第19話 魔法戦車サタンドラゴス
「長老様、大変です! 砂嵐の魔人レギオンが、この村に攻め寄せてきます!」
神官の一人が、あわてて村に駆け込んできた。大騒ぎになる村の中。ファーガスがキメラをつれて村の入り口に急いだ。
「長老、ここは我々で迎え撃ちます」
「客人よ、あなたたちはまだ傷ついている。無理は禁物だ」
「いいえ、きっと奴らは我々を追いかけてきたのです。我々の責任です。お任せください」
「わかった。でも、我々もいつでも戦えるよう、準備をして控えていよう」
「ありがとうございます。では、急いでみんなを避難させてください!」
先住民たちはみな洞窟に避難し、村からは人影が消えた。静まり返った村にファーガスとキメラだけが荒野の方向を見て立っていた。
「キメラ、おまえ戦えるか?」
「…戦い?」
「…まだだめか…いいさ、ここは俺一人で食い止める。キメラは後ろに下がっているんだ」
その時二人の間を強風が吹き抜けた。
「来たか…」
荒野の果てに黒い雲が渦巻くのが見えた。やがてその雲はどんどん大きくなりこちらに迫ってきた。
何十体もの目も口もない人の形をした砂の兵隊、砂くぐつがゆっくり近づいてくる。
その後ろに黒い雲と稲妻をまとい、砂嵐とともにレギオンが近づいてくる。昼なのに、黒い雲のおかげであたりは暗くなり、吹きすさぶ砂嵐のおかげで視界がぐっと悪くなる。砂くぐつは、岩も草地もすべてを飲み込み、すべてを埋めて息の根をとめながら押し寄せる。
「ハリー、俺に力を貸してくれ! いくぜ、オーラショットガンアイアンゴーレム、メテオモードだ!」
ファーガスは景気よく空に向けて魔法弾をぶっぱなしながらまっすぐに走り出した。
「雷よ、奴を打て! 砂くぐつよ。奴を砂で埋めて息の根を止めるのだ」
押し寄せる砂くぐつ、だがファーガスは走りながら一度に何体もショットガンで吹き飛ばし、黒雲からの落雷をかわし、そして砂くぐつの大群を突き抜けると、すぐさま両手でアイアンゴーレムをかまえ、必殺の一発をぶっ放した。
「アイアンゴーレム、マキシマムブレス!」
狙いはぴたりと合っていた。だが、魔人は一声叫んだ。
「ストームウォール!」
魔人にめがけてぶっ放された魔法弾は渦巻く砂嵐の壁によって、魔人まで届かない…。
「ならば、ぶった切るのみ。アイアンゴーレム、ソードモード!」
巨大なショットガンアイアンゴーレムが金属音とともに、屈強なロングソードに変形し、魔人レギオンめがけて切りつける。
なんと巨大な剣は邪悪な砂嵐を真っ二つに切り裂き、魔人の黒い鎧に鋭い刃が食い込む。だが魔人の邪悪な半月刀がぎりぎりでそれを跳ね返す。一瞬後ろに下がり、体制を立て直す魔人レギオン。
「うぉ、なんだこれは?」
だが、その時魔人の頭の上から隕石のように魔法弾が降り注いだ。最初に空に向けてぶっ放した魔法弾が二発、三発と今まさに標的に降り注いだのだ。直撃を食って砂煙の中倒れこむレギオン。
「とどめだ」
すかさずアイアンゴーレムのソードが土煙の中の黒い塊を貫く。だが、悲鳴を上げたのは、ファーガスの方だった。
「うぐっ、体の自由がきかない…」
「危なかった。だが、お前の刺したのは砂くぐつだ。砂蛇よ、こいつを締め上げろ!」
いつの間にか地面から湧き出てファーガスの体をぐるぐる巻きにした砂の蛇が全力で、体中を締め上げる。体のきしむ音が響く。
「今度はこっちから言わせてもらう。とどめだ!」
ファーガスは動けない。砂嵐の魔人は、黒い渦とともに邪悪な半月刀を振り上げた。だが、その瞬間ブーメランのようなものが飛んできて、半月刀を弾き飛ばした。
「こ、これはグリフォンのツメ? ま、まさか…」
グリフォンのツメはブーメランのように魔人の周りを旋回し、次の瞬間には、それをウイングモードからソードモードに変化させて空中で受け取り、そのまま後ろから何者かが魔人に切りつけた。
「ばかな…もう、おまえは死んだものだと…」
魔人は邪悪を滅する光の剣により、粉々に崩れて消え去った。ファーガスをぐるぐる巻きにした砂の蛇も、生き残っていた砂くぐつも一瞬にして崩れ去り、さえぎられていた日の光がいっぱいに差し込んできた。
「なんてことだ、今の素早さ…瞬きする間もないほど早い。以前よりさらに強くなった…ケイト、お前」
すると女はすぐに言い返した。
「私はキメラ、キメラと呼べ」
どうも、記憶はまだ戻らないようだった。だが、以前よりさらに技の切れがまして、彼女はよみがえってきたのだった。
少しして、虚空の城に魔王が帰ってきた。巨大なクリスタルを仰ぐ神殿に三人の魔人が呼び出されていた。あのダビデ像のような外観はそのままだが今度は手に巻物のようなものを持っていた。それを出迎える三人の魔人、素早い不気味なバルログ、冷気に包まれた歩く鎧カロン、ほかの魔人より二回りは大きい剛力のテュフォンだった。
「砂嵐のレギオンはどうした。なにやられたと?」
魔王は激怒した。
「お前たち四魔人は、私の精神を分離し、長い時間と秘術を尽くし育て上げたいわば私の分身だ。魔人をやられたとあれば、自分が傷ついたも同じことだ」
魔王は用意した巻物を高く掲げると叫んだ。
「小癪な! こうなったらレギオンの復讐戦だ。いよいよこれを使う時が来たようだな」
魔王は、巻物を魔人たちに渡した。
「我々の目の上のこぶだった石化獣を利用する秘術だ」
巻物を広げるとそこには不気味な龍のヘッドのついた、古代の戦車が現れた。大きなドラゴンの形をした砲台を四輪のついた台車に乗せ、太い鎖で魔界の怪物にひかせるというものだった。
「この戦車の中に秘術を駆使した仕掛けを入れる。失敗は許されない。だが、うまくいけば、あの小うるさいハエや先住民の奴らも、すべて石化獣によって跡形もなく踏み潰されるだろう。その巻物の通りに戦車を作れ。どうだ、お前たちなら、どのくらいの期間で作れる?」
みんな黙って考えていたが、テュフォンが立ち上がって答えた。
「魔王様、私なら三日で作りましょうぞ」
「よし、いいぞ。テュフォン、三日で作るのだ。三日の間にすべてをやり遂げろ。私はすぐに行かなければならない。そうだな、テュフォンお前に任せる。三日後戻ってきた私の前に、石化獣の軍団を用意しろ。そうだ、バルログよ、お前は我々の配下の魔物や怪物を集めておけ。逃げ伸びようとする奴らを追いかけて一人残らず滅するために。カロン、この虚空の城の守りはお前に任せる。ヘレナに少しでも何かあったら許しはしない…そうだ、お前には、兵隊の代わりにあれを授けてやろう。フフフ…」
魔王が合図をすると神殿の奥から黒いアメーバのようなものが出てきた。そう、ソウルイーターだ。魔王が手をかざしエネルギーを送ると、ソウルイーターは縦に伸び上がり、顔のはっきりしない人間の形になった。全身が闇のように黒く、瞳だけは灰色で、それはあの魔女屋敷に現れた魔人、湖に現れた魔人に違いなかった。
「ソウルイーターよ。カロンと合体し、この城を守るのだ」
「仰せの通りに…。」
ソウルイーターは生きた鎧の塊の魔人カロンの隣に立った。そして、鎧の隙間から徐々にカロンの体内に入って行った。カロンの体内から噴き出していた白い冷気はどす黒い闇の冷気に変わり、カロンの鎧もさらに恐ろしい形に変形していった。
「これでいい。お前は無敵だ。テュフォンよ、バルログよ、カロンよ、力を結集して奴らを地獄に送るのだ。最終決戦だ」
魔王は、まだ大事な用事があると、時空の扉の向こうに消えて行った。あの魔人テュフォンは、巻物を広げて叫んだ。
「レギオンよ、お前の仇はきっととる。この戦車サタンドラゴスがすべてを破壊しつくすだろう。はははは」
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