?」

「そうですね。領主の館に戻って、被害状況とか調べないとですね」

「ムルグ村と死神教団が吹雪いているってことは、クルス領全体が吹雪いている可能性も高いな」

「はい。深刻かもしれませんし」


 そのとき、ティミがぽつりと言った。


「我はしばらく上空を飛んだのだがな」

「それで今朝は来るのが遅かったのか」


 ティミはたまに村に来るのが遅い。

 ティミは暇そうに見えて、大公であるシギの摂政なのだ。まれに忙しいこともあるのだ。


「うむ。……シギ、これも食べるのだぞ」


 ティミの意識は会話よりもシギにご飯を食べさせることに向いている。

 俺も食べさせているのに、その横から、食べさせようとするのだ。


「りゃっりゃ!」

 シギもお腹がすいていたらしく、機嫌よくパクパク食べていた。

 自分たちの食事はともかく、シギの食事に関しては忘れてはいけない。

 反省では足りぬ。猛省しなければなるまい。


「この吹雪は、自然のものではないだろうな」

「そうなのか?」

「うむ。……シギ、これもうまいのだぞ」

「りゃあ!」


 シギが食事を終えた後にでも、ティミから詳しい話を聞かねばなるまい。

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