下 09


「おいなんだお前ら!どうしてここにいる!誰だ!」

突如、背後より野太い声が投げられる。動物達に気を取られ、完全に警戒を怠っていた。恰幅の良いいかにも手下風の男が小型の銃口をこちらに浴びせ、


「ここは動物園じゃないんだぞ?見学会は終わりだ。何しにきたのか知らないが、手を挙げてもらおう」

隼人はおずおずと手を上にする。


「よし、そのままこっちへ来い」

階段の方面へと一行が促される。


隼人と稲葉が同じ位置で歩幅を進める中、薫は背後で動かなかった。


「おいそこの女、何をやってる?早くこっちに来い!」


「ちょっと足が痛いの。ゆっくり行かせて」

薫が何かを企んでいる。ここは黙って見守るしかない。


「何だとこのアマ!何が足が痛いだ。そんなふざけた事言ってるとな」

すると手下風の男はいきなり稲葉の肩にロックをかけ、銃口を頭に向ける。体格の良い稲葉とはいえ、これには抵抗できない。


「ふふ、そのトリガーをあなたは引けるのかしらね」

薫が挑発をかける。薫は何かをしようとしているのだ。この男の注意を引かなければ。


「一体なんのつもりだ侵入者風情が。いい加減にしろ!」

男が怒号を飛ばすと同時に、隼人がここぞと足を動かした。


「おいそこのお前も動くな!」

男の注意が逸れる。作戦成功だ。隼人は足を止める。


そして薫がその隙に、檻を大きく叩く。驚いて男が目を向けると同時に、地殻を破壊しそうな程の低い声が猛り、檻がガシャンと強烈な音を立てる。


うわっ、と男が尻餅をつく。隼人は獅子奮迅の勢いでスタートダッシュを切った。


「待て!侵入者が逃げたぞ!捕まえろ!」

隼人はまたこの島で走っていた。心臓から全身に血をめぐらせ、隼人は風を切る。左右の景色を瞬く間に流れさせた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る