第3話 睦言――未知との遭遇――

 深い口付けから解放すると、スーリヤは目を細めて寧々子の頬をいとおしそうに撫でた。


「……ったく、誰とも番う気がなかったのになぁ……」


 口ではそんなことを言っているのに、声音や寧々子を見つめる目は酷く優しい。誘惑が成功したと喜んで良い筈なのに、どうしても信じられなくて唖然としている寧々子に苦笑いを浮かべると、スーリヤは彼女の背に腕を回して抱きしめた。


(スーの馬鹿力……苦しいよ……)


 これでも力を入れないでいてくれているのだろうということは分かっている。だから苦しくても不思議と寧々子の心は幸福で満たされていくのだ。

 ――ああ、彼は愛を謳う寧々子に応えてくれたのか。

 漸く現実を認めることが出来た寧々子は、広く逞しい背中に手を這わせて、肩口に顔を埋めているスーリヤに頬を擦り寄せる。


「……ネネ。お前から誘ったからには、”この前”みたいに俺にお預けを食わせたりしないよなぁ?」

「……この前?え?お預け!?何のこと!?」

「教えてやらない。自力で思い出せ」

「うわっ、スーのい……っ」


 意地悪!と言い切る前に唇を塞がれてしまう。然も御丁寧に、逃げられないようにと首の後ろに手を添えられているので顔を背けることも出来ない。


(うぅ~、スーの奴、何でキスが上手いのよぉ……っ!?)


 スーリヤに拾われてから二年近くの日々が過ぎたが、彼の浮いた話は一度も耳にしたことがない。だというのに、彼は巧みに寧々子を翻弄してくる。

 因みに寧々子はというと男性経験はあるのだが、経験値はとても少なかった――諸事情により。なので、意趣返しをしてやりたくても出来ないでいる。それが何故だかどうにも悔しいので――誘惑したからには優勢をとりたいのか――口内を自由に動き回っている肉厚な舌を何とか捕らえて甘噛みしてやると、スーリヤは楽しげに喉の奥で笑ったようだ。


「……負けず嫌いだな、お前」

「う……っ」


 スーリヤは身を起こすと、図星を指されて言葉を失っている寧々子を軽々と抱き上げ、寝室へと連れて行った。




**********




 寝台の上におろされた寧々子が息を整えていると、スーリヤは手早くカーテンを閉め、何処かへと行こうとした。


「何処行くの、スー?」

「ん……戸締り。邪魔されたくねえから」


 いやに色気のある含み笑いを浮かべると、彼は寝室を一旦後にする。


(いつもは仏頂面のくせにぃ……っ)


 スーリヤが寧々子には見せたことのない表情ばかりを見せてくるので、普段との差が激しくて、慣れていない寧々子の心を乱し、熱を生む。


「……熱い」


 激しい運動をした訳ではないのに――いや、あのキスはそれに該当するかもしれない――火照っている体は、しっとりと汗ばんでいる。涼しさを求めた寧々子はさっと服を脱いで、床に放った。ひんやりとした部屋の空気が何もまとっていない肌に触れて、心地良い。


「……お前ってどうしてそんなに積極的なんだ?」


 呆れたような声がした方へと顔を向けると、戸締りを終えて戻って来ていたスーリヤが額を押さえながら項垂れていた。何となく視線を落としてみると、太くて長い尻尾がふりふりと大きく揺れているのが見えた。内心では寧々子の裸を見られて喜んでいるのかもしれない、と思うことにした。


「どのみち脱いじゃうんだもん、いいじゃない」

「……女の服を脱がすのは男の楽しみなんだぞ。少なくとも、俺はそうだ」

「じゃ、ちょっと待ってて。もう一回着るから……」

「……また今度で良い」


 色気のない奴、とごちながら寝台に乗り上げ寧々子の腰を抱いて引き寄せると、そっと横たえさせて、スーリヤは彼女の上に覆い被さった。


「色気なくてごめんね?」

「……それがネネだろ」


 無理をしてしなを作られても気味が悪いと言われてしまった寧々子はむっとするが、婀娜っぽい自分というものを想像してみたら確かに気味が悪かったので、結局は納得してしまい、笑ってしまった。

 浅黒い肌のスーリヤの頬に両手を添えて引き寄せ、触れるだけの口付けを何度も施す。一方で、人間とは違うスーリヤの手が寧々子の首や肩、脇腹をなぞる。その感触が心地良くて、寧々子はうっとりとする。

 腰から太腿のラインをなぞっていた手が次第に上がってきて、寧々子の豊かな胸をやんわりと掴む。遠慮のない女友達に激しく揉まれても何ともなかったのに、愛しい人にやわやわと揉まれているだけで息が上がってきて、胸の頂がぷっくりと立ち上がる。


「……気持ち良いか?」

「ひぁんっ」


 赤く色づいた頂をきゅうっと摘まれると、反射的に声が出てしまった。口付けに夢中になっていた唇を離すと顎を捕らえられて上を向かされて、無防備な喉元に食らいつかれた。寧々子の胸を揉む手は止めずに。

 ――食べられたいとは言ったけれど、それは別の意味で。はぐらかさないで正直に「抱いて欲しい」と言うべきだったと反省している寧々子だったが、スーリヤの鋭い牙は寧々子の柔肌を食いちぎることはなくて。


(良かった、食べられるかと思った……いや、うん、食べられたいんだけど……)


 スーリヤは寧々子の喉元を甘噛みしているだけのようだ――それも歯形が付くか付かないかというほどの絶妙な加減で。何だか大きな猫にじゃれつかれているような気分になってきた寧々子がスーリヤの耳の裏を擽ると、彼はぴくりと身を強張らせたがそのまま甘噛みを暫く続けて、満足をすると漸く牙を離し、その際にざらついた舌で寧々子の喉を舐めたのだった。


「んぅ……」


 鼻から抜け出る嬌声が耳に届いて恥ずかしくなった寧々子が口を両手で塞ぐと、スーリヤにあっさりと外されてしまう。


「ネネ……口塞ぐなよ……」

「だって、声、恥ずかしい……っ」

「……豪胆なんだか、繊細なんだか……」

「あっ、やぁ……っ」


 胸の頂を口に含まれて、赤ん坊のように吸われて感じてしまう。もう片方も親指の腹で、くりくりと弄られる。寧々子の豊かな胸や反応を楽しんでいるスーリヤの空いている手が動いて、内股を撫で上げ、とろりと蜜を零し始めている秘所の周囲を指でなぞる。

 ――触れて欲しいのは、其処じゃない。其方にばかり意識を向けていると、いつの間にか顔の位置を下げていたスーリヤが臍の周囲に強く吸いついて、更には窄めた舌先で臍を弄ってきた。


「あっ、やぁ、スー……!」

「……臍……弄ると感じるのか……」

「やぁ、スー、そんなとこ弄らないでよぉ……っ」

「嫌、ねぇ?今のでお前が零す蜜の量が増えたぞ……?」


 閉じられている花弁を指で広げると、スーリヤは其処をまじまじと見つめる。


「……ほら、物欲しそうにひくついて……泉みたいに蜜が湧き出てきてる……」


 カーテンが閉められているとはいえ、外は未だ明るいので寝室の中もまた仄かに明るい。寧々子の目でも、スーリヤの表情が分かる程度に。夜目の利くスーリヤには何ら問題なく寧々子の秘所が丸見えのようで、御丁寧に其処がどうなっているのか説明されてしまうし、獲物を見つけた捕食者のような目をして舌舐めずりをした彼の姿が凄艶で、寧々子は恥ずかしさが極限まで達して、顔から火が出てしまいそうになる。


「んっ、んんっ、ひぅぅ……っ」


 花弁の奥の襞を舌先で丁寧に舐められたり、慎ましく隠れていた花芯もそっと剥かれて蜜を絡めた指の腹で刺激されて。淫靡な水音が否応なく耳に入ってきて、恥ずかしくて堪らない。


「スー……スー……!」


 秘所の入り口を舌先でなぞられたと思った途端、それが中に捩じ込まれ、言いようのない快感に襲われた寧々子は背を仰け反らせた。熱い舌が浅く出し入れされているだけだというのに、もう達してしまいそうだ。


「スー……らめぇ……やあぁ……っ!」


 いやいやと首を振っていながら、寧々子の両手は足の間にあるスーリヤの頭を秘所に押し付けている。もっともっと触れて欲しい、刺激が欲しいと希っているかのように。


「も……駄目……入れて……?」

「……未だ駄目」


 緩慢な刺激に苛まれ続けている寧々子は我慢が出来なくなってきたのだが、スーリヤは彼女のお願いを却下する。


「スーの……意地悪……っ」

「……お前が大事だから……意地悪してんだよ……」


 切なそうな声で耳元で囁かないで欲しい。スーリヤが欲しいと子宮が切なく反応して、脳髄が痺れて、何も考えられなくなる。


「若しも爪が当たったりして痛かったら……俺を殴るなり蹴っ飛ばすなりしろよ?」

「んっ、ふぅ、うぅ~~っ」


 ゆっくりと、スーリヤの太い指が秘所に埋め込まれていく。それだけでも結構な質量を感じて、体が勝手に震えてしまう。


「さて……ネネのイイトコロは……この辺りだったか?」


 ゆるゆると出し入れされていた指がある場所を狙い、内壁をぐりっと強く擦ってきた。


「ひあぁぁぁぁっ!?」

「……正解」

「あっ、あっ、あぁん、やぁっ、スー!そこぉ、やらぁ……っ!」


 どうしてスーリヤは寧々子の弱いところを知っているのだろう?

 寧々子がスーリヤにお預けを食わせたという”この前”に何があったのか全く思い出せないのが、とても歯痒い。


「嫌?その割には俺の指を締めつけて離さないなぁ?……もう一本いけそうだな」

「ひぅっ!?」


 漸く異物感に慣れてきたところだというのに、もう一本指を増やされる。そうしてまた慣れてきた頃合を見計らい、溢れ出てくる蜜の助けも借りて、三本目の指が中に入ってきた。


「ん……ふぅ……っ」

「……きついか?」

「ん、だい、じょぶ……」


 スーリヤは寧々子の弱いところを刺激して、彼女の体の緊張を解してくれているけれど、段々とそれだけでは物足りなくなってくる。


「スー……も……いい……?」

「……そうだな」

「じゃ……スーも気持ちよくなろ……?」


 息も絶え絶えな寧々子がそう囁くと、スーリヤの情欲を孕んだ目が眇められて、唇が弧を描いた。


「ひぃあぁっ!」


 不意に花芯を擦られてから指を引き抜かれて、寧々子は一度達してしまった。びくびくと体を痙攣させている寧々子を見下ろしながらスーリヤは服を脱いでいき、床に放っていく。


(あ……スーって、胸とお腹の辺りはふかふかじゃないんだぁ……。ちょっと残念かも……。でも引き締まった良い体してるなぁ……綺麗に腹筋割れてるし……)


 力が抜けて体が上手く動かないので目だけを動かして、スーリヤを観察していた寧々子は目線をもう少し下に落として――固まった。


「………………………………………………………………………………ツチノコ?」


 伝説の未確認生物ツチノコを捕まえたら賞金○億円を進呈!見かけたよ!という情報もおまちしております!――なんて、いつだったかテレビ番組で見かけたキャッチコピーが頭をよぎってしまった。


(落ち着け寧々子……!それはツチノコじゃなくって、スーの大事な部分だよ……!)


 それにしても、このサイズはちょっと凶悪ではないだろうか?いや、彼の身長と体格を考えると妥当なのだろうか?

 これを挿入されたら、裂き○カ若しくは裂ける○ーズ宜しく縦に裂けるんじゃないだろうかと不安になってしまった寧々子だった。

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