6章

第173話

 チェルノボクをムルグ村に連れ帰った次の日。

 クルスたちは自分の仕事をしに各地に向かった。

 そして俺は自分の仕事である衛兵業務についていた。


「なんか衛兵業務も久しぶりな気がする」

「色々あったからのう」


 ヴィヴィは地面にお絵かきをしていた。

 ヴィヴィは朝から、転移魔法陣を通って教団本部へ行ってきた。

 それで、司祭のセキュリティ登録を済ませてきたのだ。

 遊んでいるように見えて、ヴィヴィは働き者である。


「そうだなぁ」


 天気は良いが、日差しは強くない。気持ちのよい秋の風が吹いている。

 畑の方を見る。収穫の終わった畑で少数の村人たちが何かしていた。

 収穫の後始末的な何かがあるのかもしれない。


「自分たちで作ったイモ畑の収穫はしたけど……。他は手伝えなかったな」

「そうじゃな……。だが、忙しかったしのう」


 収穫後の畑で、シギショアラや子魔狼たちが楽しそうにじゃれていた。

 子供同士仲良くするのはよいことだと思う。

 監督するかのようにフェムが付き添っている。フェムは面倒見のいい魔狼王なのだ。


「村人として一大行事の収穫に参加できなかったのは……残念だ」

「別にイモ畑の収穫はしたし、気にしなくていいのじゃ」

「そうですよ!」


 いつのまにやら、背後にミレットがやって来ていた。

 その後ろにはコレットもいる。


「アルさんもヴィヴィさんも、ものすごく村の役に立ってますよ!」

「ならいいのだけど」

「ヴァリミエさんとアルさんとヴィヴィさんが作ったゴーレムが活躍してましたし」


 そういえば、ゴーレムを作った気がする。

 役に立ったのならよかった。


「おっしゃん! コレットもゴーレム操作して活躍したんだよ!」

「偉いぞ。コレット」


 コレットの頭を撫でてやる。

 コレットとミレットは魔法の修行を続けている。

 ゴーレムを作るのは難しくてもゴーレム操作ぐらいはできるのだ。


「もっも!」


 コレットの後ろからモーフィがやってきた。

 モーフィは村人の仕事を手伝っていたのだ。荷運び等の仕事はモーフィの得意分野だ。

 賢くて力の強いモーフィは大人気である。


「モーフィ、仕事は終わったのかや?」

「もっ!」


 ヴィヴィの問いにモーフィは自慢げに答える。


 モーフィの背にはチェルノボクが乗っていた。チェルノボクは特に何をするでもない。

 村の中を好きに動き回っている。ペット扱いで村人に可愛がられているようだ。


「モーフィ偉いぞ」

「もう!」


 モーフィの頭を撫でてやると、ものすごく嬉しそうに体をこすりつけてくる。可愛い。

 あまりに可愛いからだろう。コレットもモーフィを撫ではじめた。


「もっにゅ、もっにゅ」


 一方、モーフィは俺の手を咥えた。甘えているのだ。


「モーフィは本当にもにゅもにゅするのが好きだなー」

「もにゅ」


 魔別とやらは済んでいる。好きなだけ、もにゅもにゅさせても大丈夫だ。


「わらわもモーフィにもにゅもにゅしてもらいたいのじゃ」

「もにゅ?」


 ヴィヴィは嫉妬していた。

 モーフィはクルスと俺の手をもにゅりたがる。神の使徒の手は美味しいのだろうか。

 ヴィヴィはモーフィの前に手を差し出している。


「……もぅ」


 仕方ないなーという感じで、モーフィはヴィヴィの手を咥えた。


「えへへ」

「もにゅもにゅ」


 ヴィヴィが嬉しそうなので何よりである。


 そんなことをしていたら、村長がやってきた。


「村長、収穫手伝えなくてすみません」

「いえいえ、ゴーレムが役立ちましたし。ありがとうございます」


 そして村長はヴィヴィの手を咥えるモーフィを見る。


「モーフィさんにも運搬を手伝ってもらったりしましたし。ありがとうございます」

「もにゅ!」


 ヴィヴィの手を咥えたままモーフィは返事をする。


「それで……、アルさんにまたお願いがあるのですが」

「なんでしょう?」


 村長はちらりとモーフィを見た。


「牛肉を売ってきて欲しいのです」

「お安い御用です」


 牛時代のモーフィの肉が、まだたくさんあるのだ。


「納税のためにお金が必要ですものね」

「はい。再検地はまだなのですが、今から準備しておいた方がいいかと思いまして」

「そうですね」

「それに、村の備品などの購入のためにも現金が必要ですから」


 前回同様、隣町に行くか、王都にもっていくか悩むところである。

 王都へは転移魔法陣がつながっているので、すぐ行けるのだ。


「わふ! わふっ!」


 その時、畑の方で、フェムが吠えた。

 すると魔狼が数頭やってきて、子魔狼を咥えて小屋に向かう。

 フェムはシギの羽の先を咥えると、こっちにタタタと走ってくる。


「りゃあ」


 シギはなぜか嬉しそうだ。

 フェムは俺のもとに到着すると、シギを渡してくる。

 シギを抱きかかえてからフェムに尋ねる。


「どうした?」

『誰かが来たのだ』

「もにゅ!」

「どんな人かわかる?」

『それほど危なそうな臭いはしないのだ』


 念のために子供たちだけ避難させてくれたのだろう。

 とても、できる魔狼王だ。


「一応、シギは俺の懐の中に入っておこうか」

「りゃっりゃ!」


 シギはもぞもぞと俺の懐に入って来る。そして顔だけ出した状態で落ち着いた。

 しばらくすると、十人ほどの集団が近づいてくるのが見えた。

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