第12話
「わらわになにをする気じゃ、身体は好きにできても心まで好きにできるとは思うでない!」
小屋に連れ込んだらヴィヴィは何を勘違いしたのやら、じたばたしていた。
俺は無視して、焼け落ちた天井の一角を見る。
「あーあー。まったく、(外が)丸見えじゃないか……」
「な、なにを見ているのじゃ……。わらわのいけないところを見つめておるのじゃな? や、やめるのじゃ」
「うるせえ」
「ひっ。魔王軍四天王たるわらわが……下等な人間なぞに辱められるとは……。だが、わらわは負けない!」
ヴィヴィはなにか悲壮な決意をしていた。
『こいつやばいのだ』
「ああ」
面倒なので誤解を解くことにした。
「俺はお前になにかいかがわしいことをするつもりはない」
「だまされないのじゃ!」
誤解を解くのにしばらく時間が掛かった。
「……とりあえず、明日、お前が燃やした屋根を直してもらうからな。それ以外の罰は村のみんなに決めてもらう」
「わかったのじゃ……」
やっと、本題に入れる。俺はため息をついた。
「で、なんで魔猪を育ててたの?」
「ふふ、わらわの計画を聞き恐れおののくがよい。魔猪育成で練習した後、ドラゴンの巨大化を目指すのじゃ。ドラゴン育成の際に魔猪はよい餌にもなる。一石二鳥なのじゃ」
ヴィヴィは素直にペラペラしゃべる。脅したり色々して尋問しないといけないと思っていたので、拍子抜けだ。
ヴィヴィはあほだが、計画はちょっと恐ろしい。実際にドラゴン育成まで進めば。かつ育成が成功すれば、かなり面倒なことになっただろう。
「で、ドラゴン育成してどうするんだ? 魔王軍の再建か?」
「な、なぜわかったのじゃ……」
ヴィヴィは愕然としている。なぜそこで驚くのかわからない。
「巨大化の術式はどういうものだ? 魔猪の巨大化は見事だった。あれほど巨大化させるとは並みの術式ではあるまい?」
「ふふ。下等な人間のわりに見る目があるようだな。あれはだな――」
予想通り、褒めたらヴィヴィは嬉しそうにベラベラしゃべってくれた。
「なるほど、沼の底に刻んでいたのか。気づかなかった」
「じゃろ?」
ヴィヴィはどや顔だ。実際、沼の底にあったとはいえ、俺に気づかせないとは相当な隠蔽術だ。
思ったより優秀な魔導士なのかもしれない。
「じゃあ。明日は魔法陣を消しに行くぞ。それが終わったら屋根の修理な」
「なぜわらわがそんなことせねば――」
ヴィヴィが不満を言いかけた。だが、
「ウーッ、ウーーー」
フェムが唸った。
「わ。わかったのじゃ」
ヴィヴィは納得したようだった。
その後、俺はベッドで寝た。ヴィヴィは空いた屋根の下に毛布を引いて放置だ。
いつもベッドに入ってくるフェムも、今晩ばかりはヴィヴィの近くで見張ってくれていた。
次の日の朝。
村人たちに事情を説明し、ヴィヴィの処遇を考えてくれるよう頼んだ。
「魔猪の凶暴化と巨大化にそのような裏があったとは」
「そのような恐ろしいたくらみが進んでいたとは、背筋が凍るようだ」
村長たちは怯えている。
「それにしても、強力な魔力を持つという魔族を捕えるとは……」
「アルフレッドさんが来てくれて本当に良かった」
「そうそう。アルさんがいなかったら、早晩、ムルグ村は全滅していたに違いない」
「村の恩人だ」
ありがとうありがとうと感謝される。照れる。
「いえいえ、たいしたことでは――」
「たいしたことだよ!」
ミレットが目を輝かせている。
そんな中、ヴィヴィはコレットを含めた子供たち向けて、威張っていた。
「我は王軍の四天王が一人、ヴィヴィ!」
「おねーちゃんすごい」
「かっこいい!」
「すげーー!」
それを聞いていたミレットまで
「あわわ、やっぱり大物魔族だったんだ!」
「下等生物にも我の偉大さを理解するものがおるのか」
「そんな大物を捕まえられるなんて、やっぱりアルさんって、すごいです!」
どや顔のヴィヴィを無視して、ミレットは俺の腕をぎゅっとつかんでくる。
こころなしか、ミレットの目が尊敬に輝いている気がする。
「どした?」
「大物魔族と戦って、アルさん、怪我してない? 大丈夫?」
「大丈夫だぞ。それに四天王ってのは、ヴィヴィの自称だよ」
「そうなんだ。それでもすごいよ! 村を守ってくれてありがとう」
「どういたしまして」
ミレットのエルフ耳の先が赤くなっていた。
お礼を言われるのはやっぱりうれしい。
俺たちが村を出る際、村長が笑顔で言う。
「ミレット。見分役としてついていくといい」
「わかりました!」
そしてミレットは俺に向かってほほ笑む。
「不束者ですが、よろしくお願いします」
村長がつけた見分役ならば、断ることはできない。
「お、おう。危険は少ないと思うが、いざとなれば、俺が守るから安心してくれ」
ミレットは頬を赤らめる。
コレットが後ろから笑顔で叫んだ。
「お姉ちゃんがんばれー」
「ミレット! 頑張るんだぞ!」
村人たちも応援している。
過分な応援に、多少気まずくなりながら、俺たちは魔猪の沼に向けて出発した。
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