第62話

 次の日。俺はいつものように衛兵の業務につく。

 ヴィヴィは牛の世話をしに行った。


 そして、村の入り口にはネズミやモグラの死骸が積み上げられていた。


「これって……」

「わふぅ」


 魔狼たちがほめて欲しそうな顔でこちらを見ている。


「いつも、ありがとうな」


 そういうと、魔狼たちはバッサバッサと尻尾を振る。

 フェムは一番先頭で、ドヤ顔をしていた。


 フェムとは大体一緒にいた。いつの間にネズミ捕りをしたのだろうか。


「フェムもネズミ捕ったの?」

『これなのだ』


 山の中から、一番大きなネズミを取り出して見せる。


『今朝捕まえたのだ』

「そうか。偉いな」

「わふぅ」


 フェムから順番に魔狼を撫でまくってやった。


 俺に見せた後はみんなで食べはじめる。

 見せるためにわざわざ食べずにおいたのだろう。

 ありがたい話だ。



 しばらくすると、ヴィヴィがやってきた。

 牛の世話を済ませたのだろう。


「アル。忘れてはおらぬじゃろうな?」

「なにを?」

「むきーー。種イモじゃ!」

「あ、そういえばそうだった」


 芽が出るまで暇だから小屋を再建するという話だった。


「もう芽が出ているのじゃ」

「植えても大丈夫?」

「もちろんじゃ」


 午後から、俺とヴィヴィは植え付けをする。

 ミレット、コレット、モーフィとフェムもやってくる。


「じゃあ。俺が魔法で地面に穴をあけていくから、ヴィヴィたちは種イモを入れていって」

「わかったのじゃ」

「おっしゃん、わかった」


 ヴィヴィとコレットが元気に返事する。


「土をかぶせるのはミレットと、フェムとモーフィに頼む」

「了解です」

「わふ」「もう」


 作業は順調に進んだ。日没までにすべての作業が終わる。


「お疲れなのじゃ。あとは間引きとか土寄せとかあるのじゃが、それはおいおいじゃな!」

「お疲れ様!」

「ももう!」「わふぅ!」


 モーフィとフェムも嬉しそうだった。




―――――――――――――

 次の日。

 また、魔狼たちはモグラたちを積み上げていた。


「いつもすまないな、……ん?」

「わふ?」


 モグラとネズミの中に、異様なもの見つけた。

 中型犬ほどのネズミだ。


「これでかくない?」

『フェムが捕まえたのだ』


 どや顔だ。ほめて欲しそうに尻尾をバッサバッサ振っている。

 まずはほめてやらねばなるまい。

 フェムから順番に魔狼たちをほめてやった。


 それから、フェムに尋ねる。


「あのさ、フェム。これただのネズミじゃないよな?」

「わふぅ?」

「これ魔獣のネズミ、魔鼠(まそ)じゃない?」

『魔鼠ごとき、フェムの敵ではないのだ』


 フェムはふんすふんすと鼻息を荒げる。


「だろうな」


 フェムは自慢げだが、問題はそこではない。


「この辺りで魔鼠ってよく見るの?」

『ものすごく珍しいのだぞ』


 さらにどや顔になる。珍しくて強いネズミを仕留めたことが誇らしいのだろう。


「お手柄だぞ、フェム。これからも魔鼠を見たら素早く退治してくれ」

『任せるのだ』

「報告も頼むな」

『わかっているのだ』

「調べたいから魔鼠の遺骸もらっていいか?」

『仕方ないのだな』


 フェムは嬉しそうだ。魔狼たちも誇らしげだ。

 だが俺は嫌な予感がしていた。


 ただでさえ、ネズミは伝染病などを媒介する。そして農作物を食い散らかす。

 魔鼠ともなれば、ただのネズミの比ではない。

 年を経た分、身体に持つ病の数は大量だ。

 そして体が大きい分、農作物の食い散らかし方も激しい。


 たった3匹の魔鼠で、畑を全滅させられた村もあるほどだ。



 夕方、やってきたルカに相談する。

 こういうとき、魔獣学者のルカは頼りになるのだ。


「魔鼠?」

「うむ。これなのだが」


 魔法の鞄から魔鼠を取り出してルカに見せる。


「小さいけど魔鼠ね」

「小さいのか?」

「魔鼠の中では小物。この二倍ぐらいにはなるかしら」

「そうなのか」


 恐ろしい話だ。


「いやな感じがするわね」

「うむ。フェムが倒してくれたから事なきを得たが、畑を全部やられたら被害がでかすぎる」

「しばらくは要注意よ」

「わかってる」


 ねずみは1匹みかけたら30匹いると思えと言っていた冒険者がいた。

 それは大げさにしても、注意するに越したことはない。

 ねずみは簡単に増えるのだ。


「それはそれとして、ルカ。モーフィの尿なにかわかった?」

「ああ、魔力濃度が異常に高いわね」

「それ以外は?」

「それ以外は普通の尿ね」

「ふむ。じゃあ、地竜の襲撃とは関係ないのかな」


 となると、先日、襲って来た地竜たちはいったい何だったのだろうか。

 地竜たちはモーフィがおしっこしたとたん襲ってきた。


「例の地竜達って、怪我してなかった?」

「いや、見た感じしてなかったな」

「痩せてはいなかった?」

「どうだっただろうか……。そういわれたら痩せていたような……」


 痩せているどうかは、正直しっかり見ていなかった。


「まあ、ドラゴンは痩せても目立たないから仕方ないけど」


 ドラゴンは皮膚が分厚く、さらに硬い鱗に覆われている。だから痩せても目立たないのだ。


「一度調べてみるべきかな」

「魔狼たちの縄張りの外を?」

「そう。地竜がいたこと自体がおかしいし」

「あたしも同行したいけど……」

「無理するな。ルカが忙しいことは知っているから」

「アルこそ、無理はしないでね」

「ああ、了解した」


 俺は近いうちに調査に行くことを決めた。

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