第8話 聖エルラス
険しい岩山と大地が平地と交わるところに、聖アビスと呼ばれる大きな崖がある。ここの崖の周囲に、山地の地下水が地上に湧き出す七つの泉がある。それら七つの湧き出し口すべてをあわせて聖なるエルラスと呼ばれ、大きなオアシス地帯の中心部であった。
だが現在、泉は枯渇し、崖の前は広い空地のようになっていた。
「砂漠の真珠、神秘のオアシスと呼ばれた聖エルラスが枯れ果てるとは…。いったい何が起きたというのだ」
ケイトとファーガスは、気配を消し、忍者のように滝が枯渇した岩山の下にさしかかった。だがその時だった。再びリュンコイスの瞳が警報を発し始めた。それに気が付いたファーガスが思わずつぶやいた。
「くっ、裏をかいたつもりが、待ち伏せしていやがる。ケイト気をつけろ、厄介なのがお出迎えだ」
地響きとともに岩陰から現れたのは、あの破壊の巨人、魔人テュフォンであった。とにかくデカイ、三メートル以上の身長があり、破壊のエネルギーに満ち溢れている。
「ほう、この間の死にぞこないが、こりずに女を連れてまた来たか。とっとと逃げ帰った方が身のためだぞ」
「ほざけ!」
ファーガスの重厚なショットガンが間髪入れず火を噴いた。
「バカめ、お前の攻撃はすべてお見通しだ」
そう言うと、テュフォンは両手を挙げた、すると右手にバトルアックス、左手に重厚な盾が光の中に現れた。
「この通りだ!」
魔法弾はまさか、盾に跳ね返されていた。
「おれにはその攻撃はもう通用せん。残念だったな」
そして、テュフォンはゆっくりこっちに歩き始めたのだった。
「ならば、私が行こう」
ケイトが進み出た。
「気をつけろ、奴は瞬時に武器を切り替え、めちゃくちゃな攻撃を仕掛けてくるぞ!」
「了解。問題なし。グリフォンのツメ、ソードモード!」
グリフォンのツメが長く伸び、強大な剣となった。ケイトはそれを両手で構えながら走り出した。
「俺に剣ではむかうつもりか? おろかな、一撃で叩き潰してやる」
「愚か者はそっちだ。受けろ、破邪の一刀切り!」
ぶつかり合う、バトルアックスと、グリフォンのソード。二回、三回と衝撃が走る。空間をものすごいエネルギーの波動が響き渡った。どちらかが、空間をゆがめる波動攻撃を使ったようだった。大きな音がして、ケイトは大きく後ろに吹っ飛んだ。
「ふふ、命知らずの愚か者が…。とどめを刺してやる」
だが、無表情で立ち上がったケイトはまったくの無傷だった。その直後、テュフォンの重厚な盾が真っ二つに割れた。
「…な、なんだと? 少しはやるようだな。だが、次はそうはいかん」
テュフォンは盾を投げ捨てる。今度は光とともに左手に棘のついた鉄球と鎖、特大のモーニングスターが現れた。だが、ケイトは一向にひるまない。
「同じ言葉をお前に返そう。行くぞ」
ケイトは後ろのファーガスに目で合図を送ると、ソードを持って走り出した。
「アックストルネード!」
テュフォンがバトルアックスを振り回すと竜巻が起こり、ケイトの行く手を阻む。ケイトが左にかわせば、鎖のついた鉄球が、二度、三度と唸りを上げて飛んでくる、大地がえぐれ、岩が粉々になる。それをすばやくかわし、チャンスを狙うケイト。
「おのれ、チョコチョコ逃げおって!」
今度はテュフォンの連続攻撃! 鉄球とバトルアックスが、交互に休みなく襲い掛かってくる。ケイトは大きくジャンプしてそれをかわすと、真上からソードを振り下ろした。
「ばかめ!」
テュフォンはバトルアックスを振り上げて、それを跳ね返す…!と、その瞬間だった。無防備になった魔人の胸元に、ファーガスの魔法弾が火を噴いた。
「グワオオオ!」
見事な連係攻撃だった。コンマ一秒ずれていたら、ケイトも吹っ飛ぶところだった。さすがの鋼鉄の魔人も後ろに倒れこみ、鎧に大きな亀裂が走った。だが、魔法弾の直撃を食って、普通に立ち上がってくる魔人を見て、驚いたのはファーガスの方だった。
「まさか、このテュフォン様に傷を負わせるとはな。だが、お前らももう終わりだ。二人で調子よく私を責めたつもりだったろうが、その間、周りに目がいってなかったようだな」
「なに?」
あわてて後ろを振り返る二人。なんということ、後ろから白い霧のような思い冷気が、地を這うように近づいてきている。そしてその冷気の向こう側から、ガシャガシャと重い金属音をたてて、黒い鎧の怪物が歩いてきた。すべてを凍らす、機械魔人カロンである。
「フォー…フォー」
カロンが呼吸音を立てるたびに、冷気が吹きだし、あたりは凍りついていく。テュフォンはバトルアックスとモーニングスターを構えなおすと、大きな唸り声をあげた。
「ふふ、もう逃げられん。覚悟するんだな」
だが次の瞬間、ファーガスが横の崖に向かって、波動ボムを投げた。爆発とともに、斜面が崩れ、大岩がなだれ打って落ちてきた。テュフォンは、大きな岩を真っ二つににして崖崩れを切り抜けた。カロンの周りは強烈な冷気ですべてが凍りついて、崖崩れが途中で止まっていた。土煙がやっと静まったとき、ケイトとファーガスの姿はもうすでになかった。ただ足跡が、エルラスの泉のさらに下へと続いていた。
「フフフ。やつら苦行の滝に降りたな。始末する手間が省けたというものだ…」
テュフォンは不敵に笑うと、足跡を追って歩き出した。
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