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店を出てターミナルへ向かう途中の交差点は人通りが多いが、その中で見覚えのある姿を目にした。
あの、自分の身長よりも高いバックパックを背負う姿は高見佳奈だろう。さきのガレージで仕事をしているメカニックで、いつも何色かのツナギを着て、肩まで伸びた髪があちこち跳ねている。今日は薄い青色のツナギだった。手足を規則正しく前後させ、まっすぐ一方向を見て歩いているのでこちらには気づいていない。確か事務局に寄っていたらしいから、その帰りだろうか。
しかしガレージと反対側の区域に進んでいるように見えて、伊野田は思わず後を追った。彼女が向かった方向が、黒澤から聞いていた危険区域だからだ。
危険区域に行くといっても、彼女や自分の仕事柄、そうめずらしいことではない。仕事というのは、メトロシティで違法に製造されているオートマタの取締りや排除のことで、高見は黒澤当麻という相棒と組んでガレージで仕事をしている。だがメカニックなので、自ら危険区域に足を運ぶ必要はないはずだと思ったのだ。黒澤はあとから来るのだろうか。
伊野田は端末で時間を確認した。まだ余裕はある。別れの挨拶ついでに声をかけよう、そう理由をつけて彼は小走りで後を追った。
大通りから道をひとつ、またひとつ逸れていくと、街は徐々にに不穏な空気を醸し出す。表通りのきらびやかな高いビル郡が、こちら側に深い影を落としている。昼だというのに薄暗く辛気臭さが蔓延る路地を進むと、廃墟だらけの区域にたどり着いた。
廃墟には、廃墟ならではのコミュニティーがある。道沿いに張ったテントやらダンボールハウスが並ぶと思いきや、廃墟を改築しようとしたのか、不格好に打ち付けられた板の隙間からこちらを監視するように見る目があることに気づき、伊野田は身を隠すようにジップアップパーカーを上まで留めて足を早めた。高見は周囲の目を気にしないのか、そのままの速度で今度は道を左折した。俯き気味に見えたのは、ナビでも見てたのだろう。周囲を警戒してほしいものだと伊野田は思った。
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