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「ねえ、これ、おれと会わなかったらどうしてたわけ?」
「んー、出直したかもしれないけど。…いいじゃないですか、会ったわけですし」
「いや、相手が人間ってだけでもおれには不利な上、おれ今日丸腰だからね?」
当然、買い物と食事の予定しかなかったので普段着である。ジップアップパーカーに、デニム、スニーカーという軽装で、ナイフなど街中で持ち歩くわけもなく、武器になりそうな物といえば、右腕の義手と、そのへんに転がっている材木や石…くらいだ。なんとなく、パーカーの両裾を捲くりあげながら、伊野田は口を開いた。
「この仕事の受注ナンバーとか? そーいうのだせる? 受注証明みたいなの」
「ああ、それなら」
高見はそう言って、端末の受注完了連絡の画面を浮かび上がらせた。伊野田は自分の端末でそれをスキャンする。
「それ、どうするんですか?」
「ん? ハッタリを使うんだよ。いい? もし下の二人が攻撃してきたら、おれが抑えるから。高見さんはロープガンで拘束する」
「了解です」
「絶対、おれに、当てないで」
そう念を押してジェスチャーしながら高見の目を覗き込んだ。彼女はいたずら好きな子供のような笑みを浮かべて頷いた。
「よし、ちゃちゃっと済ませよう」
彼はそう言って立ち上がり、ゆっくりゆっくり階段を降った。ほんとにお人好しっていうか、面倒見がいい人なんだろうな、と高見は思った。少しだけ酒の匂いがするのは置いておくことにして。
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