第176話

 次の日、クルスはユリーナとルカと一緒に王都に向かうことになった。

 色々と宗教団体にかける税金について勉強するらしい。


「私に任せるのだわ。ちゃんと教えてあげる」

「ありがとう、ユリーナ」

「もっと頼っていいのよ!」


 ユリーナはすごくうれしそうだ。クルスの腕に抱き着いて、ニコニコしている。

 それをみてルカは呆れた様子で笑っていた。


「ピギ!」

「チェルちゃんも来る?」

『いくー』


 チェルノボクはクルスの肩にぴょんと飛び乗る。

 一応、チェルノボクは教団のトップなのだ。勉強しようと思ったのだろう。


 クルスたちが王都に向かった後、ティミショアラが言う。

 その腕にはシギショアラが抱かれている。


「アルラたちは、シギショアラと一緒に牛肉を売りに行くのであろう?」

「その予定だ」

「やはり王都か?」

「牛肉の量が大量だからな。大都市の方がさばきやすいだろうし」

「それに、転移魔法陣もつながってるから行きやすいのじゃ」


 俺とヴィヴィの説明をティミショアラはうんうんと聞いていた。


「ふむ。ならば我も行こう」

「それはいいけど、極地の方の仕事は?」

「今日は大丈夫だ。我もシギショアラと一緒に王都に行くぞ!」


 ティミショアラは胸を張る。

 とにかく、シギと一緒に居たいというのは伝わってくる。

 それなら別に断る理由はない。一緒に行くことになった。


 王都に行く前に、俺とヴィヴィは一応変装することにした。

 クルスからもらった狼の被り物と牛の被り物である。


「おっしゃんも、してんのーもかっこいい!」

「そうかな?」

「うん、かっこいいよー」

「もっも!!」

「りゃあ!」


 コレットとモーフィとシギには好評なようである。


 シギが嬉しそうに、羽をバタバタさせたからだろう。

 ティミがうずうずし始めた。


「我も、それが欲しいのだぞ。余っているのはないのか?」

「俺は持ってないけど……クルスなら持っているかも」

「ふむ。そうなのか。王都に行けば売っているのか?」


 ティミは身を乗り出して尋ねてくる。

 多分、王都にも売っていないと思う。少なくとも普通のお店には売ってないだろう。


「どうだろう……。クルスに聞かないとわからないかも」

「そうなのか。残念だ」


 見るからにしょんぼりしていた。少し可哀そうになる。

 俺は狼の被り物を脱ぐと、ティミに手渡す。


「狼の被り物、ティミがかぶる?」

「え? いいのか?」

「うん。俺にはミレットにもらった付け髭もあるしな」

「そうか! では、遠慮なく……」


 ティミが狼の被り物をかぶった。


「シギショアラどうだ? 狼さんだぞー」

「りゃっりゃ!!」

「そうかそうか!」


 シギが喜んで、ティミはとても嬉しそうだ。

 それを見ながら、俺は付け髭をつける。


 よく考えたら、牛肉にかけられた保管魔法の品質保証は俺がしなければならないのだ。

 被り物をかぶったまま品質保証するのは現実的ではない。

 狼の被り物は、店についたらどうせ脱がねばならないだろう。

 その点、付け髭なら、外さなくてもいいので都合がいい。


 それから牛肉を魔法の鞄に詰め込んで出発する。

 同行者はミレット、ヴィヴィにティミとシギである。コレットは幼児なのでお留守番だ。

 前回、コレットがついてきたのは泊まりで、ミレットと離れるのが可哀そうだったからだ。

 今回は転移魔法陣を使うので日帰りなのでお留守番となった。


「おっしゃんたち頑張ってねー」

「いい子でお留守番してるんだよ」

「はーい」


 コレットに見送られながら転移魔法陣が設置されている倉庫に向かう。

 当然といった様子で、モーフィがついてくる。


「もっも!」

「モーフィもお留守番だぞ?」

「もっ?」


 ショックを受けた様子で、モーフィが固まる。

 だが、モーフィは目立ちすぎる。戦闘予定もないのに連れて行くのはよろしくない。


 モーフィは一生懸命、俺の袖を咥えて引っ張る。

 連れて行けとアピールしているのだろう。

 そんなモーフィにフェムが言う。


『当然なのだ。モーフィは目立つのだぞ』

「そうだぞ」

「もぉ……」

「いい子でお留守番していてな」

「モーフィちゃん、一緒に遊ぼう」

「もぅ」


 がっかりした様子のモーフィを俺は優しく撫でてやる。

 コレットもモーフィを撫でている。優しい幼女だ。


『フェムがちゃんとついて行くから、安心してモーフィは留守番をしておくのだぞ』


 フェムがモーフィに向かって諭すように言う。


「いや、フェムも留守番だぞ?」

「わふぅっ!」


 フェムが信じられないといった様子でこっちを見る。


「だって、狼も目立つし……」

『犬みたいなものなのだ』

「いつも自分で犬とは違うって言ってるだろ」

『そ、そんなことないのだ……』


 フェムを犬と言い張るのはだいぶ無理がある。

 草食動物の牛よりも、猛獣である狼の方が脅威度は高い。より目立つ。


 コレットがやってきて、フェムを撫でる。


「フェムちゃんも一緒に遊ぼうねー」

「わふぅ……」


 コレットがモーフィとフェムを連れて行った。

 とぼとぼと去っていくその背中は寂しそうだった。


「可哀そうになってくるのじゃ」

「お土産買って帰れば大丈夫だろう」

「それも、そうじゃな」


 フェムには美味しい肉とか買って帰ればいいだろう。

 モーフィは何をもらえば嬉しいだろうか。後でしっかり考えようと思う。


 そして、俺たちは王都へと向かった。

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