「地下にいるのって、人間ですよね?」

 高見は目を細めながら、伊野田を見て確認するようにそう口にした。なるほど、階下にいるのがオートマタであれば、自分がこの廃墟に入った途端に気づいていなければおかしいからだ。


 伊野田は少々変わった体質をしており、オートマタの気配や動きを、まるで先読みするように感じ取ることができる。それが仕事に役立っている反面、その体質のせいで人間に触れると発疹が出てしまう。今も、うっかり高見を左腕で掴んでしまったから、ほんのわずかだが左手がくすぐったい。これぐらいで済む分には問題がないが、高見も強かしたたかだな、と伊野田は思った。


「あぁ、人間だと思うよ。同業者か?」

「事務局から受注済みの案件なので、私以外はこんなとこに来ませんよ。ホームレスにしては静かすぎるから、私は泥棒だと思ってます。声と作業の感じから、たぶん二人。しかも仕事が遅い。だからちょーっとだけ、様子見てたんですよ。そしたらなんと、強い助っ人の伊野田さんがやって来てくれたってわけですよ」

 高見が言い終わる前に、階下から何かが軋む音が聞こえて来た。


「なるほどね、下に回収依頼の素材があるなら、廃墟荒らしに遭遇してもおかしくはないか。仕方ないなぁ」

 伊野田はそう言いながら唇をなめて周囲を見回したあと、義手の端末を展開させて琴平にメッセージを送信した。”ちょっと遅くなるかもしんないごめん”


 それを見ていた高見は満足そうな顔をして、拳をかざした。パンチされるのかと思ったが、「ん」と言って口角をあげて拳をチョイっと寄せて来る。あまり意味はわからなかったが、伊野田も真似して右手で拳を作ると、彼女はそれにコツンと自分の拳を当ててから、荷物からロープガンを取り出した。伊野田はふと、思い立って口を開く。

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