第7話
あの時に呼び止めれば良かった・・・
そんな後悔が真紀の心の中をずっと支配し続けていた!
色んな場所を探し回ったがあの日から彼の姿をみつけることが出来ずにいたのだ。
もうすぐクリスマスということもあり、街中は何だかキラキラと眩く輝いて見えたが私には幸せな思い出であったはずの過去が今では急に甦っては痛みを繰り返す古傷みたいに残るだけだった!
彼が歌って居そうな公園を方々、探し回っているうちに冷たくなった手をすり合わせながら息を吹き掛けポツリと落ちた雫に暗くなった空を見上げていると、土砂降りになってしまった。
軒先にスクーターを止め逃げ込んだが何だか止みそうにない気がしてため息を漏らした・・・
雪が降り始めるとスクーターで移動するのも無理になって来るから彼を探し出すのが余計に困難となる!
胸にぶら下げたライターをジャンパーの上から握り締めながら再び会えることを祈る。
いつの間にかこぼれてしまった涙を慌てて拭った。
今更ながら振り返って見ると逃げ込んだ軒先は小さな楽器店で彼があの日、弾いていたギターを思い出しながら私は導かれるように扉を押して中に入った。
「いらっしゃいませ」
チャイムの音と共に男性の声が聴こえたが人影は見当たらず他に客の姿も無かった。
自然とギターが並べてあるスペースに向かったが弾いたことも触ったことも無い私にはどれも同じように見えてしまう・・・
値段がそれぞれに違っていて高いギターが良いギターなんだろうなって感じるぐらいだった。
ゆっくりと歩きながら見ているうちに倉庫の入口みたいな場所に立て掛けてあったギターで私の視線は止まったまま、もっと良く見えるようにしゃがみ込んだ!
「そのギターに興味があるのかい?」
背後から掛けられた声に驚いてしまった私は尻餅をついてしまい声の主から支えられ立ち上がった。
「申し訳ありません!」
頭を下げ慌てて謝る私を気遣いながら店主である男性は津田秀人(つだひでと)と自分の名前を名乗り、さっきと同じ質問を繰り返した。
私は慌てて自己紹介をした後に
「素敵なギターで見惚れてしまいました」
「でも私はギターを弾いたことも無くて何もわからないんですけど私に買える値段でしょうか!?」
私は正直な感想を述べたがギターの価値などわかるはずも無く、ただそれと同じギターを彼が弾いていたというのを直感的に思っただけであった。
「それは以前によくここに通ってたお客さんが弾いてたギターで修理の為にウチで預かってたんだけど彼が自殺してしまってねぇ・・・」
「本当に申し訳ないが売ることは出来ないんだよ」
そう言って謝った津田に
「どうしてもこのギターじゃなくちゃダメなんです!」
「このギターを弾いてみたいんです!」
「これが私にはどうしても必要なんです!」
「どうか・・・どうか・・・お願いしま・・・す」
ギターと同化した探し続けても会えぬ彼への想いが涙となり一気に溢れ出した。
「あの頃を思い出すよ・・・このギターの持ち主もそう言って必死に頼んだのが今の君と重なってしまったよ」
「よし!」
「君を彼だと思ってこのギターを返してあげよう!」
「このギターは俺が昔、趣味で作ったんだが奇跡的に良く出来た代物で2つが対になり存在することは死んでしまった彼以外は誰も知らないからこのことは内緒にしといてくれよな!?」
「それと今日からこのギターの持ち主は君なんだから修理代はちゃんと払ってくれよ」
私の肩を叩きながら冗談っぽく笑って言った津田は修理代を支払った私に基礎的な知識を学ぶ為の本を何冊か付けてくれた・・・結局、津田は損をした形だ。
何度も何度もお礼を言いながらギターを肩に掛け、店外へ出てみると雨から雪に変わっていた。
だが肩に掛かる重みは私の心を温かくしてくれた!
店内で弦を変え調音した後に指先で弾いた音が心地良く胸の中で繰り返し響いて冷たい夜風も顔にかかる冷たい雪も今の私には心地よく思えてしまうほどに彼と同じギターを持てたことにドキドキで、とても幸せだった。
リフレイン・・・調音しながら色んなことを津田が丁寧に教えてくれた音楽用語の1つなのだが、なぜか心に残る言葉で弾かれたギターの音が繰り返すように彼の姿を何度も何度も思い出させてくれる。
私は名前さえ知らない彼のことをいつの間にか好きになっていることに気づいていた・・・
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