第12話
私は直也との付き合った日々や自殺しようとしていたこと、そして彼に助けられたこと・・・
再び公園で出会えたこと、先程の経緯などを包み隠さず全てを西岡千秋と津田に話した。
全てを正直に話すことで忘れようと思った!
でも事の次第を話すうちに再び涙が溢れ出し嗚咽と共に言葉は途切れ途切れになる・・・
「きっとそれは感謝の気持ちじゃなくて恋だよ!」
「あんたの探してる人を私は知ってるけど両親と音楽を続けることで喧嘩して家を
飛び出しちまったからねぇ」
「どこに住んでるかは私にもわからないんだ・・・」
津田が差し出したタオルを受け取り私に渡しながら
「あなたの探してるそいつは加藤翼って名前だよ」
「翼の兄貴である友樹さんに憧れて私も音楽を始めようと思ったんだ!」
「今のあんたと同じってわけだね」
何だか照れ臭そうに言った千秋は豪快に笑うと
「それにしてもあの兄弟は素朴っていうか言葉少なっていうか無愛想に見えるトコが
あるからねぇ・・・」
ため息交じりに千秋はそう言つた。
「さっき見たけどそんなに指先を傷めちゃう弾き方をしてたら痛くて弾けなくなっちゃうよ!」
「私も上手いってわけじゃないけど教えてあげるわ」
私の頭をクシャクシャ撫でながら言った。
千秋の話に寄ると彼のお兄さんにはとても愛する女性が居て、その女性の為に曲を作り歌っていた!
2人は恋人として付き合うという関係では無く、お互いが片想いだと思い込んでるみたいだったそうで千秋としては見ていて歯痒いくらいにチグハグなすれ違いを繰り返していたらしい。
そんな日々の積み重ねの中で女性は不治の病に冒され余命が残り少ないことを知り、彼のお兄さんから遠ざかるように距離を置いた。
そんなことを知らない彼のお兄さんの曲は段々と切なく悲しい曲になって行ったのだが、それがプロへの道を切り拓くことになったのだ!
密かにそれを喜ぶ女性と何も理由を知らずに思いを込め、歌い続ける彼のお兄さんの姿は今でも鮮明に残っていて話している千秋から嗚咽が漏れた。
やがて女性は家族に見守られながらこの世を去った。
そのことを知った彼のお兄さんの後悔と嘆きは尋常では無かったらしく人が変わったように無口になった。
彼と彼の家族はそんなお兄さんの姿を音楽に行き詰った結果だと思ったらしく彼はそんなお兄さんを助けようと音楽に対し真剣に取り組み始めたのだが彼の両親はそれに猛然と反対したらしい。
やがて後悔と絶望の中にあった彼のお兄さんは遺書も残すことなく、自らの命を絶ってしまった・・・
2人を良く知っていた千秋は何度も彼のお兄さんである友樹さんに話そうとしたのだが鬼気としたフインキには人を寄せ付けないモノが有り、話せないままに友樹さんが死んでしまったことを深く後悔していた。
「想いは伝えなくちゃ後悔することもあるんだよ!」
「私が知ってる翼は昔はかなりのヤンチャでねぇ」
「あんたにどんな過去があろうとそんなことを気にするような人じゃないから安心していいよ」
私に励ますような口調で言った千秋は
「この曲だけどあんたが歌詞をつけて歌ってみればいいんじゃないかなぁ?」
私の顔を真剣な表情で見ながら言うと
「友樹さんが何か大切なことを伝えようとして書いた楽譜だろうからあんたの素直な気持ちをこの曲に合わせて歌えばきっとあんたの気持ちも探してる翼に伝わると思うんだけど・・・あんたはどう思う?」
楽譜を興味深そうに眺めていた津田に尋ねるといきなり話しを振られて驚いた表情で
「いいんじゃねえか!?」
「そんな感じの曲に作られてるみたいだしな!」
そのひと言で私のこれからやるべきことが決まった。
「頑張りますので宜しくお願いします!」
新たに目標が加わったことで元気よく言った私を見て嬉しそうに笑いながら2人は快く引き受けてくれた。
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