上 19

「それにしても災難だったな、君達」

ようやく落ち着いた島の帰り道、渡辺と呼ばれるその男が言った。


「ええ、全くです。そういえば、渡辺さん、どうしてここに?」


「ああ、屋上で暴れ回った後、俺は警察に連絡をしようかと考えた。だが、俺はそれ以上に、川崎が大切だったんだろうな。俺はあの後、管制室に向かったんだ」

渡辺がしみじみと言う。


「それはつまり…?」


「スロットはあくまでフラットの物。試作段階とはいえ、管制室と連携していたんだ。だから、スロットの動向を追えた」

渡辺はゆったりと語る。


「無線も聞こえるんだが、最初は無線は切られていた。それでも、俺は粘り強く川崎を信じて、スロットの動きを確認していた。すると、突然無線がONになったかと思うと、女の雄叫びが聞こえてきたんだ」


「雄叫び?」


「ああ、恐らく君と一緒にいたあの女だろう」


「川崎さんは助けを求めたんですか?」


「いや。直接は言ってない。だが、女の話をよく聞いていると、徐々に掴めてきた。あの島は我々の調査対象であるし、大方内容も掴めた。現に、あんな鮫を見たわけだしな」


「ええ、あの島は異常です」


「間違いないな。まあともかく、そんなこんなで、川崎は最後はその付き添いの女にヘリを丸ごと爆破されちまったんだ」


「ええっ!?古川さんが…!」


「事情は詳しく知らんがな。だが、あいつは最後に島にはまだあんたらがいるんだと大きな声で叫んだんだ」


「川崎さん…」


「あいつはどこまでも偉大で、本当に勇敢な男だった」

そう言う渡辺の目はどこか離れていた。


「そこで君達に相談なんだが、あの島であった事は、伏せておかないか?」


「え?」


「あの島のおかしな生き物達は世間に知れ渡れば間違い無く、今回のような企みを図る者が現れ、犠牲を生むだろう。俺は、川崎の死を無駄にしない為にも、そんな事が起きてはならないと思うんだ」


「確かに、その通りですね」


「賛成して貰えて嬉しいよ。そういう事なら、後は俺に任せてくれ。始末はつけておく」

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