第17話 親友

突然、背中に飛びかかる声に思わず肩が小さく反応する。




「あ …玲凪(れな)!?」


「ここにいたぁ…」




はぁーっと、息を吐きながらあたしの前で両膝に手をついて額にうすく伸びた汗を拭う玲凪に驚きを隠せず動揺したまま思ったことがそのまま口をつく。




「なに。どうしたの?」


「まぁまぁ。とりあえず落ち着いて~…の、前に休ませて」


「う、うん」




走ってきたせいなのか呼吸を弾ませる玲凪が何度か深呼吸をする。


玲凪、瀬戸せと 玲凪れなは、クラスメイトでありあたしの中学からの親友だ。特に目立つこともない優しいコだけど、変わっていることといえば霊感があるほうだという。




「で、どうしたの?玲凪」


「どうしたの?、じゃないよ~。授業でないで急に飛び出してっちゃって。こっちがどうしたの、だよ」


「ああ!あれねぇ…あれはえーと、その…」


「もしかして、まだ、風桐くんのこと…」




 授業を投げ出した理由をどうごまかそうと考えていると、玲凪がおずおずと遠慮がちに斗真のことを切り出す。




「斗真?まさか。斗真のことで授業放り出したりしないよ~」


「そう?それなら、いいんだけど。やっぱりまだ…」


「大丈夫だって。玲凪はほんと心配しすぎだよ?」


「うぅ…だってー」




 それでも心配だったのか、なおもくいさがる。でも、こういう優しいところが玲凪のいいところだ。




「はいはい だいじょーぶ!!見てよほらっ!こんなに元気だって!ね?」


「うん…。」


「それに、斗真だってそばにいてくれるし…、ね」


「え?」


「なんでーもないっっっ!!」




 小声にしてしまったから聞こえなかったのか、聞き返す玲凪に元気いっぱいの声でそう答えてあたしたちは教室へと戻った。
















AM7:30


少し早めについた教室の前、あたしは大きな深呼吸をひとつして教室の扉を開く。




「おはよー!! 」


「おう、真城。」


「あ、なんだ八木ひとり。はよー、早いんだねー」


「なんだってなんだよ。まぁ?ほらやっぱり俺ってばさすがだから?」


「はいはい。そのわりには、机の上のノートに随分と落書きしてるみたいだけどねー」




 意外なその早起き人物にそういうと、八木は決めた顔でそう答える。そのボケをあたしは、苦笑いしながら受け流す。




「な…ちっげーよこれは!!このページだけしか使ってねーノートだったから持ってきただけだし!数学のノートのかわりだし!」




…パラパラ。


突然、窓の空いていないはずの教室内に、どこからか吹き込んだ風がノートのページをめくる。


(ん?あれ、全ページびっしり絵が書いてあるんだけど…)




「…………。」


「ちっげーよ!そう あれだ! そいやこれ、隣のクラスのやつがおいてったノートだし!俺んじゃねーし!」




そこでまたしても、風が吹いてノートがあたしの足元に落ちて閉じる。


……パタン。


『落書きノート  名前:八木 晴太』




「…………。」


「つ、つか、俺が絵書いてねーし!ていうか、書いたよ!もぅ俺が描いたってことにすればいいよ!ほんとは 違うけどねっ!」


「わかったわかった。そんな思い切り否定しなくても…」


「真城、絶対信じてないだろ。にしても嫌な風だぜ。まったく!」




 そうして、みんなには見えていない斗真がやったとは知らない八木は、ぶつぶつと一人口を尖らせながら、八木曰く隣のクラスのヤツのノートを自分のカバンの中へとしまった。
















「もー やりすぎだよ?斗真。八木がかわいそうでしょー?」




人通りの少ない廊下を歩きながらあたしが


気配の感じる方に話しかけてみると、どこからか姿を現し透明な斗真が楽しげに笑いながら答える。




「あははっ。だって八木っておもしろいからからかいたくなるんだもん♪」


「あー…まぁそれはちょっとわかるかも。必死に隠そうとしてたしねぇ~もうわかってるのに」


「…ま、それだけじゃないけど。」




 最後にすこしだけ付け加えるように何かをつぶやいたようだが、短くつぶやいたそれは耳を傾けた頃には遅くあたしには聞き取れなかった。




「ん?なに?」


「あと一つの理由はー…ないしょ!!」


「斗真のケチ!」


「べ。ケチでいいよーっだ!!」




………キーンコーンカーンコーン。


(あ。もう5分前)


結局、斗真からもうひとつの理由を聞けないままあたしは教室に戻って、授業の準備を始めた。

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