下 14
「うわっ、なんだなんだこの音は!?うるさいぞ!」
思わず耳を塞いだ。
鼓膜を突き破るような異常な音が鳴り響く。
運転していた渚も、あまりのことにハンドルが手から離れる。
「一体なんなんだったんだよ、今のは」
暫くして音が止むと、2人は顔を突き合わせた。
「なんだか、嫌な感じだな」
すぐに静まり帰った森が、これまた不気味なのであった。
「そうッスね…」
渚が再びジープをガタガタと動かし始めた。
「今の音は、例の鳥が出したものなんスかね?」
「なわけないだろ。あの鳥は鳴くんじゃなくて、代わりに火を吐くんだぞ?」
「それも嫌ッスね」
渚が軽く笑った。
「しかし、あの鳥も随分と手間取らせてくれるもんだな」
「そうッスよね…制御装置をかけて、こんな最新鋭の武器を持っても、あんな火の玉吐いちゃうっスからね…」
これで火の鳥捕獲チームは何回目の派遣になるだろうか。他の動物達には手こずった事もあったが、火の鳥だけは能力的なもので、非常に厄介なのだ。
「でも捕まえれば、あれは結構大っきめの値がつきそうッスし、諦めきれないっスよね」
「だな。行動記録によると、もうすぐ火の鳥の巣が近い。そろそろ俺達で片を付けようじゃねぇか」
「1人やられちまってるっスからね。こっちも借りを返さなきゃっスね」
「ああ。もちろんだ。今日は新しい武器だしな」
火の鳥に関しては単純な狩りならいいのだが、任務は生け捕りだ。火の玉攻撃を避けつつ、麻酔弾を当てなければならない。火の玉に加え、鳥はそもそも動きが早い為、これを当てるのは非常に難解だ。
今回はバージョンアップさせ、シュミレーションで成功した麻酔銃と捕獲網を持参し、ジープも補強した。ちなみに捕獲網に際しても、捕まえても網そのものを焦がされた事もあるので、これもバージョンアップさせている。
「さて、出てくるっスよ~お嬢ちゃん」
渚がハンドルから手を離し、科学者が以前に使っていた火の鳥を呼ぶ鈴を鳴らす。この鈴は動物の生みの親とだけあって、巣の近くで鳴らせば大抵の確率で現れるのだった。
鈴の音が閑散とした森に場違いに明るく響き渡る。
「来ないっスね…」
渚が言う。
「いや待て。何か聞こえるぞ」
麻酔銃を片手に、耳を澄ます。
「本当っスか?何も聞こえないっス…」
渚が言いかけたその時、背後から爆撃のような音が飛び込んでくる。
奴が、来たのだ。
「挨拶代わりに火を吐くとはな。おい渚、奴はどこに行った!」
「ちょうど真上っス!今がチャンスっスよ!」
慌てて銃口を上向けにし、空を彩る艶やかな鳥に焦点を当てる。
「さあ終わりだ。しぶとい鳥さん」
元々射撃の才能がある人間にとって、ロックオンさえすれば、こちらのものだった。
放った弾丸は見事に鳥の腹部を貫いた。
「やったっスよ!命中っス!」
渚がガッツポーズをする。
しかし、鳥は全くリアクションを見せなかった。中腹に弾丸が刺さったまま、それを自分の一部であるかのようにして、平然と鳥は飛行を続けた。
「な、なんでっスか!?シュミレーションでは、そのまま落ちたっスよね!?」
渚が動揺する。
「おい渚、早く車を動かせ!このままだと車ごと骨にされるぞ!」
渚が慌ててアクセルを踏み込む。
「うわぁ!」
渚が急ブレーキをかける。
「どうした渚!」
「前、前っスよ…!」
前方には、じろりとこちらを見る黒目があった。華麗な羽を付けたその黒目は、ジープを視界から逃がさない。
「バックだ!バックしろ!渚!」
「無理っスよ!こんな木だらけのとこでバックなんて出来ないっス!」
「畜生!いいから下がれ!下がれ!下がれェ!」
叫ぶと同時に、火の鳥が大きく口を開けた。そこには、余裕だけが溢れていた。
目の前が、光で飾られた。
「ぎゃああああああああ!」
悲鳴がまた2つ、森に木霊した。
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