第12話 天空への階段

「いったい、どうするとこんな風景が作られるのだろう?」

 七人はしばらくその不思議な光景を見て、あっけにとられていた。ここはたくさんの岩の立ち並ぶ谷の底のようなところだった。だが水は全くなく、今は風だけが吹き抜けていく。横の崖にもあちこちの岩にも、すべて地層の模様が入っているのだが、その色が実に鮮やかなのだ。深い海の底のようなパープルの層があるかと思えば、目の覚めるようなオレンジのライン、湧き出る泉のような水色の層があるかと思えば、落ち着いた赤いラインもある。それが幾層にも重なり、得も言われぬ風景を形作っているのだ。岩も水の流れに削られたのか、くびれていたり、傾いていたりする。その変岩奇岩の中の小道をゆっくり下って行く。途中には人間に似た形や、獣にそっくりな形の岩もあり、いくら見ていても興味が尽きない。やがて岩の地帯を越えると、今度は目の前にはどこまでも広がる砂漠だ。風が形作る見事な風紋が美しい。

 するとフリントが叫んだ。

「そうか、第二の手紙にあった黄金のピラミッドって、ここなら見つかるかもしれないぞ」

 みんなもうなずいた。でも、さすがに装備もなく、砂漠を越えられるのだろうかと、みんな立ち止まる。フレデリックがつぶやく。

「ああ、ここが川か湖なら船の文字を押せばなんとかなるのになあ」

 するとミランダが言った。

「砂漠の舟っていうじゃない。押してみれば、ためしに」

「砂漠の舟? そんなものあったっけ」

 いぶかしげな顔をするアイザック。でも一応試そうということになり、石版を操作した。一瞬地平線の近くが光った。

「うわー、本当だ。砂漠の舟、ラ、ラクダがやってきたぞ」

 ロープでつながれた七匹の大きなヒトコブラクダが、ちゃんと鞍をつけ、装備を積んで歩いてきたのだ…。しかも七人のそばまで来ると、乗れと言わんばかりにひざまづいて見せたのだ。

「みんな、このラクダに乗って砂漠を行けば、第二の手紙にあった黄金のピラミッドも見つかるかもしれないぞ」

 ブライアンが声をかけたが、みんなまだ躊躇している。思ったよりずっと大きなラクダに恐れをなしているようだ。

 フレデリックが恐る恐る近付いて乗るのかと思ったら、ラクダに装備されている荷物を調べだした。ラクダはその間もおとなしくじっとして動かなかった。

「おお、水の入った皮袋や、少しの食糧、それに日よけの民族衣装みたいなのも入ってるぞ」

 フレデリックはそれを頭からすっぽりかぶってみせた。顔から足まですっかり隠れ、見事な砂漠の民の完成だ。

 さすがにみんなは躊躇したが、なぜかミランダは全く抵抗なく、自分も頭からすっぽり砂漠の民の衣装をかぶり、一番前のラクダに飛び乗った。立ち上がるラクダ。

「ウヒョー、た、高い、すごい、ねえ、みんなも乗ってみなよ! 面白いよ!」

 ミランダに乗れるのなら自分もと、どんどん砂漠の民に変身してラクダに乗り出す。怖くて乗れないと駄々をこねるレベッカを無理やり乗せたのは、今度はレイチェルだった。全員が乗ると、ラクダは一列に隊列を組み、ゆっくりと砂漠を歩き出したのだった。

 ラクダは思っていたよりずっと大きく、乗っているだけで巨人になったようだ。はるか遠くまで見渡せる。でも遠くまで見渡しても、見えるのは大きな砂丘と風紋ばかり。ラクダがいなければとんでもない場所だ。

「ようし、黄金のピラミッドを見つけてやるぞ」

 みんな我も我もと砂漠を見回した。

 時折吹く砂まじりの熱風と強い直射日光、みんなは砂漠の民の衣装をしっかりかぶり直し、それをなんとかしのいだ。だが、このままどこまで進むのだろうと不安になった頃、砂漠の真っただ中に、鮮やかな緑が見えてきた。大きな砂丘を二つ越えて降りていくとそれはヤシの木や緑の木々に囲まれたオアシスであった。近づいていくと、エジプトの神殿のような石造りの建物が見えてくる。その大きな門の柱のところでラクダは止まり、またひざまづく。みんなが下りると、ラクダたちはヤシの木陰へ歩いていき、小さな泉で、のどの渇きをいやした。みんなもラクダの後について泉に行き、ライオンの口から滝のように流れる水を発見。冷たい水をガブガブのんだ。最高にうまかった。

「ここなら黄金のピラミッドがありそうだな」

 石の階段を上り、見事な柱の建つ神殿の奥へと進んでいく。

「へえー、すごい。魚まで泳いでいる。」

 この砂漠の中でセセラギの音がする。オアシスの水が水路を伝って神殿の中庭の大きな丸い池を満たしている。池には、ハスやパピルスが豊かに茂り、大きな魚影がゆらりと揺れる。さらに神殿の両脇には清らかな水路が続き、緑の葉が広がり、大輪の花が咲き乱れていた。なんか自分がファラオになった気分だ。でもやはり、ここにも人影はない。どこもよく手入れされて、荒れ果てた感じが微塵もない。何十人もの庭師が管理しているような美しい庭だった。神殿の奥から振り返れば、石畳の神殿の庭に色鮮やかな水生植物の茂る豊かな丸い池があり、その両脇には咲き乱れる花々、そして、その向こう側は、ヤシの葉が並び、さらにその向こうはいくつもの砂丘が連なる広大な砂漠なのだ。

「あれ、なんだこの階段、途中までしかないぞ?」

 奥の神殿風の建物のそばに、頑丈そうな白い階段があるのだが、昇って行くと、その先がなく、まるで天空への階段だった。

 だが、その階段の周りに大きな円を描くように石の台があり、そこに東西南北が示されていることから、これは巨大な日時計ではないかというフリントの意見が採用された。

 さらに奥に進むと、とても背の高い神殿風の柱が並ぶ建物があり、その中に入る。中は古代風の噴水がある大きなロビーだった。とても高い天井、大理石がふんだんに使われ、ひんやりして、入るだけで気持ちがよかった。みんなはあの日よけの服を脱ぎ、噴水のそばに置かれたソファに座り込み、しばらく休息を取った。今回の岩山トレッキングと、砂漠の横断は、なかなかエキゾチックで興味深かったが相当疲れた。

 少し落ち着いてくると、女子たちはこの建物を調べてくると、出かけて行った。フリントは、例のノートを取り出し、砂漠と岩山のコースを思い出しながら、丹念に記録し始めた。フレドリックが覗き込むと、あの南の島も、渓流と湖のエリアもみんな詳細な地図やデータが書き込んであった。さらにアイザックと協力して記録した、石版の古代文字と、実際に起きた事件の対応表もかなり出来上がっていた。

「もう、使ってない文字の方がはるかに少ないんだ。もうすぐコンプリートだ」

 アイザックはちょっと首をかしげながら、それに補足した。

「いつもコンピュータをいじっている俺に言わせると、たぶん二つや三つの古代文字を組み合わせて使うコマンドがあるはずなんだ。ほら、みんなが湖に魚を捕りに行ったときに、ちょっと思いついて試してみた。そしたら案の定、小屋が光り、第二の手紙が現れ、この砂漠の世界に通じる時空の扉が現れた。でも、タイミングが悪かったりしたら、第二の手紙は見つからないまま、消えていただろう。それを思うと、まあ、勝手にはもういじれない」

 フリントがアイザックを励ました。

「まあ焦らずに、少しずつ答えに近づいて行こう、記録はばっちりとってあるんだからさ」

 すると、女子チームが怪訝そうな顔をして戻ってきた。

「やっぱり、おかしいわ。どういうことかしら…?」

 実は女子チームはこの神殿のあたりを一回りしてきたのだが、裏は水の湧き出しているオアシスのせせらぎがそのまま散歩コースとなった緑豊かな庭園になっており、すごく見事な場所だが、ほかに建物もないという。

 レイチェルがしゃべりだした。

「今までのところはちゃんとベッドルームがあって、気持ちよく眠ると、朝はまたすべてがリセットされて前髪もきちんと整って出かけられたわ。でも、ここではどうするのかしら。床? それともこのソファにみんなで寝るの? なんかちゃんと寝ないと、リセットもなぜか起きないようなきもするし…」

 するとブライアンも首をかしげた

「みんな思い出してくれ。確か第二の手紙に黄金のピラミッドという言葉があった。砂漠に来たから、絶対ピラミッドがあると思って、あちこちキョロキョロしながらラクダに乗っていたんだが、それらしいものは全然見当たらなかった」

 フレドリックもうなずいた。

「そうだよな。みんなでピラミッドを見つけようって声かけてたのに誰もかけらも見つけられなかった」

 そしてブライアンはもう一度フリントに向き直った。

「ここまでの詳しい地図を書き上げてきたフリント・ソリッドフェイス君。客観的に分析して、どう思う? まだこの砂漠のどこかに別の建物があるのかい」

 するとフリントは冷静に答えた。

「以前、レイチェルが言ってたけど、ここは魔人やrからの手紙は別として、もともと安全で刺激的なリゾート地みたいに整備された場所だと思うんだ。だからひどく意地悪なコースや謎もない。ただ僕たちが石版の使い方をまったく知らなかっただけだと思うんだ。結論から言うと、今までのコースやこの建物のほかに別の建物があるとは考えにくい。だから、黄金のピラミッドの存在する場所は…!」

「存在する場所は?」

 みんなの視線が集まった。

「この建物のどこかだ。今までの建物も大掛かりな仕掛けがあった。サンゴ礁の海底を動いて見ることができたり、回転してすべての湖につながったりとかね。まだ、ここの仕掛けは何も動いていない」

 ブライアンが言った。

「よし、みんなで手分けして、仕掛けを探そう。どんな小さなことでもいいから、怪しいものを見かけたら教えてくれ」

 女子たちは今度は大きな丸い池のある、神殿の中庭に出かけて行った。アイザックとフレデリックは石版を持って、広い裏の庭園をくまなく調べるのだという。ブライアンとフリントは、いまだに完全に納得ができないさっきのあの場所に出向いた。そう、あの奇妙な日時計、空中への階段である。

「さっきは自分で日時計ではないかと分析したけど、やっぱり近くで見ると、しっかりした階段で、どうしても上るためにあるとしか思えないなあ」

「ちょっと危ないけど、てっぺんまで上ってみるか?」

 二人が相談して、階段を上ろうとした時だった。女子が後ろで声をかけた。

「ちょっと、ちょっと、ブライアンたち、こっちへ来てみて」

 行ってみると、ミランダが丸い大きな池の中に落っこちそうなくらいに身を乗り出して覗き込んでいた。

「ミランダがね、この池のずーっと深いところに、ピラミッドが見えるって言うのよ。私たちにはよくわからないんだけどね」

 フリントがパピルスの茎を一本折って、底をつついてみた。この池の深さはどこも50センチほどで、そんな深いところなどはなさそうなのだが…。

「でも、さっき、何か光線の具合で確かに見えたのよ。きらっと光る三角形が…」

 ミランダが嘘を言っているようにも見えないが…中はたくさんの植物が茂っていて、なかなか底までは確認できない。しかもここに何かあったとしても、いったいどうやって入ればいいのだろう。そんなことをしているうちに、今度は、フレデリックとアイザックが駆けてきた。

「後ろの庭園には、特に怪しいところは見つけられなかったんだけれど、遠いところから、こっちの神殿を見ていたら、何かあるんだよ、この神殿の屋根の上に、もう一つの建物か何かが…」

 そう言われてみれば、この神殿は一階の天井がとても高く、高いところに何があるのか、見上げてもほとんど見えない。周りはヤシの木などに囲まれているからなおさら見えない。

 それを聞いて、何かを確信したブライアンはアイザックを呼んだ。

「アイザック、一緒に階段を上るぞ。気をつけろよ。落っこちないようにね」

 二人は手すりをしっかり持って気を付けながら、慎重に途中で空中に消えている階段を上り始めた。

 上るにつれ、神殿の上にある物が少しずつ見えてきた。それは丸いドームのある石造りの建物だった。

「天文台…?」

 そして一番上まで上った時、神殿の上の建物まであと三メートルほどに近づいた。もちろん飛び移ることなどできそうにない。だが、ブライアンはアイザックを呼んだ。

「よし、見つけたぞ。アイザック、この階段の手すりに石版のぴったりおさまりそうな四角いくぼみがある、そこに石版をはめて、操作してみてくれ」

「了解!」

 アイザックは慎重に上まで上って行くと、石版を手すりのくぼみにピタッとはめこんた。

「おおおおお!」

 みんながどよめいた。

「二人とも気をつけろ。手すりにしっかりつかまるんだ」

 フリントが叫んだ。その奇妙な階段が光りだし、ゴゴゴゴという大きな地鳴りのような音とともに、台座ごと神殿の方にスライドして動きだし、ついに神殿の二階部分と接続したのだ。

 しかもそれだけではなかった。動いた階段の石の下から、地下へ続く暗い階段が現れたではないか。そして階段の上部が二階に接続するのと同時に、階段の一番下が、地下に続く階段とつながったのだ。なんとこの日時計でもある階段は、地上と、二階の天文台、そして地下をすべてつなぐ一本の階段になってしまったのだ。

 ブライアンとアイザックはそのまま神殿の二階へと歩いて行った。

「おおーい、みんなも上がってこいよ。いい眺めだぞ」

 みんな、追いかけるように神殿の屋根の上へとやってきた。そこは小さなドームの天文台と、草花の茂る美しい空中庭園だった。どういう仕掛けか、ここまでオアシスの水が汲みあげられていて、小さなせせらぎまである。小鳥がやってきて、水浴びをしている。

「すごいぞ。遠くの砂丘や岩山まで全部見通せる!」

 屋根の上から見下ろす砂漠は雄大そのものだった。男子は空中庭園のあちこちに探検に出かけた。小さな噴水や、鳥の巣まで発見だ。でも端まで歩くと、ちゃんと手すりはあるのだが、もう足がすくんでしまう。女子たちはそこそこに天文ドームへ入って行った。古代の文字が書かれたシンプルな石造りの壁に、不思議な星座の図や色鮮やかな女神の絵などが一緒に書き込まれていた。レイチェルはそれらを眺めて目を輝かせていた。

「すごいわ、なんて神秘的な感じ…。この壁の文字や図は昔の宇宙象を現しているのね。ええっと、こっちは…」

 惑星が太陽の周りを回って行く金属製の不思議な機械がゆっくり動いていた。

 ドームの真ん中には見上げるような大きな天体望遠鏡がそびえていた。

 そして、その後ろの二つの小部屋に、ベッドが並んでいた。女子は一安心。星を観察しながら眠りにつけるわけだ。

 でもなぜかフレデリックがやってきて,女子たちに言った。

「俺たちは、たぶん、そのベッドには寝ないぜ。外の空中庭園に来てみろよ」

 ここのベッドじゃ寝ないって、どういうことなのだろう。美しい石畳や芝生や咲き乱れる草花が風にそよいでいる。この空に近い空中庭園だが、その中にゆったりとした椅子のようなものがいくつも並んでいる。それに近づいて行ってみると、なんと椅子の背もたれを後ろに大きく倒し、男子が日光浴中だった。緩やかな傾斜と、アシの茎で織られた弾力がちょうど横になるのにいいのだという。ブライアンが起き上がって、女子に言った。

「今は暑い時間帯だから、そんなに長くはいられない。きっとここは夜のための設備じゃないかと思われる、天文台もあるしね。夜、毛布を持ってきてここで寝れば、星空を見ながら、語り合えるよ、きっと」

 そう、ちょうど屋根の上に上って星空をながめて寝っころがるような感じだ。

 するとレベッカがうっとりした。

「うわー、ロマンチックだわ。流れ星も見えるかしら?」

「これだけ乾燥して大気が澄んでいれば、きっといくつも見えるだろうね」

「本当? 夜の星空が楽しみだわ」

 だが、やはり、ここにもピラミッドはない。地下に行くしかないようだ。アイザックは石版を階段から外してまたポケットにしまいこんだ。みんなは空中庭園での眺めを存分に味わうと、ゆっくり階段を下りることにした。

 地下は真っ暗かと思っていたら、ゆらゆらと薄日が差している。

「ほら、みて、頭の上が池なのよ」

 ミランダが天井を指さす。丸い水色の光が天井でゆらゆらしている。

「そうか、池の底が透明になっていて、明り取りになっていたのか」

 ブライアンがうなずいた。ということは、あれがあるはずだ。

「…あったぞ」

 そこはまた不思議な部屋だった。丸いドーム天井の中心にゆらゆら揺れる池の明り取りがあり、円形の部屋の中央には石でできた丸いテーブル、その周りを十席ほどの椅子で囲んでいる。丸いテーブルの中央には高さ五十センチほどの黄金のピラミッドがきらめき、さらにピラミッドの真上に真っ黒な三十センチほどの水晶の球体のようなものが設置されている。まさしく、黒い月の下に黄金のピラミッドがある。

「これはいったいなんなんだ。ピラミッドの上に黒い球体がくっついているのか? 浮いているようにも見える」

 みんなでいろいろ考えたが、これが何なのかわからなかった。あの第二の手紙には永遠の星空の下とも書いてあったが、池の光がゆらゆら神秘的に揺れるだけで、どう見ても永遠の星空には見えない。もちろん「カギ」もどこにもない。

「もう一つだ、もう一つどこかに仕掛けがあるんだ。みんなもう一度探してくれ」

 みんなで部屋のあちこちを探したが、とくに怪しいものは見つからなかった。

 どうにも仕方なく疲れた七人は丸い椅子に座って少し休むことにした。

「あれ、この椅子、上の椅子と同じように背もたれが後ろにどんどん倒れるぞ」

 みんな我も我もと椅子を倒してみた。するとその時、どこかでスイッチが入ったようだった。

「石版が光りだした。光った文字を押してみていいかい?」

 アイザックがみんなに聞いた。みんな了承した。でも、今度は何が起きるのだろう。すると光がひらめき、大きくゴゴゴとまた何かが動き出した。

 まず、全体が暗くなってきた。池の底に光を通さないシャッターのようなものが動きだし、光を遮断しているのだ。

「ま、まずくないかい? 俺たちが下ってきた階段の口も閉まっていくぞ」

 ブライアンが叫んだ時はすでに遅かった。天井も、唯一の出入り口も閉じてしまったのだ。

 完全に暗黒の世界となった。もう自分の鼻をつかんでもまったくわからない。レベッカが不安な声を上げた。だがその声は、次の瞬間、感動の声に変わって行った。あのピラミッドの上にあった黒い月の中に、無数の小さい点がきらめいたかと思うと、ドーム型の天井がすべて、満天の星空に変わったのだ。そう、ここは昼間でも星が見えるプラネタリウムに違いなかった。みんなしばらくは背もたれを一番倒して、星をずっと眺めていた。レベッカの声がした。

「あ、大きな流れ星。あ、あっちでも、すごい、すごいわ」

 数分後アイザックが、いくつか光り始めた新しい文字を押していいかと聞いてきた。みんな承諾した。まず、一つ目、だが、何も起こらなかった。なにかまずい文字を押してしまったのかもしれない。

 二つ目を押す。すると満点の星空の下、黄金のピラミッドの側面にある十センチほどの門が輝きながら開き、何かが出てきた。それは小さい黄金のカギだった。みんな思わずガッツポーズだ。まだ使い方はわからないが、これを上手く使えば、この世界から脱出できるのだ。黄金のカギはブライアンが取り上げ、厳重に懐にしまいこんだ。

 三つ目を押す。すると、星空が静かに消えゆき、閉じられたシャッターがゆっくり開いて行った。よかった。閉じ込められたままだったらどうしようかと思っていたみんなは安心のため息をついた。階段を上り、外に出た。砂漠はもう、日が暮れかかっていた。本物の一番星が光りだした。みんなはベッドのある二階へとそのまま上って行った。

「あ、そういえば、俺たち、ご馳走が食べられる場所を見つけたんだ。こっちへ来いよ」

 フレデリックが先頭に立って歩き出した。なんと空中庭園の奥に大きな大理石のテーブルを発見したのだ。

「そして、ここでは、ご馳走の古代文字が光るのさ」

「と、いうことは?」

「よし、アイザック、頼む」

 もうかなり石版の扱いに慣れてきたアイザックが光る文字を押す。

「おおおお!」

 みんな驚いた、それこそファラオのご馳走のような、すごい料理が現れた。大皿にきれいに盛られた魚料理と肉料理、豆やナツメヤシもたっぷりだ。

 みんなはそこで果物や大皿のご馳走、ナッツを腹いっぱいに食べて、暗くなると、星空の下のベッドに毛布を持ち込んで、そのまま眠ってしまった。本物の星空はさらにきれいだったが、うっとりそれを見て感動して、満足げに微笑むと、そのままみな寝息を立てていた。

 そして翌朝、ちょっと寒くてみんな目が覚めた。女の子たちの方から歓声が聞こえてきた。

「やったー、リセット成功だわ。今日もすっきり、すべてがきれいに戻っているわ」

 すべては何もなかったように元に戻り、そしてまた旅立ちの朝が来たのだ。

「た、たいへんだ。朝になってリセットされたら、あの日時計の階段も元に戻っちゃって、もう二階から降りられないかもしれないぞ」

 フレデリックがあわてて空中庭園を駆けてきた。みんなもしまったと一瞬どきどきした。

「そんなこともあると思って、もう、さっき確認済みさ」

 アイザックが落ち着いて、あの階段と二階との接合部に歩き出した。階段はちゃんとつながっていた。

「理由はわからない。リセットされるのは、どうも人間だけみたいだ」

 間もなく、みんなは安心して下に下りて行った。

「いやあ、よかった、下りられた。でも本当に俺たちがいるこの世界はわけがわからない」

 考えてみると、食べ物も、飲み物も、それほど取っていない、体も洋服も洗わなくとも、すべてきれいに戻っている。ただ、夜はとても眠くなって、ぐっすり眠ると、何もなかったように元に戻るのだ。昨日のあの疲れももう、まったくないのだ。

 作戦を練ろうと、あの天井の高い地下一階の神殿風のロビーに入ると、ここでは昨日なかったことが起きていた。昨日は光らなかった石版の文字が光り始めたのだ。もしかしたら、昨日プラネタリウムで一回目に押した文字のせいかもしれない。

 一番奥の何もない壁の周りで特に大きく反応が出るようだ。みんなの了承を得てアイザックが文字を押す。

「おおお!」

 その途端、壁にいっぱいの大きさで、上向きと下向きの三角を組み合わせた六芒星の図形が現れ、中に細かい地図のようなものが浮かび出た。

 フリントは、目をまん丸くして、突然ノートを照らし合わせると、興奮して大きな声で説明し始めた。

「これは、僕たちがいるこの不思議な世界のすべての地図だ。ほらこの中は大きく三つに分かれている。このあたりが南の島エリア、あのジャングルのハイキングコースや、滝、黒いピラミッド、建物や扉の位置もちゃんと記してある。そして隣が湖水エリア、ほら、五つの湖の形に見覚えがあるだろう。そしてこれが今いる岩山と砂漠のエリアだ。岩山のコースがちゃんと僕の地図と同じだ。次のエリアへの扉の位置もわかるぞ。この神殿のほぼ真ん前の砂丘に出現する」

「やったなあ、フリント」

「そして、このすべてのエリアを収めていると思われる場所も特定ができた。見ろ、六芒星の中心点、すべてのエリアが接する真ん中に、見たことのない中世の城のようなものがある。この城が僕たち7人を連れてきたとんでもない存在の城なのだろう…」

 フリントは珍しくまだ興奮が収まらない。

「そして、あの第一の手紙にあった言葉を思い出してくれ」

「ええっとどの言葉だい?」

 するとフリントは自分で書いたメモを見せながら確認した。


…大きな三日月の

落ちゆくところ

隠された洞窟の奥に

それはある。


「今まで気が付かなかったぼくが馬鹿だった。正確に地図を作ると、見てくれ、あの南の島の形を!」

「あ、三日月…細長い三日月の形だ!」

「そう、あの南の島は三日月型のサンゴ礁の島だったんだ。そしてぼくたちが到着したのはこの三日月のほぼ中央部に近い海岸だった。そして、その近くのジャングルで落ちるものと言ったら…」

 みんな一斉に声を出した。

「滝だ!」

「そう、ここから次の扉を抜けて、南の島に戻って、滝のあたりに隠された洞窟があるはずだ。間違いない。いくぞ、みんな」

「おーっ!」

 それから少しして、七人は神殿のすぐそばの、大きな砂丘の上に来ていた。風紋が美しい砂丘のてっぺんに、次の黒い扉がそびえていた。そしていくつもの砂丘が連なる砂の上で、ゆっくり扉は開いていくのだった。

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