第13話 きみがいてくれること
「きて…おきて。奏」
(…奏、、、か)
9月18日
……ピピピピピピ。
あいまいな意識の中に、目覚ましの電子音が一定の音程でただ鳴り響く。
(あーあ… せっかく斗真の夢、見てたのにな…)
「学校遅刻するよー?」
もやがかかったような思考のまま、そういった誰かの声に答え目を開けた時だった。
「はいはい…起きますよー起きまー…すぅう!?わぁぁ…っ!!」
がたがたん…っ!!
動揺して後ろに退くと、支えのないベッドからずり落ちる。
「だ、だいじょうぶ?奏、どうしたの?朝からそんな驚いて…。
あ!!もしかして今『なんで俺がいるんだ』って思ったろ?」
反射的に肩が反応して、ビクンとちいさく動く。
「……ノーコメント。」
「あたり、だな♪わっかりやすいの、奏」
「うるさいっっ バーカ」
得意げに笑う斗真が、なんだか憎らしいようで憎めないようでつい文句をこぼす。
「バ、バカ!?ってか、学校遅刻するよ?急がなきゃーー…」
学校。
時計の針はもう8時半。一限目まではあと30分しかない。急げばぎりぎり間に合う距離。
(でも……)
「行きたく…ない。
斗真もいないし、なんにも楽しくなんかないもん…。」
一度起き上ったものの再びベッドに倒れこんで、枕に顔をうずめるあたしに斗真がただただ黙りこむ。
「奏…」
長い沈黙を一つ置いた後、覚悟を決めたようにため息をひとつ吐き出して斗真が口を開く。
「…よっしゃ!!
じゃあ久しぶりにデートでもしますか!!」
「わ!!ほんと!?」
嬉しくなってつい、声がひときわ大きくなる。
「おうっ!!俺が嘘つくかってんだ」
「昨日 ついてたけど…」
「え。それ言っちゃう?」
「んーん。じゃ、言わないであげるね」
あたしの指摘に斗真が苦笑い。それでも嬉しくて、顔を見合わせて笑いあった。
「そのかわり、ちゃんと来週からは学校いくんだよ?約束、な?」
「うんっっ♪」
すっかりテンションの上がったあたしに、斗真が子供に言い聞かせるように諭す。
「じゃ ひとまず外出てみるか、、、と。奏は…」
「その前にあたし、着替えるから」
「ああそう、うん。わかったー」
(さてさて…あたしは何を着て行こっかなーっと……)
お気に入りの服を引っ張り出して弾むような気持ちであれやこれやと手にとっては置いたり鏡の前に立ってみたりと洋服を選ぶ。
一方で斗真はああ返事したっきり、洋服を取り出したりして選ぶあたしの後ろから一向に動こうとはしない。
「「…………。」」
「えと…、着替えるんだけど?」
「うん?だから待ってるよ?ここで」
(ん…?ここで?さては斗真……)
ここでようやく斗真の意図に気づいて、言い返す。
「下で、だよ!!下で待ってて!!この変態バカ!!」
ーーーー斗真を玄関先に無理やり押し出して鍵を閉めて準備すること10分ほど。
着替え終えたあたしと斗真は、一緒にどこへという目的地もないまま、ふたり平日の朝の街を並んで、歩きだす。
「ちぇ…。奏のいじわる」
「いじわるで結構だよ」
「奏のバーカ」
「バカで結構」
「奏はかわいい」
「かわいくて、けっー…ぇっ!?」
「あはっ 奏いま、かわいくて結構って言っちゃったね!!」
「いってないもんねー!!言いかけただけだし!!」
「あ いいかけたのは否定しないのな」
「え あ……違うの!!あ 違くもないんだけど…て、あれ?」
向きになって言い返した自分のセリフを思い返して、自分自身何を言っているのかわからなくなって混乱する。
「ほんと からかいがいのあるやつ。んで、どこ行こっか?」
(なんかバカにされている気もするけど…)
「んー、そうだなぁ…。普段じゃいけないところはどうかな?」
「なんだそれー。よくわかないけどとりあえず四つ葉通りでもいくか」
「そうだねー」
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