第8話 初めてのデート(前編)
今日は琴ねえとの初デートだ。単に男女二人きりで男女が出かけたり遊んだりすることを指すのなら、僕たちはさんざんデートをしてきたけど。これまでは、「単に一緒に遊ぶ」のかどうかを曖昧にしてきたので、きっと初デートなのだと思う。
「よしっ」
洗面台の前の鏡で、身だしなみをチェックする。黒のスキニーパンツに、紺のインナー、グレージュのジャケットという装いで、以前に妹の
「あ、お兄ちゃん。おはよー。ふわぁーあ」
リビングに行くと、明美が欠伸をしながら起き出してきていた。
「おはよう、明美。休みなのに早いね」
時刻はまだ8:30だ。明美は休みの日は10:00起きの事が多いので、だいぶ早い。
「なんだか、目が覚めちゃって。お兄ちゃんは?」
「……琴ねえとデート」
「道理で嬉しそうだと思った。それに、服も……以前選んであげた奴だね」
「その節はお世話になりました」
「ほんと幸せそうなんだから」
「幸せ、なのかな」
「違うの?せっかく、琴ちゃんと付き合えることになったのに」
「違わないけど、
一昨日の告白から始まる一連の出来事を思い出すと、身体も顔も熱くなってくる。そして、煩悩も。
「お兄ちゃん、顔赤くなってるけど、どしたの?」
「い、いや。ちょっと思い出してたというか」
「思い出してたって。琴ちゃんとのキスとか?」
「……」
しまった。考えてみると、明美には琴ねえと、それはそれは濃厚なキスをしていたところを目撃されたのだった。
「デートの前から、何いきなり考えてるの?このスケベ
ゴミを見るような冷たい視線で見つめられる。
「おまえが言うから思い出しちゃったんだよ」
「そんな事ばっかり考えてると、琴ちゃんから見捨てられ……ないか。ほんっと、琴ちゃんがこんな積極的になるなんて」
「僕も予想外だったよ」
「幸せそうな顔して言われても。ところで、どこ行くの?」
「駅前の公園」
「あー。なんか、お兄ちゃんらしいというかなんというか」
「らしい?」
「普通のデートスポットは結構行ってるでしょ?」
ぴーんぽーん。ぴーんぽーん。インターフォンの音が鳴る。そういえば、待ち合わせ場所決めていなかったのを思い出した。ひょっとして、琴ねえだろうか。
「おはよー、くーちゃん」
扉を開けると、そこに居たのは琴ねえ……なんだけど、いつもと印象が違う。普段、三つ編みにしている髪を背中まで下ろしていて、それだけでなんだか大人っぽく見える。
「えっと、琴ねえ。その髪は?」
「ちょっと、イメチェンしてみたんだけど。似合う、かな?」
はにかんだ様子で尋ねる彼女は、よく知る琴ねえで、でも、普段と違う髪型もあって、いつもよりさらに魅力的に見える。
「すごく。なんだか、久しぶりに琴ねえがお姉さんぽく見えるよ」
照れくさいので、ちょっとツッコミ待ちでそんな毒を吐いてみたのだけど。
「そ、そっか。ありがとうね」
そう、嬉しそうに返されてしまった。やばい。なんだこれ。可愛すぎる。
「それに、服もよく似合ってる」
白のロングスカートに、上はブラウンのセーターで、落ち着いた感じがする。
「くーちゃんもよく似合ってるよ♪」
「ほんと?」
「ほんとだよ」
「そっか。嬉しいよ」
まだ、デートが始まってすら居ないのに、気分がとても高揚しているのを感じる。
「とにかく、行こうか」
「準備は大丈夫?」
「うん。あとは待つだけだったし」
というわけで、初デートに出かけることになった僕たち。
「いい天気。デート日和、だね」
「うん……」
「あの公園行くのも久しぶりだね」
「うん……」
「くーちゃん、元気ない?」
「いや、元気元気。そうじゃなくて、琴ねえが綺麗だなって、見惚れてた」
僕は何を言っているんだろう。普段ならさらっと言えないはずの言葉が自然と口をついて出ていた。琴ねえは昨日よりもっと距離が近い。そして、髪からいい香りもする。
「も、もう。嬉しいこと言ってくれちゃって」
「でも、本音だから」
「ありがと。大好き、くーちゃん」
「僕も大好きだよ、琴ねえ」
「……まだ公園についてないのに、すっごく盛り上がってるね、私たち」
「うん。歯止めが聞かないっていうか。琴ねえが綺麗だから悪いんだ」
「だって、くーちゃんがカッコいいから」
そんな、誰かが聞いていたらバカップルと言われそうな言葉を言い合いながら二人で歩く僕たち。
ふと、視線を感じて我にかえると、周りの人たちが僕らを見ているのに気がついた。ここは大通りで、休日になると人の数も増える。そんな中で、ぎゅっと腕を組み合って、バカップルしている二人が居たら注目の的になるのも道理か。
「あのさ、琴ねえ。ちょっといい?」
「私も言おうと思ってた」
「外に居る間はちょっと控えめにしようか」
「賛成」
普段、バカップルしてる奴らを見かけたら、「せめて、場所を考えればいいのに」と思っていたけど、まさか自分たちがそうなるとは。
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