上 17
「正気かよ…」
隼人も薫も唖然としていた。周りにいた部下達は一溜りもないだろう。そして、紅蓮の鳥は火の粉を散らして、華麗に木々を潜り抜けていった。
「まさか、あれが火を吐いただなんて、ことは、ないよな…?」
「気付いたでしょ、隼人。ここはそういう島なの。とにかく、早くここから逃げなきゃ」
薫はそう言って、立ち尽くしている隼人の手を引き、森の方へと進まんとする。その時、ガサガサという音ともに、何かの気配を感じる。
「動くな!貴様ら!」
現れたのは、薄汚れた白衣を着たあの男。拳銃と思しき黒塊を差し出している。
「何よ今更!もう貴方の計画は全て終わり、見て分からない?」
「うるさい!お前らも道連れだ!元はと言えばお前らさえ来なければ…!俺の部下まで…クソっ!」
黒い靴が、地面を強く蹴りあげる。飛び散った土が、風に靡く。
気配は、まだ消えていなかった。また、何かが来る。その気配には、異様な既視感があった。足が突放したような痛みを覚える。薫だけが気づいていた。
グォオオオオ…
圧倒的な風格を見せつける威嚇音。弱者の無駄な咆哮ではない。まさに、王。この島を司る番人。
「なんだ!?あの虎は!?」
隼人が慌てて逃げ出そうとする。
「駄目!動くと余計に危険よ!」
恐怖の虎は決して獲物を逃がさない。しかし、虎の目が見たのは黄金色の朝焼けが反射した、焦げ模様の白衣だった。
「お、おい!まさか俺を狩ろうってんじゃねえょな?俺はお前を作った親だぞ、な?」
虎を律するようなジェスチャーをしながら、白衣のボスが後退りする。
「ほら!やっちまえ!標的は俺じゃねえ!馬鹿野郎!あの二人だ!」
目を逸らすように促す白衣のボス。王は、ギラギラとした目を逃がさない。
「クソォ!俺の計画は完璧だったのに…!なんでこんな奴らがコントロールできねぇんだ…!畜生!来るな!来るな!来るな!やめろ!」
煩く喚く蝿を他所にゆっくりと距離を詰めていく虎は、余裕の表情だ。
薫は、白衣のボスが哀れでならなかった。どうしてここまで愚劣なのだろうか。恐怖の動物を作る技術はあっても、生命のパワーを舐め過ぎている。
薫は見た。
襲い来る鳥。
巨大な虎。
空飛ぶサメ。
電気ガエル。
喋る熊。
技術によりコントロールされたハズの彼らは皆、活き活きと戦い、生命の輝きを失っていなかった。AIやロボットがどれだけ発達しても決して真似出来ない、生命の輝き。人間には太刀打ちできない、輝き。愚かな白衣達はそれを兵器として扱う。人間はいつでも支配をしようとする。
そして、そのような人間は従っている者の目がギラギラと光っている事に気が付かない。
さよなら、愚劣。
「うぎゃぁぁぁぁああああ!」
悲鳴が、静かに木霊した。
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