下 02
「一体なんの冗談ですか!?あの島にまた行けだなんて…!」
隼人は眉を顰めた。
「勿論、無茶な事を言っているのは重々です。しかし…」
そう申し訳なさそうに言うのは、フラット・ヘリコプター社の英雄、川崎の弟子を名乗る男。
「実は、我社で1ヶ月ほど前に社長である渡辺が、暴力団の連中により、スロットと共に連れ去られました」
「渡辺さんが!?」
「ええ、恐らく奴らの狙いは、あの島でしょう。元々、あの島を狙っていた主犯と聞きましたからね」
「ちょっと待ってください。なんで貴方がそれを知っているんですか?」
「それは、僕が川崎の弟子だから、です。師匠の思いを継ぐ者として、渡辺さんが教えてくださったんです。まあ皮肉にも、僕は例の事件の時は、出張でいなかった訳ですが」
確かに川崎は偉大な人間だ。慕う者が出てきても違和感は無い。
「川崎さんの事は、非常に残念です」
「ええ、師匠は偉大な人でした」
それは、隼人にも理解できた。
「だからこそ、彼の意志を継ぐ者として、何とか今回の件を解決しようと思索してきたんですよ。しかし、限界があった。なにせあの島はそもそもスロットが無ければ入ることすら出来ない。それ以外なら、スカイダイビングしか」
「まさか自分1人で出来ないからって、俺達にそれをやれ、だなんて言うんじゃないでしょうね」
「その、まさかです」
「そんなの…俺達は確かに渡辺さんには感謝してもしきれない程、恩があります。川崎さんにだって。でも、俺達はあの島で、とんでもない事になったんですよ?」
「それは、勿論承知の上です。ですが、一ヶ月以上考えあぐねましたが、僕には、貴方達にしか行ってもらえるような人が思い当たりませんでした」
「そんな事言われても…俺達はレスキュー隊員かなにかじゃないんですよ?」
「あの島は、そもそも存在を知られてはいけないんですよね。ですから、警察、救急隊をはじめ、我社の社員にすら、頼む事は出来ないのです」
「事態を把握している俺達にしか、頼めない、と…」
「ええ、そうなんです。勿論、断って貰っても構いません。ですが、段取りはそこまで難儀ではありません」
「ほぉ、どのような?」
「もちろん、貴方達2人だけには行かせません。事情を伝えても問題の無い我社の専属秘書に同行をさせます。目的は、渡辺社長の救出です。行きは、ヘリコプターよりスカイダイビングをして頂き、帰りは、社長にスロットを運転させて下さい」
「救出って言われても…島には暴力団が構えているんですよね?」
「ええ、目的は不明ですが。極力、救出作業に関しては秘書にさせます。こちらはあくまでもヘリコプター会社ですから、武装はできませんので。2人にメインでやって頂くのは、島の案内になります」
「そんな段取りを進められても…」
「隼人、私はやるよ、この話」
今まで口を開いていなかった薫が断言する。
「ちょっと待てよ薫、そんな簡単な事じゃないんだぞ?」
「そんなの分かってる。でも、私達は川崎さん、そして渡辺さんに助けられたんでしょ?ここで渡辺さんを見殺しにするなんて、私には出来ないよ。私一人だけでも、絶対に行くよ」
「薫…俺は反対したからな。全く。分かりました、行きますよ、お弟子さん」
「そう言ってくれると思っていました。本当に有難うございます。さて、準備を始めましょう」
弟子が笑みを浮かべ、隼人は肩を落とした。
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