第13話

「どうしたんだ?」

「何だか元気なさそうじゃないか・・・」

店に入って隣りの席に腰掛けながら男性が言うと

「折角、告白してやったのにフラれちゃったのよ!」

少し酔いが回って来た女性が不機嫌そうに答える。


そんな女性の顔を覗き込むように見た男性は

「何だ、呼び出したのは俺に愚痴を聞かせる為か?」

「俺もそんなにヒマってわけじゃないんだぞ」

言葉とは裏腹に笑顔で冗談交じりに言った。


女性はやや甘えるような視線を男性に向けると

「あんたが付き合ってた女は誰だったっけ・・・」

「なぁんかそいつが私の邪魔してるみたいなんだよねぇ」

そう言ってグラスに残ったカクテルを飲み干すとお代わりを注文した後に

「折角、あんたの言いなりだったんだからもうちょっと付き合っとけば良かったじゃないの!」

責めるような口調で言った女性。


そう、男性は自殺しようとした彼女と交際していた直也で女性は会社の先輩である加藤 翼を追い掛け回していた千影である!


真紀が記憶していた通り、2人は友人であった。


「えっ!?」

「あいつはもう他の男に手を出しちまったのか?」

「まだ俺の女のクセに何、いい加減なことをやってんだ」

自分から別れて於いて所有権はそのまま存在するという実に身勝手なルールを持つ直也が悔しそうな顔をしながら吐き捨てるように言った。


「それで・・・その男に仕返しをしたいってわけか??」

直也がそう言うと

「違うわよ、目障りなあの女を何とかして頂戴!」

千影の言葉に直也は薄笑いを浮かべながら携帯を取り出すと電話してみるが使われていない番号であるという音声が流れ始めた。


「何だ!?いつの間に番号を変えやがったんだ!」

「ちっ、何だか俺も段々と腹が立って来たな」

苛立ちを隠さず直也は怒気を含んだ低い声で言った。


「残念ながらあいつの家までは送ったことが無かったから住所までは知らないんだよなぁ?」

「早速、明日から仲間と一緒にあいつが通ってる大学付近を廻ってみるとするか!?」


「なぁ~に、隠れてたってすぐにみつかるさ」

そう言いながら千影の肩を抱き寄せると

「どうだ、こんな調子じゃ今夜はどうせ暇なんだろ?」

「昔みたいに今夜だけ俺が付き合ってやろうか!?」

直也は千影の耳元でそう囁いた。


2人は高校の頃からずっとそんな関係だった!

欲望のままに求め合う、そんな関係が真紀と付き合っていた時も続いていたのだ・・・

直也や千影からしてみれば真紀のような存在は単なるオモチャみたいなモノで飽きたら捨てるだけなのだ。


「そうね、今夜は彼とするつもりだったんだけど・・・優しくしてくれるなら別に直也でも構わないわよ」

会社では絶対に見せない好色そうな笑みを浮かべながら直也の肩にもたれるとそう言った。


直也は満足そうな笑みを浮かべ

「最近は付き合いが悪いと思ってたらお前はそんな男に入れ込んでたってわけか・・・?」


その言葉に

「面白いけどぶりっこするのも大変なのよ」

「あんただって真面目なサラリーマンを演じながら心の中では嘲笑ってるんでしょ?」

「それってお互いさまかしらねぇ」

吹き出すように笑うと千影は小声でそう言った。


その夜、2人はしばらくそこで飲んだ後、深夜のホテル街へと仲良く消えて行った・・・


高校時代に悪さして遊び回った不良グループ・・・

そんな少年の頃の傲慢さが大人になっても抜け切れない人間と言えばそれまでだが、世の中の怖さを全く知らないだけに何とも厄介な連中かも知れない。

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