第4話 睦言――デレないでよ、スー――
「ツチ……?何だ、それ?」
赤くなったり青くなったりしている寧々子を、スーリヤが怪訝そうな表情で見下ろしている。
タウシャン村の付近にはツチノコはいないので、彼には何のことなのか分からないのだろう。かくいう寧々子も、イメージ画像は見たことがあっても実物は見たことはないのだが。何せ、未確認生物なので。
「いや、あの、スーのツチノコ、違う、そ、それ、大きすぎじゃない……?」
「……?」
挙動不審な寧々子の視線を追い、己の股間に辿り着いたスーリヤは彼女が何を言わんとしているのかを察した。
「……標準だろ」
「わー……標準の基準が分からない……」
先走りの液を滴らせてそそり立っているスーリヤの陽物の大きさや太さは、寧々子の知っている範囲の標準に該当しない。消えかけている過去の記憶を手繰り寄せてみても、初体験の相手はこれほどではなかった――顔は綺麗に忘れたけれど。
性行為なんて、要するに牛の種付けみたいなものじゃない。品のない言い方をすれば、男が女に突っ込んで出して終わりよー。と、恋愛にまるで興味のなかったあの頃の自分を呪いたい。
(種付けの時に見た牛のアレほどじゃない……と思う。よし!)
マツタケはいけたのだから、頑張ればツチノコもいけるだろうと訳の分からないことを考えながら、寧々子は己を奮い立たせて深呼吸をし、逸る鼓動を落ち着かせる。
「……水を差すようなこと言ってごめんね?萎えてない?」
「……っ、本当に色気がないな、お前……っ」
スーリヤが口元に手を当てて、肩を揺らして笑っている。稀に物凄く分かり難い笑顔を見せてくれた――今は異様なほど笑ってくれている――ことはあれども、こんな姿は見たことがないので驚いた寧々子は目を瞠るばかりだ。
(そうやって笑うと、可愛いじゃないのよぉ……っ)
折角落ち着いたのに、胸がきゅんきゅんして鼓動が早くなってしまう。一頻り笑うと、スーリヤは寧々子に口付けて囁いた。
「……そう簡単に萎えるかよ……ずっと我慢してたんだからな……」
「え?ひゃあぁっ!?」
膝裏を掴まれて、体を二つ折りにされてしまう。曝け出されている秘所にスーリヤの陽物が擦りつけられると、ぷっくりと腫れあがっている花芯を掠めて、強い刺激に反応して声が漏れ出た。
「……入れるぞ?力抜け……」
「うん……」
寧々子の蜜を充分に絡ませた陽物が、ひくひくとして刺激を求めている秘所に宛がわれ、先端がゆっくりと寧々子の中に侵入してくる。
「んぅ……っ!」
「……きつ……っ」
「ふぁっ、入っちゃった……?」
「ん……先っぽだけ、な……」
寧々子の秘所がスーリヤの陽物の一番張り出している部分まで飲み込んだところで、彼は一旦動きを止め、体験したことのない圧迫感に耐えている彼女の様子を窺う。
「……痛いか?」
「いた……くない……けど……くるし……かも……っ」
「ん……」
スーリヤは腰を動かさず、寧々子の性感帯を刺激して緊張を解していく。そうして力が抜けて中の締めつけが緩まると少しずつ腰を進めては止まり――を繰り返す。
「あんっ!」
そうしていると、こつん、とスーリヤの先端が寧々子の一番奥に当たり、反射的に背を仰け反らせ、宙に投げ出している両足をぴんと伸ばしてしまった。
「お、く、当たって……っ!」
「ここまで、か。全部は流石に無理か……」
ぽそりと彼が呟いたのが聞こえたので、のろのろと手を動かして、スーリヤと繋がっている部分に触れてみる。確かに其処からスーリヤの陽物の根元まで、若干距離があった。
(ツ……ツチノコ、全部じゃないけど、入っちゃったぁ……すごぉ……)
スーリヤが念入りに解していてくれた御蔭か、大きさと太さによる圧迫感はどうにもなからなかったが、痛みは感じなかった。寧々子の中でスーリヤの熱の塊が脈打っているのが直に伝わってきて、漸く一つになれたのだと嬉しくなり、涙が勝手に出てくる。
「……余裕ありそうだな。動いていいか……?」
「ん……良いよ……」
ゆっくりとぎりぎりまで引き抜いて、再びゆっくりと奥まで穿たれる。寧々子の反応を窺いながら、スーリヤは徐々にその動きを早くしていき、寧々子に与えられる快楽も少しずつ強くなっていく。
「スー……きもちい……っ?」
「ん……良い……」
「あっ、ほ、ほんと?んっんっ、やぁ……っ!」
「ん……こら……そんなに締めつけるなよ……」
彼が気持ち良くなってくれていることが嬉しくて、無意識に締めつけを強くしてしまったらしい。苦しげだが、艶っぽい声音が耳に入った途端、腰が甘く痺れたような気がした。
「んあ、あっ、スー、スー……っ!」
「ネネ……寧々子……」
「うぇ?あ、ひぁあ……っ」
スーリヤは今、”ネネ”の後に”寧々子”と言わなかっただろうか。彼に齎される熱と快楽に浮かされているので、幻聴でも聞こえたのだろうか?
「……はぁ……っ、搾り取られそ……っ」
涙で霞む目を凝らして見上げると、スーリヤが目を閉じて眉根を寄せて、何かを堪えているような表情をしているのが見えた。
「あっ、ひっ、スー、いっちゃう……っ!」
「ん……俺も、限界……っ」
「ああぁぁぁ――っ!」
最奥を一際強く穿たれた途端、寧々子は目の前で光が弾けたような感覚に襲われた。
「……っ」
僅かに遅れて限界を迎えたスーリヤが、寧々子の中に熱い精を吐き出す。胎内にそれが満ちていく感覚が心地良くて、全身から力の抜けた寧々子は恍惚の表情を浮かべた。
***********
「はぁ……っ」
未だ寧々子と繋がっているスーリヤは、彼女の頭の上に腕をついて、荒い息をしている。ある程度息が落ち着いてきたところで、とろんとした目で虚空を仰いでいる寧々子に口付け、意識を此方へと向けさせた。
「……悪い、言い忘れてた。寧々子、愛してる」
「え……っ?」
目を瞠った寧々子の唇を再び塞ぎ、深く長く口付ける。
(空耳じゃなかったんだ!スー、あたしのこと、”ネネ”じゃなくて”寧々子”って呼んだ……!)
この世界では誰も寧々子のことを”寧々子”とは呼んではくれないだろうと勝手に結論付けていたのに。
”寧々子”という名前を言ったのはあの日だけで、その時スーリヤは”寧々子”とは言えなくて、それで”ネネ”と呼ばれるようになったのに。
「ど……して、寧々子って言えてるの?え?え?あの時、言えなかったよね?あれ?覚えててくれたの?ねぇ、何でぇ……!?」
「……さぁ、どうしてだろうなぁ?」
ぼろぼろと大粒の涙を零す寧々子を宥めようと、顔中にキスの雨を降らせてくれるが、理由は教えてくれない。
「スーの意地悪……っ!今まで素っ気なかったし、そんな素振り見せたことないのに、どうして愛してるとか、いきなり言うのぉ~っ!?ふぇえぇぇ~っ」
「……そうだな、悪かった」
「スーの馬鹿~っ!だけど心の底から愛しちゃってんのよ、あたしの馬鹿ぁ~っ!大好きなんだから、馬鹿ぁ~っ!」
「……くくっ、面白い奴……」
くつくつと喉を震わせて笑われていてもスーリヤにいとおしそうに見つめられると、喉まで出かかった悪態が引っ込んだ。幸せを感じるものの、やっぱりどうにも悔しいような複雑な気分になった寧々子は何故か強がった。
「あたしも、スーのことスーリヤって言えるんだからね……!」
「……知ってる。陰でこっそり練習してただろ。だから俺も……――」
と、そこまで言いかけて、スーリヤは一度口を噤む。不思議に思った寧々子が首を傾げると、ばつの悪そうな顔で苦笑した。
「……でも、スーで良い。お前にスーって呼ばれるのは……好きだな」
「あたしもスーにネネって呼ばれるの、好きだよ……。だけど、偶にで良いから、寧々子って呼んで欲しいな」
寧々子のお願いを彼が了承してくれたので喜びのあまり破顔すると、何故だかスーリヤが溜め息を吐いた。
「……寧々子、そんな顔するな……」
「え?あたし、変な顔して……わっ」
寧々子の中に収まったままでいた欲望が、鎌首を擡げるのを感じた。理由はよく分からないが、どうやら彼を刺激してしまったらしい。
おかしいな、色気がないって言われるのに。言われたのに。
だが、彼が自分を欲してくれているのだと思うと、嬉しくて堪らない。
「スー、もっとして……?未だ足りない、もっともっとスーが欲しいよ……」
「……腰抜かしたって知らねえからな」
そう言いつつ、スーリヤの目は既に情欲の色を宿していて、声音も妙に艶っぽくて、背筋がぞくぞくした。まるで捕食者に狙いを定められた被食者の気分だ。
「いいよ、それでも……」
「……ふぅん、あっそ……」
スーリヤが素っ気ない反応を返したので、思わず笑ってしまった。笑顔を見せてくれて、尚且つ愛を囁いてくれる彼も良いけれど、この素っ気なさも好きだなぁと実感する。
二人で顔を見合わせて微笑みあった後、互いが満足するまで求め合った。
**********
――翌日の朝。
夕飯を食べるのも忘れて互いを貪った結果、寧々子は寝台から出られなくなった。
「た……立てない……」
「……だから言っただろ」
「うぅ……ツチノコなめてました、すいません……」
「……だから、ツチノコって何だ……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます