第31話 雷神との戦闘②

「いったたぁ……」


 アカツキはうつ伏せのまま、ボサボサになった白髪に手を添えておもむろに立ち上がる。特別収容室の方向に目線を上げると、床に倒れ込んでいるミハイルの姿が目に映った。


 ミハイルの人差し指が僅かに動く。その動作を見逃さなかったアカツキは、瞬時に金属棒を生成してミハイルへ投擲する。


「ウァッ!」


 しかし電撃は地面を伝ってアカツキへ攻撃した。アカツキは先ほどまでの威力とは桁違いの電撃を食らい、膝を付いて気を失う。


 ミハイルはゆっくりと立ち上がってアカツキへ振り向く。体の周囲には青白くほとばしって不規則に電撃が現れては消えている。血管が顔に浮かび上がっているその顔は、怒り狂う雷神を想像させた。


 ミハイルはそのまま無言でアカツキへ右掌を向ける。

 咄嗟にアカツキは現実に返り咲く。ミハイルの行動を瞬時に察し、同じく右掌を伸ばして廊下を遮断するゴム壁を創り出した。


 ミハイルは力を溜めることなく、そのまま右掌から厚い筋の雷撃を放つ。

 ゴム壁に直撃した箇所は容易く焼けて蒸発した。


「……は?」


 何とか立ち上がれただけのアカツキは、壁の向こう側でミハイルが起こした現象を理理解できなかった。

 熱で煌々と赤く縁取られている隙間から、ミハイルは堂々とした歩みで跨いで距離を詰めて来る。


 アカツキは黒いズボンの腰回りに装備しているスモークグレネードを手に取った。素早くピンを抜いて、ミハイルの足元へ転がす。

 ミハイルが顔をしかめた瞬間、グレネードから白煙が噴出した。瞬く間に廊下を埋め尽くして双方の視界を遮る。


 するとミハイルは自身を中心に半球状の雷撃を発生させた。アカツキは後ろへ跳躍して白煙から姿を現す。


 右手に意識を集中させ、数秒で安全装置を省いたグロック17が生成した。白煙に銃口を向け、引き金を引いて数発食らわせる。

 しかし九ミリパラベラム弾はミハイルの電撃がバリアによって、時が止まったかのように空中で停止する。そのまま虚しく、軽い音を立てて地面へ落下した。


「チッ、当たりが悪いのか?」


 十発ほど撃っても手応えは感じられなかった。


 グロック17を放り捨て、今度は両手に意識を集中させてAK−47を十秒で二丁生成した。片手ずつ構えてそのままギャングのように手当たり次第発砲した。


「ウッ……!」


 ミハイルの電撃は七・六二ミリ弾の原則には成功したが、完全には防げない。右肩や左足などに銃弾が貫通したが、脳何で溢れ出るアドレナリンのせいで叫ぶことはなかった。射線を避けるため、ミハイルは姿勢を低くする。


 アカツキは引き金を引いている右手の人差指を緩めず、左手で構えていたAK−47を放り投げた。そして左手に嵌めているグローブの電源を入れて突入する。


 接敵に気付いたミハイルは素早く起き上がる。しかし白煙から姿を現したアカツキはミハイルの懐へ左手を伸ばしていた。

 ミハイルは両手を組んで振り下ろし、アカツキの背中に打撃を食らわせようとする。


 グローブの作用によってミハイルの常装が崩壊し始めた。

 常装が全て霧散して勲章だけが綺麗に残り、順に落下していく。

 ミハイルの鍛え上げられた腹筋が露わになり、腹筋の割れ目に沿って血が滲み始めた。


「ガッ!」


 ここでミハイルの握った両手が背中に到達した。アカツキは中途半端にしかダメージを与えられず、床に叩き付けられる。

 上半身裸体のミハイルが止めを刺そうと右掌を向けてきた。


 直接ダメージを受けたアカツキは転がろうとするが、体がすぐに反応しない。

 もう駄目かと思われた、その時だ。


「退いて退いて退いて!」


 宙で回転しているリザが猛スピードで突っ込んできた。ミハイルは回避する間もなくリザと額をぶつけ合う。 

 二人はそのまま倒伏して仲良く気絶した。


「……重っ……」


 ミハイルとリザの下敷きになっているアカツキは這い出ておもむろに立ち上がる。

 特別収容室へ足を運びながらC4爆弾と起爆装置一式を生成し、先を阻む扉に貼り付けた。後方に下がることすら面倒だったので、コンクリート壁を間に作って身を潜める。

 スイッチを押して起爆させる。爆風によって辺りに立ち込めていた白煙が吹き飛んで視界が良好になった。

 同様にして、部屋を挟んだ先にある堅牢な金庫扉も爆薬を増やしたC4爆弾で吹き飛ばす。


 アカツキはリザの襟を片手で掴んで引きずりながら特別収容室へ足を踏み入れる。


 特別収容室は先ほどの戦闘が嘘であったかのように静寂に包まれていた。

 対能力アクリル板の向こうには王女が住まうような部屋がある。天井、床、壁、家具その他全てが白を貴重としたものだった。


 その中にある細やかな装飾が施された貴族のようなベッドに、オラクルがすやすやと寝息を立てて眠っている。


「良かった……本当にっ、良かったぁぁ……」


 アカツキはその様子を見て安堵し、膝から崩れ落ちる。そして大粒の涙を浮かべて嗚咽した。

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