第47話 京都での戦い①
水野は咄嗟に力を込めて、細い直方体のコンクリートを地面から飛び出させる。
しかしそれがカルラにまとわりつく毒液に触れた瞬間、煙を上げて蒸発させていく。
そのため、足止めとしての役割すら果たせなかった。
「う、うおおお!!」
驚きを隠せない中、中村はなんとか
双方の距離が間近になり、カルラが手の平に毒液のスライムを生成する。
それを水野が付けている軍用マスク目がけて投擲した。
2人は左右に分かれるように避ける。スライムはアスファルトの地面にぶちまけられ、煙を上げながら穴を掘った。
「クソッ!! 逃げるな!!」
カルラはロシア語で叫び、横にいる水野へ襲おうとする。
「撃て!!」
その刹那、ビルに隠れていた皇国軍の兵士が現れ、数発ほど弾丸が撃ち込まれた。
「邪魔だ!!」
カルラはそういい捨て、左腕を思いっきり振り払って毒液を飛ばす。
それらはビルの柱や道路、兵士に付着して煙を上げながら蒸発する。
兵士がそれを目の当たりにした途端、壁の向こう側に待機していたソ連軍による
「グレネード!!」
それに気が付いた皇国の兵士が声を上げ、味方に知らせる。
兵士たちは慌ててビルの中に逃げ込んだり、後方へ全力疾走した。水野と中村は道路の両端へ逃走を試みる。
「ミズノ! 逃げるな!」
それに気が付いたカルラは中村やグレネードに目もくれず、水野へ突進した。
全てがビルの1階と2階の境目にぶつかった瞬間、弾薬が爆発し瓦礫と爆音を地へ叩きつける。
続けて
壁は炎上している
そこから火と瓦礫を潜り抜けて、
「クソッ、なんで俺に固執するんだよ!!」
水野は先ほどのT字路から小通りを通って路地裏に回り、そこから複雑に掻い潜っていた。
カルラは無尽蔵のような体力で執拗に追い回し、その対応に水野は疲れてきた。
「もう体内の資材は少ないし、振り切って合流しないと……ん?」
水野はふと床に目が向かう。
足元には新しい黒錆色のマンホールが鎮座していた。
「これだ!」
「ミズノ! 殺す!」
追い付いてきたカルラが水野を視認するや否や声を上げ、毒液を飛び散らかしてくる。
水野は言葉を発する余裕もなく姿勢を低くして、マンホールの蓋を左手で触れて吸収する。その最中、毒液が頭上を通過し、水野の寿命を縮めさせた。
すかさずカルラは右手に毒のスライムを生成し、水野目がけて投げつける。
水野は着弾する直前に右手で
そして咄嗟に左手で手すりを掴み、攻撃を凌ぐことに成功した。
「待て! 殺してやる!」
カルラが大声を上げて穴の方へ駆けつける。
左手でぶら下がっている水野は一瞬、取っ手から手を離した。
そして手を突き出して、先ほど吸収したマンホールを生成する。少し余った量は、中央に鍾乳石の様に垂らして取っ手として活用した。
素早く右手で抱えていた
突起から左手を離して、暗闇へ消えようとする。
その刹那、マンホールが溶けて、毒液をまとったカルラと少しの光が降り注いだ。
「ミズノ!」
「うわああ!!」
カルラは毒液で包まれた両手でしっかりと軍用マスクを握られる。
水野は唐突な事象に驚き、足を滑らせて落ちてしまう。
掴んでいたカルラも落下し、咄嗟に体をひねった水野にコンクリートの床に叩きつけられてしまう。
水野は床につま先で着地し、流れるようにすねの外側、お尻、背中、肩の順番で五点着地を決めて床にダメージを分散させる。
「あっつっ!」
落下している中、水野は軍服や軍用マスク、
左の二の腕部分では軍服を貫通して、爛れて血まみれになっている肌が露出している。それが水野の脳内に熱さとして伝わり、異常を知らせていた。
そして鼻から不快感を得たことから、ここは下水道なのだと推測する。
「貴様ぁ!!」
暗闇の向こう側から、立ち上がったカルラが水野の方向へ突っ走ってくる。
「くっ!」
水野は床に落ちた
「ウッ!」
カルラは毒液をまき散らすが、数弾の7.62×51mmNATO弾が四肢を過貫通した。
水野はすかさず左手をつき、残り少ない資材を使って下水道全体を封鎖するほどの壁を創造する。
そして垂れ流れる新鮮な血を肌で感じながら、別の出口を探そうと奥へと消えた。
「はぁっ、はぁっ……」
地底から這い上がってきた水野は、無人と化したコンビニの入り口の影に隠れている。
水野が出たマンホールの外側は、またしても路地裏だった。
なんとか大通りに出ようと彷徨うこと数分。
途中で溶けた軍用マスクを廃棄し、無人の大通りに出られた。辺りを見回し、入り口のドアのガラス部分が割れている直近のコンビニに乗り込んだ。
まず店の奥に入り、傷口を持参していた包帯を巻いて応急処置を施した。続いて店内の裏にある水道で喉を潤す。
そしてバレルの先端が溶けた
「クソッ、ここの土地勘がないせいで、今いる場所が敵地なのかすらわかんねぇ……」
「ミズノはどこだ……‼ 殺す……殺してやる……!」
そう呟き終えた瞬間、大通りから疲労を隠さず露わにしているカルラの声が耳に入った。
「嘘だろ……まだいるのかよ……」
水野は息をひそめ、少しだけ顔を出してどの位置にいるのか索敵する。
カルラは通り過ぎるにはまだ手前の位置で、水野を呪いながら歩いている。
水野がそれを確認した刹那、発砲音が遠くから鳴り響いた。
と同時に、カルラが無気力に地面に伏す。
何事かと思い、注意深く観察してみると背中に麻酔弾のようなものが刺さっていた。
「な、なんなんだ……?」
水野は警戒して
照準をカルラに合わせ、少しでも不穏な行動をした場合に備えて引き金を掛ける。
少しの間、何も起こらず虚無の時が流れた。
しかし次の瞬間、カルラの背中から黒い節足動物の足のようなものが3対、計6本現れた。
「……は……?」
その足は鎧のようなものが足本体を覆っており、更に分泌された毒液が保護している。それが冬の夕日に反射して、黒鋼色が煌めく。
長さは身長の2~3倍をゆうに超えており、先端が道路のアスファルトを突き刺すほどの頑丈性を有していた。
その明らかにヒトではない足は、ゆっくりと立ち上がる。カルラは吊り上げられた死体の様にぶら下げられていた。
あまりに非科学的な事象に対して、水野はその場で指どころか思考すら動かせなかった。
「カカカ……」
カルラ
「ひっ……!」
水野を視認したその生物は、3対の足を駆使して急接近した。
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