第47話

 次の日、またもや朝早くクルスたちは王都に帰っていった。

 クルスたちは今後、夜はムルグ村で生活するつもりなのだろうか。

 俺は賑やかでいいのだが、寝床と食事を用意してくれているミレットに申し訳ない。


「このままではまずいな」


 衛兵の業務につきながら、俺は考える。

 俺の食費と寝床は衛兵の報酬範囲なので村持ちだ。

 ヴィヴィの世話もミレットが村から委託されていることになっている。

 だがクルスたちは違うのだ。


「食費は出さないとダメだよな」

「む?」


 いつものように、地面に魔法陣を描いていたヴィヴィが顔を上げた。


「アル。金はあるのかや?」

「あるぞ」


 俺は魔王討伐の功績で爵位をもらっている。領地はないが、年金があるのだ。

 貴族的生活を送るには足りないが、一般生活を送るには十分な額だ。

 それに冒険者時代の貯蓄もある。

 こう見えても俺は凄腕の冒険者だったのだ。報酬も当然高額だった。


 その時ミレットの妹コレットが、フェムに乗ってやってきた。なぜかコレットはモグラを手にしている。


「コレット、どうした?」

「おっしゃん、もぐらつかまえたよ!」

「わふわふ」


 コレットはフェムと一緒にどや顔をしている。

 開墾しているところからモグラを捕まえてきたのだろう。


「お、おう。偉いな」

「やったー」

「わふ」


 ほめて欲しそうなので、一杯ほめてやった。


 お昼になった。ミレットたちとご飯を食べる。

 ついでにクルスたちの食事代のことを切り出した。


「いえいえ! いただけません」

「いやいや、そうおっしゃらずに」

「いえいえ!」「いやいや!」


 そんなやり取りをひとしきりやった後、受け取らせることに成功した。

 作っていただけるだけでありがたいのだ。その上食費まで負担していただいたら申し訳なさすぎる。

 受け取ってもらえてよかった。



 食事を終えたら、いつもの開墾作業だ。

 俺たちが農地に歩いていくと、モーフィが近寄ってくる。

 農地では大きくなったフェムが待っていた。


「わふ」


 フェムは牛に取り付ける砕土さいど用農具を自分につけて待機していた。


「フェム?」

「わふ」


 フェムは胸を張っている。尻尾も勇ましくピンと立っていた。

 自分でもやれるとアピールしているのだろう。


「それはモーフィのじゃぞ」

「わふー」

「もぉ?」


 ヴィヴィは抗議するが、フェムは目をそらして無視をする。

 モーフィは困惑して、俺の腹に鼻を押し付けてくる。


「農具は他にもありますから。大丈夫ですよ」


 ミレットと一緒にもう一つの農具を準備した。


「フェムもモーフィも頑張ってね」

「わふわふ」「もぉもぉ」


 フェムとモーフィは競うように走り出す。

 当初は互角だった。だが徐々にフェムが遅れ始める。

 蹄と肉球の差だろうか。それとも別の理由だろうか。

 俺にはわからなかった。


「はっはっはっ……」

「もぉ」


 フェムの息は荒い。しんどそうだ。一方モーフィは元気だ。


「フェム、無理しなくていいぞ」

「はっはっ……わふ!」


 少し休憩してまた歩き出した。

 結局、夕方の作業終了までフェムは歩き続けた。


 作業量はモーフィの方が圧倒的に多かった。モーフィ8割、フェム2割ほどだ。


「モーフィもフェムもお疲れ様。助かったよ」


 俺は両者をほめて撫でてやる。

 フェムはしょんぼりしていた。


『情けないのだ』

「そんなことないぞ。フェムも頑張った。役に立ったぞ」

『フェム。すごい』


 モーフィが急に念話で話し始めた。片言だが人間の言葉だ。


「ふぁ」

『わふ?』


 フェムも驚きすぎて、念話でわふとか言っている。

 モーフィは霊獣なので、念話で人の言葉を話せてもおかしくはない。

 むしろ時間の問題ではあった。だがここまで早く話せるようになるとは思わなかった。


「さすがはモーフィ。話せるようになるのが早いのじゃ」


 ヴィヴィも大喜びでモーフィに抱きついている。

 モーフィはフェムのところに行って、ぺろぺろ舐めた。


『ありがと』

「わふ……」


 フェムもモーフィを舐める。

 フェムとモーフィの間に、友情が芽生えた気がした。

 勝負した後、お互いの力量を認め合って友達になる的なあれかもしれない。


 ヴィヴィはそれを見て、うんうんと頷いていた。


「ヴィヴィ。次は何すればいい?」

「もうこの時点で、野菜によっては植えられなくもないのじゃが」

「もう開墾終わり?」

「終わりではないのじゃ。この辺りは土地がやせておるであろ?」

「そうだったね。肥料でもまく?」

「魔鉱石の含有量が多いのがまずいのじゃぞ。だから肥料よりも魔法でなんとかするのじゃ」

「ほほう」


 ヴィヴィはぴょんぴょん跳ねて、畑まで移動する。


「ここで! 魔鉱石除去の魔法陣の出番じゃ」

「そんなのがあるのか」

「ヴィヴィさん、すごいです」


 ミレットも驚いて感心している。


「わらわが開発した魔法陣じゃぞ。これが決め手となって魔王軍四天王に抜擢されたほどじゃ」

「してんのー、すごい」


 コレットが感心している。

 そんな便利な魔法陣があるのなら、既存の畑に描いてやればいいのに。

 そんなことを考えていると、ミレットがヴィヴィに尋ねる。


「他の畑にもその魔法陣って……」

「今は無理なのじゃ。すでに栽培中の畑には描けない魔法陣なのじゃ。だから新たな畑が必要だったのじゃ」

「そうですか。残念です」

「だが、収穫後なら描けるぞ」

「本当ですか?」

「うむ」


 ヴィヴィによると、その魔法陣は効果が十分に発揮されるまでしばらくかかるとのこと。


「明日からがんばろー」

「おー」


 今日もまたいつものようにクルスたちが来た。

 モーフィまでミレットの家の中に入ってくる。


 夜、モーフィは俺のベッドの端に顎をのせて眠った。

 モーフィと一緒に眠りたかったのか、ヴィヴィまで俺のベッドに来た。


 ヴィヴィの気持ちもわかるので、何も言わずに俺は眠りについた。

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