第7話
俺はのんびり歩いて村に戻った。
戻る途中、朝日が昇る。
「ま、まぶしい」
ムルグ村に戻ると、ミレットが入り口で待機していた。
「あ! アル!」
「ミレットは朝から元気だな」
俺は徹夜で魔狼と戦っていたので疲れていた。若いころは三日ぐらい完徹しても大丈夫だったのに。
年はとりたくないものだ、などと考えていると、
「せっかく朝ご飯に誘いに来たのに、小屋にいないんだもん! 心配したんだよ!」
「それは、すまなかったな」
すこし強引にミレットに引っ張られながら、ミレットの家へと向かう。
招かれてミレットの家に入ると、ベッドに横たわったままのエルフ幼女がこちらを見ていた。
「妹のコレット。まだ少し熱はあるけど、薬が間に合ったからもう大丈夫」
コレットのかかった病気は致死性の高い危険なものだ。だが、適切な時期に、適切な薬を服用すれば怖くはない。
そういう類の病気だ。だからこそ、ミレットは危険を顧みず急いで薬草を採りに行ったのだ。
「それは何よりだな!」
こういうとき、冒険者でよかったいつも思う。
自分のこなしたクエストで助かった人を見るのは幸せなことだ。
「ほんとうにありがとうございます、アルさん」
深々と頭を下げられる。
コレットも、横になったまま、
「ありがとござます」
舌足らずな感じでお礼を言う。かわいらしい。
「早く元気になるんだぞ!」
コレットの頭を優しくなでた。幼女特有の柔らかい髪だ。
「にへへ」
頭の割に大きめのエルフ耳が可愛く動いた。
ミレットの手作り朝食を食べてから、小屋に帰ると村長が待っていた。
「どうされました?」
「ああ、アルフレッドさん。昨日の狼の声、お聞きになりましたか?」
「はい。すごかったですね」
「昨夜のうちに村が襲われなかったのが奇跡ですよ……、山狩りをするのでアルフレッドさんも参加していただけませんか?」
村長は狼が魔狼、それもフェムほど大きく強い魔狼だとは知らないのだろう。
それはともかく、不毛な山狩りに駆り出されては面倒である。
「村長、実は昨夜のうちに森を見回ってですね……」
「なんと、おひとりで、ですか? いくらアルフレッドさんがベテラン冒険者といっても、危険ですよ!」
村長にきつめの調子で怒られた。
衛兵になってまだ一日。上司たる村長に後先考えられない馬鹿だと思われると困る。
俺は慌てて弁解した。
「いえ! 大丈夫ですよ! 狼退治は得意なんで!」
「いくら得意でも無謀です!」
「実際、狼の群れと遭遇しましたが、戦闘の上、引き下がってもらえましたよ! もうムルグ村には手を出さないって約束を……」
村長が途端に胡散臭いものを見る目で俺を見る。
「人と言葉を交わせる狼なんてこの辺りにはいませんよ。魔狼王でもあるまいし」
完全に嘘つき扱いされている。
「いえいえ! 本当ですって!」
俺はフェムから牙をもらったことを思い出す。
「これ! これもらいました! 村の方々を安心させるものがなにかないか? ってきいたらこれくれました!」
「ふぁっ」
村長は腰を抜かした。
「ひええええ」
村長の悲鳴を聞き付けて、村人たちが集まってくる。
「どうしたどうした?」
「これ。この牙!」
「ふぁっ」
牙を見た村人たちは、驚愕に目を見開いた。
そして、俺に向かって根掘り葉掘り聞いてくる。
「すっごーい!」
いつの間にかにやってきていたミレットは嬉しそうに跳びはねていた。
村人たちに聞かれるまま、昨夜の出来事を一通り説明した。すると、
「そんな……」
「いや、だが、これは……」
「偽物では?」
「いやそれはない」
村人たちが相談し始める、
そんな村人たちを放っておいて、ミレットは、はしゃいでいた。
「アル、すっごーい」
しばらくして、村長が頭を下げてくる。
「アルフレッドさん、疑って申し訳ない。匂いでわかります。これは魔狼王の、それも抜かれて間もない牙です」
匂いでわかるんだ。そっちに俺は驚いた。
村長は獣人だ。獣人には鼻のきくものが多い。
「いえ、気にしないでください」
「魔狼王は主と認めたものに自分の牙を渡すとか」
「む?」
主? そんな話は聞いてないのだが。
「三百年前、この辺りに隠居した勇者がやってきましてな。その際、勇者と魔狼王は争い魔狼王は牙を渡したとか」
「へ、へー……」
話が大きくなってきた。それはそれで困る。
「ち、ちなみに、その魔狼王はどうなったのですか?」
「勇者の死後、いずこかへと去っていったと聞いております。あ、少しお待ちを」
そういうと、村長は自分の家からフェムの牙とそっくりな牙を持ってきた。
「これが三百年前から伝わる村の宝です」
そして
「ね?」
と言いながら、うんうんとうなずく。村人たちもうんうんとうなずいている。
「お、おう……」
ちょっとよくわからない。
ミレットがぴょんぴょん跳ねながら、俺の手を取る。
「ということは、狼さんはムルグ村に手を出さないんだね! すっごーい」
村人たちに笑顔が広がる。
「アルフレッドばんざーい!」
大人たちが騒ぐ中、幼児が笑顔で俺の服をつかむ。
「おっしゃんすごい」
「おう! すごかろ」
とりあえず自慢しておいた。
それから、村長宅に集まって宴会だ。
おっさんとしては、徹夜明けにこの宴会は辛い。でも祝い事だから付き合った。
付き合いは大切だ。田舎ほど、こういう付き合いはないがしろにできない。
衛兵小屋に帰れたのは日没後だった。
徹夜明けに酒も入って限界だ。帰ると同時に、ベッドに倒れ込む。
そのまま眠りについた。
そして、真夜中。
俺は異常な気配で目を覚ました。
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