第12話
「うーーーーーーーん…」
斗真が居候発言をしたのち、先々のことを考えてあたしはすっごく悩んだ。
「どうした?奏。そんなぐるぐる体回して。気持ち悪くなんない?」
「なんない。
って、じゃなくて。ほら一応やっぱりお母さんとかもいるわけだし、部屋来るし勝手に友達泊めてるなんて知られたらやっぱりアレだし…」
「友達じゃなく、彼氏ね」
「でも、ごはんとかもやっぱり必要だから部屋にこもりっぱなしってわけにもいかないし…」
「友達じゃなく、彼氏ねっっ」
「それにそういや着替えとかも斗真なんにも持ってないし…」
「友達じゃなく、彼…」
「彼氏泊めてるなんて知られたら大変だもんねっっ!!これで満足!?」
「お、おぉう…。なんかやけくそになってないかとも思うけど…」
「やけくそだよっっ!!どんだけ彼氏って呼んでほしいの!!」
「そりゃ 百万回でも♪」
やけくそに大声で返すあたしに、斗真が即答。
(そっちがその気なら…)
「彼氏さん彼氏さん彼氏さん彼氏さん彼氏さん彼氏さん彼氏さん…」
「うん!!おれが悪かったな!!ごめんな!!
なんか地味に変な世界にでも飛びそうだからやめよっか、それ!!…んで、何がなんだって?」
(あ そうだった!)
斗真の言葉にようやく本題を思い出す。
「だから、お母さんたちに斗真のことどうやって隠そうかーってことをね…」
「隠す?」
「だからね…」
小首をかしげた斗真に答えようとしたとき、誰かが階段を上がってくるような足音がして咄嗟に斗真の口に人差し指を立て、あたしはそこで言葉を切る。
コンコン。
やがて、静まり返ったこの部屋をノックする音が響く。
「あの、奏…。お夕飯、持ってきたんだけど…」
「え…」
あたしは慌てて、部屋にかかった柱時計を見た。
朝11時半過ぎに起きて、斗真と話をしてその後もゆっくりと行動していたような気はしていたが、もう19時前だと気づいたのは今で時間の流れがとても早く感じた。
(いつのまにこんなに早く…)
そんなことを考えていると、またノックがしてそれに続くようにお母さんの呼び掛けが飛び込んできた。
「奏?」
「え?あ、ああ。うん、今開けるね」
あたしは動揺しつつ、部屋の隅を指差して小声で斗真に隠れるように注意をするとできるだけ部屋が見えないように少しだけドアを開けて夕ご飯を受け取る。
「ありがと、お母さん」
夕御飯を受けとりお母さんにお礼を言いつつ目線をちらりと部屋の隅の斗真へと向けてみると何かを思いついたかのように手を打っていった。
「ああ。なんだ、隠すって俺のことを。大丈夫だよ、だって…」
「ちょ…なにするつもーー」
嫌な予感がして、斗真を止めようとも思ったけれど目の前にすぐ母さんがいるので本当に聞こえるか聞こえないくらいのわずかな声でそれだけを言いかけた。
「ほんとうに部屋で大丈夫?一緒に食べたほうが…」
こんな感じで心配そうに自分の頬に手を当てるような仕草をして母さんが何かを喋っていたが、あたしにはその言葉が耳に入ってこなかった。
斗真はあたしの注意を聞かずにあたしとお母さんの間に立ってお母さんに向けてヒラヒラ手を振る。
しかし、お母さんは何も言わずにあたしが聞いているものだと思って会話を続ける。
(え…?お母さん何も言わない…?……あ!!)
「俺、幽霊だもん」
(そっか、"見えない"ってこと…すっかり忘れてたよ…)
その後、隠すも何もなかったんじゃん、と一人心の中でツッコミを入れてしまったのは秘密だ。
午後11:32
「ふぁーぁ…今日はいろんなことあって疲れたなぁ」
風呂あがり。
濡れた髪を軽くタオルで拭いて、ふかふかのベッドにダイブする。あたしの独り言に答えるようにどこからか斗真が現れる。
「いまからもっとイロンナコトしてもいいよ?夜なんだし♪」
「え… え…!!な、なに考えてぅの!?」
(あ しまった…)
「ぷはっ…噛んでやんの!! 嘘だよ」
「もーー!!変な冗談とか やめてよね!!」
吹き出して笑う斗真に、恥ずかしさで火照った顔が斗真に見えないようにできるだけ伏せながら言い返す。
「くくく…ごめんごめん。…ま 寝顔とかかわいすぎたらわかんないけど。」
「へ?今なんて…」
「別になんでも?」
(…? なんか不安も残ってるけど…ま いっか)
結局、そのとき聞きそびれた言葉を聞き流してしまったままその夜は眠りについたのだった。
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