第46話

 ミレットの作ってくれた朝食を食べて、クルスたちは王都に帰っていった。

 忙しい奴らである。


 俺もいつものように衛兵の業務についた。

 午後からは開墾だ。


「今日は牛耕の続きだな」


 牛耕は3分の1しか終わっていない。


「アル。待つのじゃ」

「どうした?」


 ヴィヴィが小さくなったモーフィを連れてきていた。


「もぉ」

「モーフィに牛耕させるのか?」

「そうなのじゃ」


 モーフィは大きすぎるから農耕に使うのは無理と言われていた。小さくなったので早速活躍させたいのだろう。

 だが、仮にも霊獣さまにそんなことさせていいのだろうか。


「モーフィいいの?」

「もぉぉ」


 モーフィは機嫌よく鳴いている。

 果たして意味が通じているのかは、わからない。


「モーフィも張り切っているのじゃ」

「もぉ」


 ヴィヴィはモーフィが牛耕をしたいと信じきっている。

 だが、忘れてはいけない。ヴィヴィはモーフィの言葉がわからないのだ。


「……まあ、モーフィに牛耕を手伝ってもらうことにするけどさ。様子をみてモーフィが乗り気じゃないようならすぐやめるからな」

「わかっているのじゃ」


 モーフィに牛耕用の犂(すき)を取り付ける。

 小さくなったモーフィは、普通の牛よりも小さめだ。

 普通の牛より力が弱い可能性すらある。


「もぉー」

「わふぅ」


 犂をつけられても、依然としてモーフィは機嫌よく鳴いている。フェムは少し不安げにその様子を見守っていた。


「モーフィ、無理しなくていいからな」

「もおおおおお」


 モーフィはものすごい勢いで、耕し始めた。

 あまりの速さに俺は驚く。


「ちょっ!」

「モーフィは流石なのじゃ」


 ヴィヴィは誇らしげだが、無理してないか不安になる。


「もぉもぉももぉ」


 楽し気に鳴きながら、ぐいぐい引っ張っていく。

 昨日の牛よりも三倍ぐらい速い。

 犂を後ろで抑える俺の方がしんどい。


 モーフィより俺の方が先に休憩を申し出る。ひざが痛い。


「モーフィちゃんすごいですね」


 ミレットも驚く速さだ。


「大きくなってから、モーフィは体を自由に動かせなかったのじゃ。だから楽しいのじゃろうな」


 ヴィヴィもうんうんと頷いている。


「つぎはわらわがやるのじゃ」


 そう言って、モーフィの牛耕犂の後ろにヴィヴィが立つ。


「いくのじゃー」

「もぉー」


 一人と一頭が、はしゃぎながら耕している。

 2日かかる予定の牛耕が、1日で終わった。


「モーフィ、お疲れさま」

「もぉー」


 撫でてやると、モーフィは気持ちよさそうに鳴く。

 俺に顔をぐいぐいとこすりつけてきた。


「モーフィは偉いな」

「もっもぉ」

「わふ」


 モーフィをほめながら撫でていると、モグラをくわえたフェムが来た。


「どうした?」

「わふぅ」


 モグラをくわえたまま、フェムはじっとこちらを見ている。

 ほめて欲しいのかもしれない。


「フェムも偉いぞ」

「わふわふぅ」


 フェムを撫でてやると、嬉しそうにごろんと転がる。腹をわしわし撫でてやった。

 そうしながらヴィヴィに尋ねる。


「次はなにすればいいんだ?」

「砕土(さいど)じゃな」


 ヴィヴィが教えてくれた。

 今日まで牛耕でつかった農具とは違う農具を使うらしい。

 より土を細かくするようだ。


「またモーフィちゃんに頑張ってもらいましょう」

「もぉ」

「わふわふ」


 モーフィは楽しそうに鳴いた。

 フェムも鳴いて、体を擦り付けてくる。フェムも手伝いたいのかもしれない。

 フェムがやれるかどうかわからないが、一応手伝ってもらおう。


「さて、今日も温泉に入るぞ」

「わふ」

「もぉ」

「わふ?」


 俺とフェムが温泉に向かうとモーフィも付いて来た。


「モーフィも入りたいの?」

「もぉ」


 機嫌よく鳴く。モーフィは風呂に入りたいのかもしれない。

 フェムが温泉に入っているのに、モーフィだけダメとは言いにくい。


「モーフィも温泉に入るべきなのじゃ」


 そんなことを言いながらヴィヴィが付いて来る。

 ヴィヴィは子供みたいなものだ。混浴もありだろう。


「もう、仕方ないな」

「なにも仕方なくないです!」


 ヴィヴィはミレットにつかまった。


「離すのじゃ」

「いーえ。離しません。混浴はダメです」


 ヴィヴィはミレットに任せて俺は温泉に向かう。


「わふぅ」

 フェムはどこか不満げだった。


 温泉に入って、モーフィを洗ってやる。


「もおもぉ」

 気持ちよさそうに鳴いていた。


「フェムも来なさい」

「わふ」


 フェムは少し拗ねているように見えた。モーフィに嫉妬しているのかもしれない。

 だからいつもより丁寧に洗ってやった。


「もぉ」


 湯船に入ってからも、モーフィは寄ってくる。

 モーフィは普通の牛よりは小さい。とはいえ、子牛よりは大きい。

 湯船からお湯がざばっとあふれ出す。


「モーフィが入るならもう少し深い湯船がいいかもしれないな」

「もぉ」


 ぺろぺろ顔を舐められる。

 モーフィの人懐こさがすごい。


「わふわふ」


 フェムまで顔を舐めてくる。張り合おうとしないでほしい。

 そのとき、クルスが全裸で入ってきた。


「ただいまー」

「ちょっと、クルス!」

「心配しないでください。ちゃんと体洗ってから入りますよー」

「そういうことではなくて」

「ふんふーん」


 のほほんとしながら、クルスは体を洗っていく。そしてすぐに湯船に入りに来た。

 そしてモーフィとフェムを撫でてやっている。


「いいお湯ですねー。モーフィもフェムも元気だね」

「もぉ」「わふ?」

「クルスはもっと恥じらいを持て」

「恥じらいぐらい持ってますよー」

「クルス、王都の貴族の坊ちゃんたちに、そのノリで接するなよ?」

「えーなんでですか?」


 全裸のクルスが首をかしげる。


「クルスは美少女なんだから。惚れられまくって収拾がつかなくなるぞ」


 顔は美少女なのだ。馴れ馴れしく接していれば、惚れられる。

 ただでさえ、目立ちまくりの栄誉ある勇者さまにして、伯爵さまなのだ。

 

「美少女なんて、恥ずかしいです」


 クルスが頬を赤らめる。


「そこで恥ずかしがるなよ……」


 全裸の方を恥ずかしがってほしい。


「でも、ぼくだって、相手は見ますから安心してください。一緒にお風呂に入る男の人はアルさんぐらいです」

「それは光栄だな」

「えへへ」


 クルスからは、恋愛対象として見られていないのだろう。親戚の叔父さんか、お父さんぐらいの感覚なのかもしれない。


 温泉から出ると、ヴィヴィとルカが待ち構えていた。


「クルスだけずるいのじゃ!」

「えへへ。いいでしょー」

「いい加減にしなさい」


 ルカがクルスの頭をはたいた。

 ルカはクルスに、混浴するなと説教している。クルスは涙目だ。


「そういえば、どうしてクルスもルカもいるの?」

「今日はちゃんと、ぼくもユリーナも仕事を終わらせてきたんですよ」


 クルスは自慢げに胸を張る。ユリーナも来ているらしい。先にミレットの家に向かったとのこと。


「仕事を終わらせてから来るとは偉いな」

「えへへ」

「当たり前のことをなに自慢してるの」

「ルカも仕事を終わらせてきたんだろ? 偉いぞ」

「だから、当たり前なの!」


 そういいながらルカの頬は赤かった。照れているのだ。


「クルスもルカも、夜はムルグ村で過ごすつもりか?」

「そうですよ?」


 クルスは当然といった感じだ。

 俺は寂しくなくていい。王都の守りが少し不安だが、まあ多少はいいだろう。


 そして、夜ご飯を食べにミレットの家にみんなで向かった。

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