下 05

一行は思わぬ刺客の登場に驚嘆していた。これも風の扉経由で運んだというのか。運転席に座る男は、東洋人で間違いがなかった。


例の暴力団は、日本では知らない者がいない程の凶悪集団だと聞いた事があった。何でも財力が並大抵では無いらしく、警察も手をこまねいているという。このジープやヘリコプターにも説明がつく。

だが、最近はこの島に活動を集中させているのか、本島では鳴りを潜めており、ワイドショーからも姿を消していた。古川を操ったり、今度は自ら乗り込んだりと、相当この島に執着しているようだ。一体何故そんなにここに執着するかは理解し兼ねるが、稲葉の言うように、彼等も新兵器に餓えているのかもしれない。


「やけに重装備だ」

ジープには、素人目にも分かるような大掛かりな軍装が施されていた。


「島の動物を狩りにいくつもりなのか?」


「分からない。けれど、殺しはしないと思うよ」


「確かにな。だが、生け捕りにしてもな、相手はアレだぞ?あの科学者よろしく返り討ちに遭いそうなもんだがな」


「うん。でも、何か秘策はあるのかもしれない。生半可な準備では無さそうだし」


「まさか上手くいってるって事か?生き物達に遭遇していないのも」

ここまで動物とのエンカウントは無い。恐怖のエンカウントとはいえ、無ければ無いで、気味が悪い。


「とにかく、1ヶ月であの人達がかなり計画を着々と進めている事は言える」


「珍獣パークでも開くつもりか?」

稲葉が嘲笑する。

「あながち可能性は無くはないかもですよ。ここの動物達の利用価値は無限大ですから」

自分でリアリストを名乗るだけあって、稲葉なりに合理的にものを考えているのだろうか。

様々な考察を含ませたジープは、そのまま過ぎ去って行った。



「ジープは研究所から来てるよね。てことは、こっちが研究所へと向かう道じゃない?」

やはり薫は観察眼に優れている。


「しかし、よく考えたらこんな木だらけの場所をよく大きなジープが通過していけるものだな」

ジープの通った道は、偶然か図ってかは定かではないが、ギリギリ通れる程の道のりにはなっていた。


「言われてみれば。科学者が作っていたルートなのかな。でもこの道を辿れば、間違いなさそう」

薫と隼人は、互いに目配せした。


「名探偵ご夫妻だことで」

稲葉がまた嘲った。

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