第48話 京都での戦い②
「ひっ!」
水野は六四式小銃を咄嗟に構えてフルオート射撃をカルラに食らわせる。
体と謎の足に着弾したが、体からは血が滴るだけで、足は鋼鉄のような殻で全て弾かれた。ダメージを与えられたとは到底思えない。
弾倉の中身を撃ち切った頃には避けられない距離にまでカルラが接近してきた。
一本の毒液を纏った鋭い足先が水野を刺殺しようと迫りくる。
「クッソッ!」
水野は左手で六四式小銃を持ち、右手に数少ない資材を使って鋼鉄の刃を造る。
決死の覚悟でカルラの腹面の隙間へスライディングを決める。
その最中、厄介だと思われる足を切断しようと右側の足に刃を差し渡す。しかし刃は通らず、刃こぼれしてしまった上に衝撃で持ち手から離れてしまう。
滴る毒液が戦闘服に付着し蒸発してしまうが、そのままカルラの裏へ回れた。
カルラが振り向くまでに距離を確保しながら、残り二本の弾倉を交換する。
完全に向かれる前にもう一度フルオート射撃を行った。しかし結果は変わらず、相手に隙を与えるだけとなった。
怯まないカルラは二本の足先を挟むように突き刺してくる。
水野は六四式小銃を手放し、両腕に最後のコンクリートを盾代わりとして生成する。
全身に力を入れ、刺突攻撃を受け止めた。
「グッ!」
足の力は細さに似合わないほど異常に強く、少しでも気が抜くと押しつぶされそうだった。
カルラはもう一本の足を前に運んで水野に向ける。
水野は盾の形状を平面から背中側へ流れるような斜面に変形した。
足の挟み込む力は後方へ流れ、それによって水野が前面に押し出される形となる。
即座に姿勢を低くして体に纏っている毒液を回避し、そのまま下を駆け抜けて後方へ回る。
そして対向車線側へのビルへ駆け込んだ。
三階まで階段で上り、最寄りの会議室へ入る。テーブルや椅子をドアへ立て掛けてそう簡単に侵入できないように対策した。
「はあ、はあ、クソッ、あれは一体何なんだ?!」
昆虫のような巨大な足が背中から生えてきたあのグロデスクなシーンを、水野はもう一度思い返す。麻酔弾のような何かがきっかけなのは確かで、かつ、あんな超常的な事象は能力関連なのは間違いないだろう。
しかしながら、体が裂けて化け物となるような能力など聞いたこともない。ならば、あれは一体何だったのだろうか?
だが、そんなことばかり考えていてもしょうがない。取り敢えず、どうにかこの状況から打破しようと糖を欲しがる脳を押さえつけて試行錯誤する。
何か物を叩きつける音が、ドアの方向からした。
まさかと思って振り向くと、何かに押されて金属製のドアがこちら側へ凹んでいた。すぐに盛り上がった部分が煙を上げて蒸発し、あの不気味な足が露わになる。
「うっそだろ!?」
水野は信じ難くも瞬時に引き下がり、窓際まで後退する。
爛れた家具が蹴飛ばされ、ぎゅうぎゅうに押し詰められている足とぶら下がっているカルラが現れた。
「カカカカカ……」
カルラは廊下に入りきらないほどの巨体を、毒液をローションの代わりとして強引に入り込んでいた。
その巨体が会議室に入り込むと足を横に広げ、扉を塞いで水野の逃亡経路を塞ぐ。
水野は首をキョロキョロさせて何か抵抗できそうなものを探すが、銃火器はもちろん
ふと、自分の後ろを振り向く。逃走経路はそこにあった。
「もうヤケクソだ!」
水野は腹を括り、窓を蹴って割る。
カルラが毒液を飛ばそうとした直後に、水野は外へ身を投じた。
素早く空中で体制を直し、足の裏、すねの外側、お尻、背中、肩の順番でアスファルトの地面を転がり、訓練生時代に叩き込まれた五点着地を決めた。
すぐに立ち上がってこの場から離れようと駆け出す。
すると、『ブオォォォォォォン』という腹の底まで震えさせる音が上空から聞こえた。
顔を上に向けると、飛び去る数機のB-52爆撃機と地上へ降り注ぐMk.84爆弾が目に入る。
「空爆!? まずいまずいまずい!!」
そんなこと聞かされていないぞ、と大声で叫びたかったが、そんな暇など与えてくれるはずもない。一刻も早くこの場から離れなければ。
「カカカカカ……」
爆撃機の騒音が聞こえていないカルラは、そのまま水野を追うように窓際へ這う。
そのビルへMk.84爆弾が最初に着弾する。爆炎と爆風が辺りに広がり、カルラはビルの瓦礫と共に崩れ落ちた。
「うぉっ!!」
連続する爆撃を背にして、水野は対向車線側のビルの合間に逃げ込む。
どうにかして屋内に退避しようと辺りを探すが、すぐに同様に爆撃されてしまう可能性に気付く。
「だったらまた地下に逃げるしかないか……」
少し奥にある下水へのマンホールを発見した。
乳酸が蓄積している足の筋肉を無理やり動かす。姿勢を低くして、右手を大きめのマンホールに触れて吸収する。
手すりにしっかりと足を掛けて下へ潜った。
しかし不幸にも、Mk.84爆弾が近くへ落下する。
「あっ」
その衝撃で、水野は手すりから手を放してしまう。
そのまま光が差し込まない暗闇の底へ落ちていった。
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